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はじまりのはなし その1

 女子高——それは女の醜い欲望や嫉妬が渦巻く魔境……などではなくとても平和な場所でした。


 私、浜岡 麻衣(はまおか まい)が編入する女子高『私立桜ヶ丘学園女子高等学校』は、全校生徒が四十人にも満たない小さな学校。しかし、聞けば創立百年を超える歴史ある学校でもある。


 転校初日の朝。私の心の中は新しい学校への期待と不安が入り混じっていた。割合で言えば期待二割の不安八割というところかな。不安の理由は大きく2つ。

 1つ目は小さい頃から病弱で友達ができず絵ばかり描いてきた私はとにかくコミュニケーション能力が低い。新しい環境で友達が出来るのかと考えるとそれだけでお腹が痛くなってくる気がする程度には苦手意識がある。

 そしてもう1つの不安の理由は、今日から通う学校が女子高だから。これが正直一番の理由だと思う。ドラマや漫画で見る女子高は基本的にリーダー格のいじめっ子がクラスのトップにいて、私のようなザ・陰キャ女子はイジメやカツアゲの格好の的。私が何か粗相をすればきっと一瞬で餌食になること間違いなしなのだ。

 そもそも、女しかいない空間というのはネチネチジメジメとした陰鬱な空気感が漂っているものだろう。何それ怖い。

 とにかく目立たず、平穏無事に高校生活を送れるよう頑張らなくてはいけないんだ……


 学校に着いたらまずは職員室へ来てください。と事前に言われていたから、職員室に向かう。編入試験や諸々の手続きの為に何度か足を運んでいるから職員室には迷わず行くことが出来た。

 覚えていて良かった。ここで忘れてたら誰かに聞く事になっていただろうし、私グッジョブ!


 しかし、職員室に着いたからといって安心してはいけない。何故なら陰キャにとって、職員室に入るという行為自体が高いハードルだから。しっかり深呼吸をして、震える手でドアを叩くと、入室の許可があり、ドアを開いた。


「し、失礼します……今日からお世話になる、は、浜岡です」


 少々吃りながらも、なんとか名前を告げると若くて綺麗な先生が私の元にやってきた。


「浜岡さんが入るクラスの担任になります、鈴城 葉子(すずしろ ようこ)です。浜岡さんの紹介は朝のホームルームの時間にするから、それまでは教室にいてもらおうかな。案内するからついてきて」


 そう言って教室へと歩いていく鈴城先生。


 ん? いやいや、いきなり教室待機ですか! こういうのって、漫画とかだと先生と一緒に教室行ってそのまま自己紹介とかじゃないの。今私が教室で座ってたら、知らない女が教室にいるってなって好奇の目でジロジロと見られるんじゃないですかね。

 もちろん、こんな心の葛藤を先生に伝えられる訳はなく私は黙って先生の後ろをついて行くしかなかった。


 「ここが2年生の教室ね。席は特に決まってないから好きなところに座っていていいですよ」


 それだけ告げて職員室に戻る鈴城先生。あぁ無情……。

 いつまでも入り口で突っ立っているわけにはいかないし、しぶしぶ教室へ入る。ていうか入口1つしかないの珍しい気がする。これも古い学校だからなのかな。

 

 教室を見渡すと横4列、縦3列に机が並んでいた。少人数だとは聞いていたけれど机の数に改めて生徒が少ないんだと実感する。


 教室にはまだ誰も来ていないみたいなので、とりあえず1番後ろの端。入口から1番遠い席に座った。


 「はぁーー」


 誰もいない教室で1人。少しだけ肩の力が抜け、口から息が盛れた。特にやることもないとなれば、私がすることは1つ。

 スクールバッグの仲から愛用のA4サイズのスケッチブックと筆箱を取りだしイラストを描く。


 好きなゲームのキャラクターを描くことを決めたら、構図を考えながらアタリを取って描いていく。


 それから数分?十数分ほどだろうか?完成では無いけれどある程度の下書きが出来たところでペンを置き顔を上げる。

 

  「うわっ」


 なんと目の前にクールめの女の子が1人立って私のことを見ていた。全く気が付かなかった……

 話しかけられたりしてないよね?無視したって思われてたらどうしよう。登校初日でもしかしてやらかしたの私。


 パニックになって何も言えずにいると目の前の女の子が口を開いた。


 「絵、上手いね」

 少し低めの落ち着いた声だった。


 「あ、ありがとうございますっ」

 急にイラストを褒められ、慣れていない私はつっかかりながらお礼を言うのが精一杯だった。女の子はそんなことは気にしてないのか会話を続けてくれた。


 「もしかして、転校生?」


 「う、うん。今日からここの2年生になります」


 そう告げると、女の子が微笑んだ。

 え、美少女……クールな見た目の子の微笑みは破壊力満点だった。多分私少し赤くなってると思う。


 「同じクラスの浦上涼花(うらかみ すずか)

 自己紹介をされたことで、相手が敵では無いと理解できたのか少し冷静に相手を観察できた。涼花ちゃんは暗めの茶髪で、髪は肩につかない位の長さのボブ。タレ目だけど少しクールな感じがするキレイめの女の子。


 自己紹介されたのでこちらからもと、私も自己紹介をする。

 

 「私は、浜岡麻衣です」


 「ん、麻衣ね。良かったら友達になろう」



 「よろしくお願いします」

 

 おぉ……いきなり呼び捨て!この人絶対コミュ強の人じゃん。てか、友達になろうだって!優しさの権化か?それとも女神?何も考えずOK出しちゃったよ私。いや、断る理由なんて1つもないんだけどね。

 もう友達できるとか、私もコミュ強の仲間入りかもしれん。


 そう思っていた時代が私にもありました。一瞬だけ。


 だんだんと近づいてくる複数の足音と声。

 恐らく他のクラスメイトが登校してきたのだろう。一気に緊張感が増して肩に力が入る。

 コミュ強になんてなってなかった。全然人怖い。



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