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9.



目を覚ますと見知った部屋だった。

ここはリカルドに与えられた、屋敷の中の一室でルーシェの部屋だ。

意識が途切れる前までは人生で初めての華やかな場所に居たというのに今はベットの上で横になっている。


「んっ…」

一つ身じろぎをすると左手に重みと温もりを感じる。


「ルーシェ。目を覚ましたのか?」

手を握っていてくれたのはリカルドだった。彼が付き添ってくれていた。それだけで満たされる。


「パーティーは? ……ごめんなさい」

「問題ないよ。みんな仲間だからな。ローランドに適当に任せてもう終わったよ」

「…、終わったの?」

「あぁ」


リカルドは汗で額に張り付いてしまった前髪を横へと避けて、おでこを素手で拭ってくれる。


「体調は?」

「ん、もう大丈夫」

「驚いた…」

リカルドが俯いたルーシェの顔を上げさせて

「次からは少しでも体調に不安を感じたら、すぐにでも言って欲しい。無理をさせたくない」

「うん。有難う」


頭を撫でると肩をそっと抱き寄せ自分の胸へとルーシェを抱える。後ろに手を伸ばすといくつか枕を積み重ね、背もたれを作ってくれた。


「少し話を聞いても?」

「うん。大丈夫」

「倒れる前に誰と居た?」

「…リックって人」

「……。リックか。 じゃ、これはリックの連絡先って事でいいのかな?」


体を離すとぴらりと一枚の紙を取り出す。

そこには住所が書かれていた。


「それは…、住所? 誰の? そんな物を私にくれて、どうするの?」

ルーシェには全く見当もつかない。


「ルーシェが知らなくて当たり前さ。 これは逢引の誘いだ。この住所に来てくれ。とか、手紙をくれって事だな」

「えぇっ!! なんで? 知らない人なのに!? ……あぁ、同じ人間だしわからない事があったら訪ねてくださいって言ってたから…かも。 親切な人なのかな?」


リカルドの目に怒りの火が灯る。


「余計なお世話だ。 なぁ。リックが話しかけて来た流れをすべて始めから説明してくれないか?」

ルーシェは身をすくめて「はい」と返事をした。


事細かく、すべて説明をする。

リックが来たこと。手の甲にキスをされたこと。挨拶とわかっていたが相手がリカルドじゃないので嫌だったこと。そして、リザベルの話を聞いたと説明する。

手紙も大事に取っておいたわけでは無く、しまう所が無かったから手袋の中に入れただけだと話すが、リカルドはそれよりも引っ掛かった説明があったらしい。


「…手の甲にキス?」

その低い声に体がびくっとしてしまう。


リカルドは、とりあえずリザベルの事を置いといてまずはリックの事から話させてくれと伝える。


「獣人は相手の匂いが付く事を嫌うからな。まず手にキスは挨拶でもしない。それに人間のマナーだって今時むやみに女性の体に触れる行為はしないんだよ。リックのやろう! ぶっ殺す!!」


手に持っていた住所の紙をぐしゃりと握りつぶし、ルーシェがいる方とは逆に向かって独り言を始める。



いつの時代の貴族だよ!?

ただ下心のキスしたかっただけだろ? 俺の番に手を出すなんて獣人なら、まずありえない! そんな死にたがりな奴はこの国にはいないからな。本能でわかんだろ? くそったれ!!!



くるりと振り向いたリカルドと目が合えば、目が座っている。

(こ、怖い!!)


「はぁーーー…、 んで、リザベルだが、俺は彼女を招待していない。誰かのパートナーとして潜り込んだんだろうがこれは調査する。リザベルと席を外したことは本当に申し訳ない。しかし疚しい事は一つもないよ、俺達の関係は終わってるんだ。俺が仕事ばかりで彼女に浮気されて振られて終了だ。だが、他人からそんな話を聞いたら嫌だったよな。…すまん」


リカルド程の美丈夫だ。

女性達に人気があるのは当たり前だし、深い関係の女性がいたのも理解は出来る。

だが、好きな相手の過去は気になるくせに進んで聞きたいわけではない。

知りたいけど知りたくない。

矛盾しているのだ。

「うん」と返事をするが口元が引き攣った。

それを見逃す彼ではない。


「ルーシェが最後だ。俺にはルーシェだけ居ればいい」


そっと引き寄せられ抱き合えば、大きく息を吸われる。

「はぁ…。ルーシェの香りは俺を狂わせる。 好きだよ。俺のルーシェ」


香りだけ?

番というものに惑わされてるだけじゃなくて?本当に私が好きなの?

人間である、ルーシェには番と言われてもピンとこない。


突然両手を握られて「……、どっち?」と聞かれる。

何の事かと首をかしげると「リックにキスされたのは、どっち?」と再び聞かれた。

手袋をしているので素肌に唇は振れていないと伝えても「いいから、どっち!?」と、答えるまで確認するつもりのようだ。


「こっち」

左手を持ち上げると、ギュッと握られリカルドは自分のシャツの袖でごしごしと拭き始めた。


「い、いだだだだだぁー」

「我慢して!」

「力、つよっ!」

「これでいいかな?」

「良くない!!」


すっかり赤くなってひりひりする。

涙目でジロリと睨むとクスッと笑って手の甲にキスをして来た。


ちゅ、ちゅ…、くちゅ。


だんだんと唇が上に上がってくる。手の甲、手首、腕と順に触れ、夜着をめくり二の腕の柔い所へと這い上がってくる。


「ちょ、ちょっと! そんな所、キスされてない」


リカルドの動きが止まった。

「当たり前だろ!? こんな所までキスしてたら今すぐ奴の所へ行ってブッ飛ばしてやる!!」


ぐっと腰を引き寄せられ、至近距離で見つめ合う。

「俺はルーシェの事が大切なんだ。誰にも触らせたくない」

リカルドの胸に両手をそっと添える。それはまるっと自分の台詞でもある。

「私も…、リカルドさんが、大切なの」


彼に抱きしめられれば腕の中にすっぽり収まってしまう。

そんな体格差にでさえどきどきしてしまう。引き締まった体は自分のとは違う。

(この腕の中にいるのが一番安心出来る…)


抱きしめる手に力を入れれば、リカルドもそれに答えてくれる。

するとルーシェを抱きしめたまま、背もたれにしていた枕を外しベットの下へ落とした。

自分の上に覆いかぶさるリカルドを見上げ、一瞬にして顔が赤くなる。


「あ、あの…、りかる…」

名前を呼び終わる前に唇が塞がれる。強く押し当てられ、軽く吸われると驚きで薄く口を開く。すると直ぐにリカルドの舌が入って来た。


「んっ、…う、ん。 はぁっ」


身動きを取ろうにも圧し掛かるリカルドが重く動けない。

とんとん、と胸元を叩くが両手を取られベットに押し付けられキスを繰り替えされる。


はぁ、


息を一つ吐き出すとリカルドは唇を離した。


「ルーシェ。俺の可愛い番。君を愛したくてたまらない。だが、怖がらせたいわけではないからな。今日はキスだけで我慢するよ」


そう言うと再び、キスの雨が顔中に落ちてくる。

とろりと蕩けた顔で見つめれば、ふっとリカルドが笑う。


「やらしい顔…」


ちゅと触れるだけのキスをすれば、つぅっと唇が首をすべり

夜着を軽く下げれば胸元に温かいそれが触れた。


「あ、あの、リカルドさん?」


彼がじゅっと吸えば、ちくりとその場が痛む。

目をちかちかさせていると自分の上に乗った重さが遠のいた。

すっと温もりが遠ざかり、寂しいと感じる。


「これ以上は止められる自信がないからな。今日はもう行くよ。 まだ朝には早いから、ゆっくり寝な」


そういうとベットから離れ、部屋から出て行ってしまった。



「〜〜〜、寝れるわけないじゃない!!」









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