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8.



少し長めになってしまいました。

切りが良い所、と思って書いているので毎回文章の長さが違って申し訳ございません~






「さ、お二人共  もう一度始めから」



にっこりと微笑み、眼鏡をくいっと持ち上げ話す人物。

白髪混じりで眼鏡の奥には年相応の皺。

少しふっくらした体型で物腰柔らかそうなロブレン家の執事、ルドルフ・アーリア。

彼は、見た目に反して………


厳しい!!


もうリカルドと二人で6回も続けてダンスを踊っている。

リカルドは覚えるのが早いのだが、人生で初ダンスとなるルーシェはステップを中々覚えられないでいた。


「ルーシェ、次踊ったら終わりにしよう」

「……はい」


ダンスは楽しい。音楽に合わせてリカルドと踊ると二人の仲もぐっと深まる気がする。

しかし体も細く運動らしい運動を今までしてこなかったルーシェは体力が少ない。

ステップを覚える練習から始まって、通しを何回もやるとくたくたになってしまう。


突然、思いつきで決定したパーティーはリカルドの部隊に所属する貴族を招いて開催される内輪の集まりとなった。

ルーシェが雰囲気に慣れるため。とは言っているが一番は部下への紹介もある。


急に決まった為、とりあえず恥ずかしくない程度のマナーとダンスを数曲覚えれば合格にしましょうとルドルフからの提案だった。

多忙なリカルドは隙間時間を作ってはダンスのレッスンに付き合ってくれた。




そして迎えた当日。




「内輪ってお話しでしたよね?」


白のドレスを身に纏ったルーシェは右手をリカルドに預け、スカートを後ろから侍女に持って貰い廊下を歩いていた。


ふわりと広がるスカートには金の刺繍で花が散りばめられ、ウエストには金のオーガンジーで作られた薔薇が一輪取り付けられている。

彼女を飾る宝飾はホワイトゴールドにダイヤ。

金とシルバーはリカルドの色だった。


向かった先は会場となる広いホール。

来る人達に挨拶を済ませ、今まさに始まろうとしている。

こっそり覗き込めば、人、人、人…。

たくさんの着飾った人達が溢れ、楽しそうに談笑している。

獣人だけではなく人間やエルフも参加していた。リカルドは少し外すからここで待機しててくれと言って離れてしまった。

そう言えば…。


「ルドルフさん。 リカルド様は人型を取っている時は人間にしか見えないです。それに獣型の時は狼そのものですし…。ですが、他の皆さんは獣人らしく尻尾や耳など特徴を残されている方もいらっしゃいますね。 あ、ルドルフさんも人間にしか見えない人ですよね」


隣に立っていたルドルフに疑問を投げた。

すると、ルドルフは一つ頷き


「そうですね。これは血の濃さと言うか…。より強い獣人は人型も獣型も自在に成れる。一般には獣人の特徴が見た目で分かる方が多いんですよ。そちらが普通です。リカルド様は本当にお強い…。先祖返りなのです」

だから獣人達からは憧れの的なのだと続ける。


一緒に居れば居る程好きになる。

揶揄ってくる事も多いが、大切にしてくれるし優しくしてくれる。これで好きにならない女性はいないだろう。

だが知れば知るほど、こんなに素敵な人の番が自分なんかで良いのだろうか。と不安に襲われる。自分より魅力的な女性は星の数ほどいるのに、何も持たない自分なんかで良いのだろうか…。

だからと言って、もう他の人にリカルドを渡せない程には好きになってしまった。


彼に見合う自分になろう。

ルーシェは深呼吸をしてリカルドが戻るのを待った。




「リカルド隊長。ルーシェさん。この度はお招き有難うございます」

「急に悪いな。来てくれて嬉しいよ」

相手の肩を叩きながらも、リカルドは満面の笑みで答える。よっぽどこの人物が好きなのだろう。


「ルーシェ、こいつは俺の部隊の副隊長をしているローランド・セルヴィオだ。鷲獣人で頼りになる男だよ。 こちらは婚約者でアリサ・マクビティー。ウサギの獣人だ」


「初めまして、ルーシェ・リンレです。宜しくお願い致します」

習いたてのカーテシーをぎこちなくする。

リカルドをちらりと見ると「良く出来ました」とばかりに背中をぽんぽんと撫でられた。


「リカルド隊長から噂は聞いていますよ。彼の命を救ってくれて本当に有難う。第一部隊を代表してお礼を言わせて欲しい」


ローランドが頭を下げるので、ルーシェは慌てて両手を振って「とんでもありません」と言って自身も深々と頭を下げる。


「いや、正直あの傷を負って川に飛び込むのは無謀だった。だけど、あの時はそれが最善に思えたんだよな。 ルーシェが居なかったら血を流し過ぎて死んでたのは間違いない。本当に感謝してる」


リカルドまでお礼を言い始め、困ってしまう。

「あれは小鳥が呼びに来てくれたから…。お礼なら小鳥に…、って言うか森に?」


「あ、そうだ。 ローランド。ルーシェは【森の愛し子】なんだ。俺が付いてるから危険に晒さないように気を付けるが、そのつもりで頼む」


ローランドは息を飲み、はっとする。


「リカルド隊長の番で、森の愛し子…。最強ですね…」

「だろ?」


どういう事だろう?

こてんと首を傾げて二人を見る。

するとアリサが教えてくれる。


「愛し子は滅多に現れないのですが…。 ルーシェさんの場合は森ですね。とても森から大切に思われ守ってくれるのでルーシェさんが居る国は繁栄します。

森なので空気も良くなり、土壌が豊で作物は栄養たっぷりに育つようになります。そして木々も増えるでしょう。ただ、ルーシェさんを不当に扱うと森から厳しい制裁を受けますし、国が滅びる可能性もあります」


ルーシェは初めて知る事実に驚きを隠せない。

確かに4年前、近隣の村の青年達が襲って来た時に森が助けてくれた。その時なんと言っていただろうか?「…禍が、禍が」と言っていた。

自分を助ける為に言ってくれただけだと思っていたが、あれは本気だったのか!?


「だ、大丈夫ですよ? 森はそんな事、絶対にしません。それにこの国の皆さんはとても優しいです」


自信たっぷりで答えるルーシェを3人は幼子を見るように見つめる。

21歳の年齢とは思えない程、ルーシェは可愛らしい。


「まぁ、ルーシェさんを不当に扱ったらリカルド隊長に滅ぼされそうですけどね」

「当たり前だ」

「ほらね。怖い」


4人は声を上げて笑った。



パーティーも終盤に差し掛かった頃、リカルドが真剣な表情で一点を見つめていた。

そしてルーシェにここに居るように伝えるとその場を外してしまう。


何の気なしにリカルドの後を目で追っていると、一人の美しい女性に声を掛けた。

金の髪を結い上げ、真紅のドレスを身に纏う女性は妖艶で美しい。

女性の自分から見てもその色気に酔ってしまいそうな程…。


遠くて声は聞こえないが彼女が手を差し出すとリカルドがそれを握る。くびれた腰に手を添えバルコニーへと促し、二人で出て行ってしまった。


(えっ? あの人は誰?)


挨拶をした時にあんなに綺麗な人は居ただろうか?

心臓がぎゅっと痛くなる。

遠目から見ても二人は絵になる美しさだった。


(ちょっとなら良いかしら…)


バルコニーを覗きに行こうか迷う。しかし、もし望まない現場を見てしまったら…。

不安に思っているといつの間にか自分の隣に一人の男性が立っていた。


「二人が気になる?」

「えっ?」

「僕はリカルド隊長の部隊のリックと申します」


男はリックと名乗り、ルーシェの手を取りキスを一つ落とす。

慌てて、手を引っ込めると「ご挨拶ですよ」と微笑んだ。


「彼女はリザベラと言いまして人間です。リカルド隊長とは一年くらいお付き合いしていた女性ですよ」

「一年…。  お付き合い…」

「いや~。それにしても美しいですよねぇ…。あんな妖艶で美しい人となんて羨ましい限りです。とても仲が良くて当時は何で別れたのか理解出来なかった」


ヂリッと胸が痛む。

一年もお付き合いしていたのなら、二人は深い関係なのだろう。

なぜ別れたのだろうか…。

比べるまでもなく自分よりリザベラの方がリカルドの隣に立って違和感がない。


「ルーシェさん、人間でしょ? 僕も人間なんです。この国は獣人の国ですからね。人間の知り合いも必要でしょうから、何かわからない事があったら訪ねてください。僕が知っている事なら何でもお教え致しますよ」


と言って小さな紙切れを手渡し、去って行った。

とりあえず保管する場所が無いので、手袋の中に入れる。


つい先程まで自分の隣にはリカルドが居て初めてのキラキラ輝く世界で楽しい気分だったのに、あっと言う間にどす黒い感情に飲み込まれてしまった。


あれだけ素敵なリカルドだ。

25歳と言う年齢を考えてもお付き合いをしていた女性が居て当たり前だ。

それは理解していたが、実際間の辺りにすると気持ちが大きく塞ぎ込む。


息が苦しい。

落ち着け、落ち着け…。

焦れば、焦る程、呼吸が息苦しくなる。


慣れないヒールに足が痛い。

ドレスを美しく着こなす為に締め付けたドレスは苦しい。

はぁ、はぁ、はぁ…。

ルーシェはその場で意識を手放した。




****************************




ルーシェを思って用意したパーティー用のドレスは独占欲が丸出しだった。

白を基調としたドレスに俺の瞳の色の金で刺繍を入れさせて薔薇の飾りも金にした。

勿論、アクセサリーはダイヤとホワイトゴールド。銀を使うと安くなるので、別の物でシルバー色を出し、俺の髪の色をアピールした。


ルーシェは俺のもんだ。

俺の唯一、俺の番。


本来なら誰にも見せたくないのだが、それではルーシェが可哀想だから。

まずは自分の部隊の人間で多くの人に慣れて欲しい。


なんて、数分前の俺は思っていたさ…。


ドレスを着込んだルーシェを見たら、まさに地上に舞い降りた天使か、妖精か…。

透き通るような白いうなじに桃色の後れ毛がそそる。その髪をそっと避けて、白いうなじに齧り付きたい。


それに何だ!?

あんなに胸元を開けたら俺じゃない男だって釘付けになっちまうだろ?って俺かぁー。

あのドレス、選んだの俺だよ~。


自分の好みで選んで、うっかり他の男の事なんて忘れちまったんだよなぁ~。

後悔しかない。

本当に閉じ込めて俺一人で眺めていたい。



いよいよ二人並んで会場に入ろう、という所で覚えのある女性が視界に入った。

彼女の事は招待していない。

騒ぎになる前に少し話をしようとルーシェを待たせて女性の方へと向かった。


「リザベラ。 ここで何をしているんだ?」

「リカルド!! あなたが番を見つけたと聞いて、じっとしていられなくて…」


女性は涙を溜めて縋り付くように体を寄せて来た。

いつもの事だ。


「リザベラ。とにかく今日は帰ってくれ」


近くに居た使用人に彼女を外へ案内するよう告げるとルーシェの所へ戻った。


「お帰りなさい」

ルーシェの笑顔を見た途端に胸にあった(もや)がすっと消え失せた。

「あぁ。行こう」

ルーシェの手を取って扉を開ける。



ルーシェとは予定通り、3回続けてダンスを踊った。

途中何度か足を踏まれたが周りにばれなければ問題ないだろう。

踏んだ後はルーシェのステップが乱れるが、ドレスで見えないだろうから修正が出来る箇所までリカルドが持ち上げ宙に浮かせた。


パーティーも終盤になり無事終わるだろうと思われたが、再び視界に真紅のドレスが目に入る。


(あれは…、リザベラ。 まさか、ルーシェに何かするつもりか!?)


着飾って愛らしいルーシェを一人置いて行くのは気が引けるが、はっきり言わないと分からないから話を付けようとその場から離れる。


「リザベラ」

「リカルド!どうしても話がしたくて…」

彼女が寄り添うつもりか、手を伸してきたので阻止するべく手を握る。

「わかった。こっちに行こう」

踏ん張られてホールに居座られても迷惑なので、腰を取ってバルコニーへと促す。


「リカルド。私、どうしてもあなたを忘れられないの」

「俺達はとっくに終わってるだろ? それも振られたのは俺だ」


そう。振られたのはリカルドの方。

毎回の事だが、仕事を優先し過ぎて会えないリカルドは振られてしまう。

リザベラの時だってそうだった。

一年付き合ったと言っても余り会えていない。

リカルドなりに大切にしていたつもりだが、やはり仕事を優先してしまって他に男が出来たので分かれて欲しいと言われたのだ。


唯一無二と出会った今、ルーシェ相手だったら考えられない事だが、今までのリカルドは去る者は追わないタイプ。

すんなり受け入れ、綺麗に別れたはずだった。だが、その後もリザベラはリカルドに寄りを戻したいと言って来る事がある。

リカルドが伯爵になってから…。


「あなたと別れて、思い知ったのよ。 あなたほど魅力的な男性は居ないって」


「それは有難うよ。だが、復縁はない。 俺には唯一無二の番がいる。 決して他の女が入り込む隙間は俺にはない。 それに俺じゃなくてもリザベラなら選びたい放題だろ?」


リザベラは涙を流し、リカルドの逞しい胸へと顔を埋める。

「リカルド…。 あなたを愛してるの」

そっとリザベラの肩を掴むと自分から離し、顔を覗き込む。


「悪いな…。 俺の事は忘れてくれ」

そして自分からリザベラを遠ざけると、ホールの方から悲鳴が上がって騒がしくなった。


慌てて戻ると人垣の隙間に見覚えのあるドレスがある。

だがその位置がおかしい。

床に横たわっていた。


慌てて駆け寄ると、青い顔をして倒れたルーシェが横たわっていた。







もし、宜しければ

『☆☆☆☆☆』を押して頂けるとヤル気が満ち溢れます。


お手間ですが宜しくお願い致します!!

m(_ _)m

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