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6.



久々の投稿となってしまいました。

宜しくお願い致します!!!








――ルーシェとリカルドがラスタ王国へ向かう事を決め出立した日、一つの森が一夜にして地上から姿を消した。そして死神が忍びよるが如く、近隣にあった村も滅び行く国の流れに飲み込まれていったのであった――





「わぁっ…! 凄い!!」


ルーシェとリカルドを乗せた馬車はラスタ王国の城下町を走っていた。

窓から見える街の景色にルーシェは感嘆の声を上げる。


今まで森と近隣にある村しか知らないルーシェにとって目に飛び込む街の色は鮮やかで刺激的だった。

所狭しと並んだ屋台の果物や野菜、花の色、視線を上げれば隣の建物とロープで繋ぎ、旗のように風になびく色彩豊かな洗濯物。

一番ルーシェを驚かせたのは人々が持つ色の違い。

赤い髪や水色の髪、肌の色も違うし瞳の色も違う。リカルドが言っていたように同じ色を探す方が難しいほど個性豊かな人々にルーシェの胸が弾んだ。


「ルーシェ。俺の屋敷にはまだ遠いんだが、ここで降りて買い物でもしようか」


振り向くと、斜め前の一番遠くに座るリカルドが優しく微笑む。

森を出た時には隣に座っていたのだが、本人曰く「こんな狭い場所で何日間もの移動を番の匂いに逆らえる獣人は居ない!!」との事で移動手段である馬車の中では毎度距離を取り、小窓を開けて常に換気をされた。

だが、そうされると自分がとても臭いものになったような気がして苦笑いをするしかない。


「嬉しい! 早く降りて街を見たいわ」


「じゃ、荷物だけ先に送って貰って俺達はここで降ろして貰おう」

そう言うと御者窓をコンコンとノックし、途中下車を告げる。

二人は広場に移動するとそこで馬車を止めて貰った。

リカルドが先に降りるとルーシェの手を取り降ろしてくれる。


「わぁー!! なんて綺麗なの! 広場も大きいし、噴水もあるわ! 真っ白なタイルで舗装された道も素敵。 それに音楽を奏でてる人達も居るし、なんだか美味しそうな香りまでする!」


ルーシェは初めて見るものばかりでどこから散策すれば良いか迷ってしまうほどだった。

すると隣から豪快に笑う声がする。


「ルーシェ、逃げないから落ち着け。…そうだなぁ、まずは何か食うか」


「そうね。美味しそうな香りがしたらお腹が空いてきちゃった」

この香りはどこからするの?と思いキョロキョロ辺りを見回していると再び笑い声がする。


「可愛いルーシェ。迷子になったら大変だ。俺の気が休まらないから、いいか?」


返事を返すより前にリカルドに右手を取られ、握り込むように指が絡まる。

途端にボッと顔が赤くなるが仕方がないと思う。

「えっ、あの…」と戸惑うルーシェを蕩けそうな微笑みで見つめるリカルド。

そして繋いだ手を持ち上げてゆっくりと、見せ付けるように甲にキスをすると「さ、行こう」と言ってすたすたと歩き出す。


林檎ほっぺのルーシェを連れたリカルドが向かった先は行列の出来る屋台だった。

「気になるのはこの香りだろ? ここは薄いパン生地に色々挟んで貰って食べる店なんだけど、俺のおすすめは肉が入ったやつだな。甘いおやつは、また他の店で食えばいい」


リカルドは看板におすすめが書いてある絵を指さす。

フランクフルトにオニオンスライス、レタス、トマト、特性マスタードがかけてある物だった。ボリューム満点で、漂う香りと絵だけでお腹が鳴ってしまう。


「私もそれが食べたいです」

「です?」

「食べたいわ」


どうも人間になったリカルドは、大人で素敵な男性なので敬語で話したくなってしまう。

移動中に何度も指摘され「番なんだから普通に話してくれ」と言われても狼の時のようにはいかず緊張してしまう。

ぎこちない関係もこれから多くの時間を共に過ごせば変わってくるのだろうか。


彼の言う【番】とはいまいちピンと来ないが、これからは一人じゃないと言う事は理解している。彼がずっと側に居てくれると思うだけで【番】と言う言葉に縋り付いてしまいそうだ。彼はどう思っているかわからないが自分こそ彼に出会えた事に感謝している。


行列に並んでいると色々な人がリカルドに声を掛けてくる。


「リカルド様! いつお帰りになったのですか? 寂しかったですぅ」

と言って逞しい腕に手を当て体を寄せてくる女性。…可愛い耳があるので獣人だろう。


「リカルド隊長。お勤めご苦労様でした。無事のご帰還、嬉しく思います!!」

びしっと敬礼をして瞳を輝かしている若い青年は部隊の隊員だろうか?街を巡回中なので失礼しますと言って立ち去るがちらちらと振り返ってはリカルドを見ている。憧れの人に会えて少しでも長く見ていたいという気持ちが伝わってきた。


声を掛けてくる人々すべてに

「この人、俺の番なんだ。宜しくな」と満面の笑みで答えれば、腕に寄り添っていた女性さえも「おめでとうございます!!」と言ってリカルドから離れ、ルーシェの手を握って「幸せになってね」と言ってくれる。


この変わり身の早さはなんだろ?


リカルドの腕に寄り添ったのを見た瞬間は胸がもやっとした。

けれど「幸せになってね」と言って貰えると素直に嬉しいと思える。自分も同じか…。


順番が回ってくるとリカルドが薄紙に包まれたパンと飲み物を頼んでくれた。

商品を受け取ると両手が塞がるので、危ないからとベンチに腰を掛ける。


(リカルドさんは心配性だなぁ~。子供じゃないんだから転ばないのに)

そんな事を思ってはいるが久し振りに人に優しくして貰ってくすぐったい気分だ。


顎をクイッと、早く食べて見ろと促すリカルドに、ちょっと待ってよと思いつつパンをパクリと口に含む。


「うぁ~。おいひぃー!!」


口に入れた瞬間から美味しい! 思わず、頬張ったまま話してしまう。

するとリカルドの手が口元に伸びて来て親指で唇を擦った。そして、指に付いたマスタードをペロリと舐めとる。


「うまいな」

「な、な、何がっ!?」

「ん? マスタード」

「……、マスタード …だよね」


ぎょえーー、なんかやらしい!!

顔がやらしい、声が優しいけど、やらしい。


手に持つパンをギュっと握ってしまうとトマトが飛び出した。


「おい、落ちるぞ」

リカルドはルーシェの手を取り、胸の前に握っていたパンに顔を近づけてトマトに齧りついた。


近い位置のリカルドに一人パニックになり


「一人で食べれるから見ないで!」 


と、きつい言葉を投げてしまう。

さすがに今のは駄目だろうと思い、そっと彼を伺えば


「そんなに意識すんなよ。まだ取って食ったりしないって」


などと笑って言って気にした様子もなく、自分のパンに齧り付いている。

リカルドの大らかな性格に安堵する。

照れ隠しにしたって、こんなきつい言葉をぶつけるような可愛くない女は嫌だろう。人との触れ合いに慣れていない自分はたくさんの人が居るこの街で上手くやっていけるだろうか。

彼と一緒なら学べるだろうか。


黙ってパンに齧りつくルーシェの頭を優しく撫でてくれる。

そっと目だけを移動して見上げれば、気にすんなとでも言うような笑顔。


好きだ…。


すとんと自分の中にこの言葉が降りてきた。


リカルドの隣に相応しい女性になりたい。

この街で頑張ろう。

パンを頬張ればパリッとジューシーなお肉。こんな美味しいお肉も食べた事がない。

新しい事を教えてくれる。ルーシェが知っている事なんてほんの一握り。リカルドと一緒に居れば色々学ぶ事が出来るだろう。それだけであの森に一人でいた頃の自分とはもう違う。この人は私の光だ…。




*************************



「わぁー!! なんて綺麗なの! 広場も大きいし、噴水もあるわ! 真っ白なタイルで舗装された道も素敵。 それに音楽を奏でてる人達も居るし、なんだか美味しそうな香りまでする!」


目をキラキラさせてはしゃぐルーシェが可愛くて仕方がない。

今まで森の中で一人。

近隣にある村も小さいし祭りなんかあったとしても呼んで貰えなかっただろうから、この色が溢れた毎日祭りみたいなこの街が珍しいのだろう。


リカルドはあれもこれもと左右を見渡すルーシェを目を細めて見守る。

迷子になるからと繋いだ手も緊張からか、少し汗ばんできてそれさえも愛おしく感じる。

俺を意識しろ、早く俺無しではいられなくなってしまえばいい。

【番】だと意識した途端に湧き上る独占欲。自分が女性に対してこんな独占欲を抱くようになるなんて思いもよらなかった。


腹が空いてれば満たしてやりたい。

欲しい物があればすべて与えてやりたい。

綺麗に着飾ってやりたいが、それは他の者には見せたくない…。

色々なルーシェを見たい…。

気は急いてしまうが、怖がらせず、じっくり自分を好きになってくれたらいい。

ルーシェはまだ俺の事は好きじゃないだろう。

だが、手放すつもりはない。

早く、早く俺無しじゃいられなくなればいい。


なんて思いながらルーシェの唇に付いたマスタードを取ったら怯えられた。

邪な思いが顔に出てたか?

俺を意識して緊張してるルーシェが可愛いって言ったら怒るかな?


つい見つめてしまうと、ルーシェは肩をビクッとさせパンをギュッと握った。

中からトマトが飛び出し、今にも落ちそうになる。慌てて彼女の手を取り、口元へと持って行くとトマトに齧りついた。

間一髪で落ちないで済んだ。が、ピキッと固まったルーシェに失敗したか…と距離を取る。


「一人で食べれるから見ないで!」


そんな小さな抵抗、顔を真っ赤にして言われたって可愛いだけだっての。

はぁ~。愛おしい。触りたい。嗅ぎたい。食いたい…。


やばい。

脳内で言ってる分には良いだろうが文字にしたら、ただの変態になっちまうだろうな。


「そんなに意識すんなよ。まだ取って食ったりしないって」


あ、まだって言っちゃった。

まぁ本音だからいっか。

リカルドは大きな口を開けてパンに齧り付いた。


二人は食べ終わると再び手を繋いで散策を続ける。

見る物すべてが新鮮なルーシェは気になる物がたくさんあって中々先に進めない。そんな彼女を楽しそうにリカルドは案内した。


屋敷には女性用の物がないので身の回りの物を買い足した。

どんなにルーシェが拒んでも、店へと連れて行って店員と相談して購入してしまうのだ。

洋服、化粧品、装飾品、…下着。

そう。下着。

洋服店でも売っていたのだが、リカルドが適当に合うサイズの物を見繕って送ってくれってこっそり店員さんに話を付けていたらしい。


ルーシェの荷物が余りにも少ない事を気にしていたからだとは思うが、さすがに恥ずかしい!! 有り難いけど、ね。


そして気になる事もある。

行く先々で皆がリカルドを知っている事と「彼女は俺の番なんだ」と話す事。


「ねぇ、リカルドさん。どうして街の人はリカルドさんを知っているの? それとどうしてみんなに番だと説明するの?」


「あぁ、俺はこの国の軍人で第一部隊隊長なんてやってるからな。凱旋パレードとかもやるから皆知っててくれてるんだよ。番だと説明するのはマーキングじゃないけど、俺のだから手を出すなよって牽制でもあるし、自慢したいだけだ」


珍しく照れているのか頭を掻きながらルーシェから目を逸らして話す。


「ただ、この牽制も獣人には利くがエルフや人間には無効だな。とくに人間は人の物だろうが欲しがる奴がいる。この国にも人間はたくさん居るからな。ルーシェは可愛いから気を付けろよ!?」


「なんの心配? 大丈夫よ」

リカルド以上に魅力的な人なんているだろうか? いるわけがない。

そんな心配は必要がないと笑う。


するとリカルドが肩に腕を回し、自分の方へとルーシェを引き寄せた。

頭にちゅっとキスを落とすと

「その可愛い笑顔を誰にも見せたくないんだよ」と言って目を瞑り、こつんと額を頭にぶつけてくる。


近い、近い、近い、ちかぁーい…。


どうにか甘い雰囲気から逸らそうと辺りを見回す。

すると色取り取りのガラス細工が目に入った。


「リカルドさん!! あのお店なんだろう? 綺麗なガラスの置物?」


リカルドは目を半開きにさせてルーシェが指差す方を見る。

「あれは、ガラスじゃなくて飴細工のお店。 見に行きたい?」

「うん。一緒に、行こ?」

「ぐっ、可愛いおねだり…。いいよ。行こう」


やった! 話を逸らす事が出来た。

両手を握って下から見上げたら快く了解してくれた。


安堵して油断する隙だらけのルーシェを抱きしめ、首元で大きく息を吸う。

リカルドだけが嗅ぎ取れる甘い甘い香り。

ルーシェはぞくりと背が震える。


「ほら、行こう」


腰砕けになるルーシェの手を引いて目的地へと向かう。


店先には飴とは信じがたい作品がたくさん並んでいた。妖精の形をした物など羽が薄く後ろが透けそうだった。

その中でも右端にあった花がとても気になる。

黄色からグラデーションで花弁がピンクになっている。尖った花弁で見たことがない花だった。


「あのお花、素敵。黄色とピンクでかわいいわ…」

「お嬢さん、あれは異国のサボテンの花だよ。棘が付いて人を寄せ付けないくせに、サボテンは可愛い花を咲かせるんだ」

森では見かけない花…。

気になっているとリカルドがそれを取り上げる。


「これ一つ貰うよ」

お金を渡すとサボテンの花の飴をルーシェに持たせる。


「ずっと眺めてないで早めに食えよ?」

にやりと笑う仕草が見透かされているようだ。

はたして自分にはこの宝物を食べる事が出来るだろうか?


茜色した空にリカルドが帰ろうと言う。

二人は馬車に乗り込み、リカルドの屋敷を目指した。






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