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5.



狼さんが帰って来ない…。


犬吸いをした以降、狼が家に戻ってくる気配が無い。


「そんなに嫌だったのかしら? …距離感を間違えてしまったのね…」

自分の失敗を思い出すと後悔が押し寄せる。余りにも突然のさよならに込み上げる寂しさが止められず、溜息ばかり。

彼は野生に帰っただけ…。そう思おうとしても心を誤魔化せない。


また一人ぼっちの日々だわ…。


優しさに触れてしまったから、元に戻っただけの日々も受け入れたくない。


「これじゃ、駄目よ! 頑張らないと!」


ビタンと両頬を叩いて気合を入れてみる。

新しい朝は来た。

新しい一日の始まりだ。

今日の私は新しい自分。

いつまでも過ぎた事を嘆いているわけには行かない。


腕に籠を下げて食べれる野草を採りに出かける。

朝露を浴びた野草は新鮮で質が良い為、早朝に出かけるのが一番良い。

欲しい野草を頭に浮かべ、獣道を進めば開けた場所一面に野草がなっている所へと出る。

奥まで進み、朝陽が当たる位置を選んでしゃがんで摘み始める。


籠にだいぶ集まった所で、ルーシェが使用して来た獣道から四つ足の走ってくるような足音がする。


「獣道なのだから、獣が通るのは当たり前だけど…」

今まで人を襲うような動物とは遭遇した事はない。しかし走ってくる音が聞こえてくると少し胸がざわつく。体を低くし身構えると、こちらに向かってくる足音を待つ。


ガサッ!!


姿を現したのは待ち焦がれていた狼。


「あっ、狼さん」

トサッと籠を落として、満面の笑みで両手を広げる。


すると飛び掛かる勢いでジャンプして来たかと思うとふわりと狼の上半身から人の姿へと変貌した。

そしてその勢いのままルーシェに飛び付き、地面に頭を打たないよう片手で支え、押し倒すようにのしかかる。


一瞬にして見知らぬ美しい大きな男に押し倒されルーシェは混乱した。


「あ、あの、 狼さんだったのに、人になって? あれ?見間違えかな? あなたは誰?」

とろりと甘い表情をした美丈夫がルーシェの頬を撫でながら質問に答える。


「俺はリカルド・ロブレン 25歳。獣人国であるラスタ王国 第一部隊隊長の狼獣人だ」

そう名乗るとルーシェの首元に顔を埋めて深く息を吸った。

 

「んっ…、ちょっ、待って、犬吸いの仕返し!?」


あはははっ!!

首に顔を埋めたままリカルドが笑った。それさえもくすぐったく感じる。


「違うよ。 仕返しじゃない。 ルーシェ、お前は俺の番だ」


「えっ!? 番? …って何?」


ルーシェは獣人の存在も知らない。ましてや番など何の事だかさっぱりだった。

無理もない。外の事は殆ど情報が入って来ないのである。

そう考える間もリカルドはルーシェを強く抱きしめ、あろうことか首をべろりと舐めた。


「ひゃぁっ…、や、駄目」


力いっぱい押し返すがびくとも動かない。

リカルドは無遠慮にルーシェの着ていたシャツの第一ボタンを外し、白い首が現れると強く吸いつく。


チクリと痛むと【怖い】と思った。

途端に弦が伸びて来てリカルドの胴を締め上げ宙吊りにした。


「……、おぉ、めっちゃ助かった! 意識飛んでたって! 止めらんないんだよ。 森の精霊にマジで有難うな!!」


胴を弦で締め上げられ木にぶら下がっているリカルド。


襟元を正しながらリカルドの下へと移動する。

「あの、リカルドさん、大丈夫?」


「いやぁ…、何で今までわからなかったんだ? ってくらい君の匂いやばいね」


「えっ!! ……くさい?」

髪を一束すくって鼻先へと持っていく。


「ブフツ!! 違う、違うよ。 すっごく、たまらない程良い香り。凄いね、番って。他の雄に取られないよう、舐めて俺の匂いを移さないとって本能が…。 俺がこんなんなるなんて信じらんないよ」


舐めて匂いを移す…。

ボンッと顔が赤くなり眩暈がする。


「あのさ、まさかだけど、この森にシシリー草って存在したりする?」

項垂れていたリカルドが顔を上げ、ルーシェを見つめる。


「あるわ。毎日欠かさずリカルドさんは口にしてた。傷の治りを早くする薬よ?」


「はぁ~~~~~~。 本当に存在すんのかぁ〜。 ……ルーシェぇー、俺になんてもん飲ませてるんだよぉー…」

がくりと項垂れて、大きな溜息をリカルドが吐く。良く効く薬草を獣人国に持って帰る夢は潰えたらしい。


「えっ? 何? 毒じゃないわよ!?」

「それは理解してる。…、けどシシリー草ってのは獣人にとっては禁忌に近い草なんだ。だから獣人国にはない。俺達は名前と絵でしか知らない。実物も見たことが無いくらい避けられてるんだよ。 理由はただ一つ。シシリー草は番を嗅ぎ分けられなくする副作用を持ってる。そんなもん口にしてたら一生、自分の運命の相手である番には出会えない」


リカルドは大切な人を見るような熱い視線で問いかけてきた。


「なぁ、 ルーシェ。 お前は獣人である俺が怖いか?」


きょとんとした顔で上を見上げる。


狼から人になった時は心臓が止まりそうな程驚いたが、リカルドが怖いということはない。初めて獣人を見たけれど、狼の時から優しく接して貰っている。ただ、人になったリカルドが余りにも美しく逞しい男性でどうして良いかはわからない。こんな整った人を見たことがない。


「獣人は怖くない。 けど、リカルドさんは格好良いから戸惑う…」


素直に答える。きっと狼の時より余所余所しい態度が出てしまうと思うから。


するとリカルドが爆笑をした。

「あはははっ、なんだそりゃ、そうか。この顔は不快じゃないんだな? じゃぁ好都合」


「?」


リカルド一人で話がわかっていてルーシェは置いてかれる。

すると吊り上げられていたリカルドはプラプラと体を揺すって、


「なぁ、ゆっくり話がしたいから悪いけどシシリー草を俺に食わせてくれ」

「へ? いいの?」

「あぁ。このまま弦から解放して貰ったら、またルーシェを襲っちまう」


びくっと小さく飛ぶと、慌ててシシリー草を採りに行った。




ルーシェが届く位置まで弦を下げてと森に頼み、シシリー草の葉をリカルドの口へと運ぶ。するとルーシェの強い香りが無くなった。

その瞬間、弦がリカルドをゆっくりと地面に下ろし解放した。


彼は両腕を擦りながら地面に腰を下ろし胡坐をかいた。そしてルーシェにも座るよう進め今後の話を始める。


「知り合って間も無い俺の話を全て信じるのは難しいかも知れないが、…フローリア国は沈みかけた船って感じだな。近日中には内戦がおこり、王族・貴族は殺されるだろう。だが、統率を取る者が現れなければ国は衰退の一途をたどる。俺としてはルーシェをこの国に置いておけない。だから獣人国に連れて帰りたいと思ってる。獣人国は多種族が居る国だから外観が違うのは当たり前だ。お前の容姿をとやかく言う奴なんていない。 俺と一緒に来て欲しい」


それと、と続ける。


「獣人には運命の相手ってのが居て、それを番と呼ぶんだが…。俺の番はルーシェ、お前なんだよ。俺にとってルーシェは唯一無二の存在だ。獣人国には俺の嫁として連れて帰りたい」


一気に襲ってくる情報に頭がパンクしそうだった。

この国が無くなる? 内戦が起こるから離れた方が良い? そして自分がこの美丈夫の運命の相手!?それが一番信じられない。

リカルドと出会ってから、こんなにも色々な感情が湧いて出てくる。

口をぱくぱくさせるだけのルーシェを見て前から手を伸ばしリカルドが優しく髪を梳く。


「深く考えるな。絶対に俺を好きにさせてみせるから、安心して俺と一緒に来い」


隣に移動してくるとルーシェの肩を抱き寄せ頭にキスをする。

そして大きく息を吸うと上に向かって大声で叫んだ。


「森の精霊、ルーシェは俺が連れて行く。お前も獣人国に一緒に来い。土地はここ程広くないが俺の領地に来てはどうだ?」

ただ、どうやって移動すれば良いのかさっぱりなんだがな…とぼやく。


「精霊?」


「あぁ。お前は【森の愛し子】ってやつだからな。きっと森の精霊に愛されてるって事なんだ。だったら奪うわけには行かないからな。一緒に居るといい」


森ごと自分を引き受けると言うリカルドの豪快さに呆れると共に尊敬の念を抱いた。

正直自分はやっかいな人間だと思う。

それを受け入れてくれると言うのだ。自分も彼と一緒に居たいと思っている。

離れたくない…。それはルーシェの願いでもあった。


「リカルドさん…。私を獣人国へ連れて行って下さい」


ルーシェを抱きしめる腕に力が籠った。


「もちろんだ…。もう一度言うが、 俺の嫁としてだぞ?」

顔を真っ赤に染めて、うんと頷く。


顎をくいっと持ち上げられ、瞳を覗き込まれる。

なんて綺麗な金色の瞳なんだろう…と見とれていると、唇の上に柔らかいものが押し当てられた。

軽いキスはすぐに離れ、再び至近距離で見つめられる。


「本当は番に憧れていたんだ。運命のただ一人に会いたいと願ってた。 だけど諦めていたから、自分の気持ちに蓋をして興味ない振りをしたんだ。 まさか森の中にいるなんてな…。もう、絶対に離さない」

独り言のように言うと、くすっとリカルドは一つ小さく笑った。


ゆっくりと下唇を撫でられるとぞくりと体が震える。

リカルドの視線がずっと自分の唇を見てると思うだけで戸惑い、くすぐったい気さえする。


「あの、リカル…」


名前を呼ぼうとすれば、再び彼の唇に塞がれた。

先程とは違い、しっかりと合わさったそれは角度を変えては深く重なってくる。


「ふぅっ…ん、 う、んっ…」


はぁっと息を吐き出せば、それさえも奪われるようなキスだ。

リカルドに背中を支えて貰わなければ後ろに倒れてしまいそうなほど、熱いキスに酔いしれていると背を支えていた手がするりと服の中に入って来た。


「んっ!!」




途端に弦に宙吊りにされるリカルド…。




「シシリー草飲んでこれって。番って認識した途端やばいな…。 ルーシェ。怖がらせてごめんな。 気を付けるから…。 許してくれ!! もうやらないとは言わないけど」


謝らなくても良い。

自分もリカルドにキスされて嬉しいと思ったし、改めて彼を好きだと自覚した。

彼と離れたくない。一緒に暮らしたい。そう思った。


すると、ルーシェの胸の前に光の玉が現る。

目映く光るそれは段々と姿を現し、それは鉢植えから一本の木が生えていた。


カサカサ、カサカサ、っと葉が擦れる音。

前にも一度聞いた事がある音。


『これを新天地に植えて…』


前回は恐ろしい声だったが、今回は可愛らしい声が聞こえてきた。この鉢植えの木を新天地に植えたら、森も一緒に行けるのだろうか?


ルーシェの頭上から


「森のお許しも出たみたいだし、さっそく出立の準備を始めようぜ!」


頭上から宙吊りにされたリカルドのご機嫌な声が聞こえた。




小説の書き方が分からなくなってきましたぁ〜  (ꏿ﹏ꏿ;)


大変読みにくい文章になってますが、申し訳御座いません!!


シシリー草…。勝手に作った薬草です。

外観イメージはヨモギです!


次回からはルーシェ獣人国へ行く。の巻

宜しくお願い致します。





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