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4.



★狼獣人 リカルド目線です






献身的な治療のお蔭で抜糸を終える事が出来た。

痛みも傷の突っ張りもない。

ルーシェは自由にさせてくれるので、度々副官と落ち合い情報を得ている。

この日もドアをカリカリすれば外に出してくれる。


「余り遠くへ行かないで、暗くなる前に帰って来てね!」


(おう! わかってるって)ワオンと返事をすると走ってその場を去った。


人型に戻るとすぐ副官であるローランドを探す。

彼は鷲獣人だ。茶色の短髪で金色の瞳。男から見ても整った容姿をしていると思う。それに頼りになる相棒だ。そんな男が目の前に現れる。


「ローランド! 毎度、悪いな」

「いえ、リカルド隊長。 お怪我の具合はどうですか?」

リカルドはその場でジャンプをして大丈夫だと答える。


「では本日中にも、こちらを離れる事は可能でしょうか?」

随分と急な話に訝しげに表情を曇らせる。


「この国は終わってますよ。近々内戦があるでしょう。 ……この森は不思議な力が働いているんですかね。 ここに居れば大丈夫な気がしますが、帰路が危険になります」


「…、わかった。お前は先に帰国してくれ。今日は無理だが近々俺も戻る」

「御意」


ローランドが立ち去ると、帰国前に一度自身の目で王都の様子を確認する必要があると考えた。

その為にはこの森を出なくてはならない。とりあえず今は帰ってから今後の事を考えよう。

家に戻るとルーシェが散歩が短いと指摘してきた。


(早く帰れとか、戻りが早いとか…。どっちなんだよ…)

昔、父が夕食会に出かけるのに「早く帰って来てね」と母に言われ、その通りに早く帰ったらのんびり寛いでいた母に「戻るのが早い」と理不尽な事を言われていたのを思い出す…。

そんなしょっぱい昔話を思い出しはしたが、運動が足りないと言われれば確かに療養の為とは言え動いていなかった事に気付く。


ルーシェがハーブを採りに森へ行くと言うので一緒に付いてくことにした。


彼女を一人置いて国に帰っても良いものか…。

森に居れば争いに巻き込まれる事は無いだろう。だが村が無くなってしまったら食料調達が不便になる。

狼のまま立ち去ろう。とも最初のうちは考えたが、彼女を国へ連れて帰るには説明が必要だ。獣人であることを明かすか?

仕事もあるし、今は大事な任務の途中だ。一刻も早く国に帰らなければならない。


彼女を眺めながら迷っていると日は天辺に上っていた。

昼で汗ばむ陽気だ。水分補給をさせようと鼻で背中を突き、帰宅を促す。


(世話がやけるなぁ)

なんて、すっかり兄貴気取りだ。


リカルドは容姿や身分から自身が異性から人気がある事は理解している。今までも獣人や人間の女性とそれなりにお付き合いしてきたし、もちろん深い仲になった相手だっている。

獣人には番と言うものがある。

まさにそれは運命の相手。強く引き付けられ香りで互いが対の存在だとわかり、一瞬にして恋に落ちる。


だが番に出会えるのはほんの一握り。

リカルドは始めからそれを諦めている。この広い世界でどうやって唯一無二の存在を嗅ぎ分けられるんだ、だったら普通に恋愛を楽しんで結婚すれば良い。

ただ恋愛に淡泊で仕事を優先にしている為、すぐに振られてしまう。去る者は追わない性格なので長続きもしない。

最近では面倒になり1年くらいは彼女も作っていなかった。


そんな自分がルーシェは命の恩人だからか、それとも身の上を聞いて同情しているからか…、幸せになって欲しいと心から願う。

彼女を放っておけないと感じるし、このまま離れてしまうのは寂しい気がする。今の状況から救ってやりたい…と。


彼女は番ではない。

番なら匂いで分かる。らしい…。

実際リカルドの周りにも番に出会えた人は余りいない為、どんな香りでどんな風に自分が変わってしまうかなんてわからなかった。

ただ押さえられないくらい愛おしく感じて離れられないとは聞いたことがある。

ルーシェにはそれは感じない。


(妹ってこんな感じかな?)

などと男兄弟しか居ないリカルドは感慨に耽った。


二人で並んで帰ろうとするとルーシェが俺の足元をじっと見ている。

ふと、視線を下げると植物の種がくっ付いていた。


(なんだよ!これ!! んっ!? 取ろうとしたら鼻の脇に付いたぞ!?)


あたふたしていると、ルーシェが笑いながら種を取ってくれた。


(笑うなよ。 俺だって人型だったら、こんなもんすぐ取れんだぞ?)


第一部隊隊長なんてやってるのに植物の種も取れなかったなんて部下に知れたら、屈辱死しそうだ。みんなに大笑いされている所を想像してムッとする。


「ねぇ。狼さん。 傷も治ったし、ラベンダーも採ったから、今日はお風呂に入ろっか?」


(へっ!? 風呂?)


リカルドはビクリと体を震わせる。

(それって、一緒に風呂入んの? それとも俺だけが洗われるの?)

ルーシェは両手をわきわきとさせ近づいてくる。

顔を青くして後ずさる俺。

いや、毛むくじゃらで見えないだろうが今は絶対に真っ青!


「あれ?でも、あなた余り汚れてないのよね。臭くないし。どうしてかしら」

その言葉に再びギクリとする。


(え? だって…、いつも君が寝たら勝手に風呂入ったりトイレ行ったり寝顔を眺めたり、結構自由に過ごしてるし…?)


言い訳をしていると背中に顔を近づけてクンと匂いを嗅いでくる。

(「ラベンダー…?」って呟いてるけど、…、あぁ、はいはい。君のラベンダーのシャンプー使ってますからね。俺ってば臭くないでしょ?)

ちょっと得意気に顔を上に上げると


「ねぇ。 狼さん。 ずっと我慢してたんだけど…、いい?」


なんて聞いてきた。

(ん? どうした。 聞いてやるぞ?)

しかし、次の瞬間ルーシェの取った行動に体を強張らせる。


「むふーっ!! たまらぁーん。 もふもふ天国、最高!!」


顔を上げて無防備になった首に顔を摺り寄せて大きく息を吸った。


(うぁ! 吸うな! 離れろ)

ジタバタと暴れるが、意に関せず。スーハー、スーハー。


「この、犬吸いが、ずっと! ずっとやりたかった!」

あぁ、もふもふ最高! ラベンダーの香りがして可愛い!!幸せ!

などと言って、更にスーハーして来る。


(変態! 離せ!)


ぞわぞわと立つ鳥肌(狼だけど…)に耐えられず、足も使って引き剥がそうと横になれば

さらに胸元を大きく吸われた。


(あーーーー! 何かを失う気がする! やーめーろー)


慌てて起き上がって距離を取ると「覚えてろよ!!」と大きく言ってやった。

彼女を置いて走って逃げたが、決して捨て台詞を吐いたわけではない…。



そのままの勢いで森を出て来てしまったが、あそこに居る限り彼女の身の安全は間違いないだろう。今が昼なので急いで行けば王都に行っても明後日の早朝には戻れる。

状況判断の為にも見ておきたかった。



森の側にある村は余り感じなかったが、王都に向かう途中の村や町は廃れていた。

以前のような賑わいはなく、人々はどこか虚ろで怒声や奪い合いによる喧嘩が目に付く。

税を上げ、国民から金を奪い王族や貴族が贅沢をし尽す。他国ではあるがこれでは国民が不憫だと思った。反乱がおこるのも無理は無い。


(愚かだな…)


リカルドは先を急いだ。

途中の村や町でもしていたように、王都の手前の人目が付かない場所で人型に戻る。


しかし、門の手前で止められてしまった。

どうやら王都に住まう住民も強制的に外に出し、民を中に入れないようにしているようだった。


(民を恐れて逃げ隠れしているのか…)


リカルドはこの国の衰退を確信した。それだけで十分だった。

自分達が生きるか死ぬかの状況だ。もうラスタ王国に戦を挑む余裕もないだろう。


踵を返すと森へと急いだ。


帰路の途中リカルドは王都までの道のりの事を考えた。

森に近い、ルーシェが訪れる村は栄えてるとはいかないまでも他の村や町よりは生活がひっ迫している様子が無かった。


(彼女の生活の為に、森が守ってる? まさか…)


脳裏に浮かんだ答えに首を振る。信じられない。

だがリカルドも体感して分かっているが、ルーシェの薬草は効き目が非常に高い。

あれを定期的に口にしていれば、病気もしないだろうなとは思った。

何にせよ、森の力は働いているのだろう。


【森の愛し子】


その言葉が頭に浮かび、森から引き離し彼女を獣人の国へ連れ出す事は可能なのだろうか?と頭を悩ませる。

数日を供に過ごし、すでにルーシェに対して情がある。彼女は森で一人で生きているべきではない。友達を作って、やりたい事をやって自由に生きて良いんだと教えてやりたい。

自分の国に連れて帰って、外見なんて問題ないって教えてやりたい。


森の木々が遠くから見ても分かる距離に来ると、突然甘い香りがリカルドを刺激する。

今まで一度も嗅いだ事のない、強烈に引かれる香り。

とてつもなく甘い、切ない、本能が我慢できないほど引かれる香り…。


ドクンッ。


意識した途端に心臓が脈を打ち体中に血が巡る。

朝を告げる太陽が登り始める中、リカルドは速度を上げて森を目指した。





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