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3.



★狼獣人 リカルド目線です





遠く離れた獣人の国ラスタ王国の軍人、リカルド・ロブレンは狼の獣人である。

25歳の若さで第一部隊隊長を務めていた。


癖のあるシルバーグレイの長髪は一本に纏め、金色に輝く瞳は鋭く生命力の強さを感じさせる。背も高く、靭やかな筋肉に覆われた体。まさに美丈夫と呼ぶに相応しい。


獣人国には獣人以外にもエルフや人間も暮らしている。今回の任務は人間しかいない国であるフローリア国の動向を探るべくスパイとしての入国だった。


フローリア国は過去何回かラスタ王国へ戦を挑んでいる。

しかし獣人の身体能力に勝てるわけもなく、毎回不発に終わっていた。


今回も仕掛けてくる可能性があるとの情報により、先に侵入して動向を探っていたのであるが…。


「リカルド隊長! どうやら新人が捕まってしまったようです」


「は? 捕まった?」


その報告に二の句が継げない…。

どうやったら人間相手に捕まるのか。正直、軍人には向いていないだろう。


「で? 誰?」


「あの…、ポワトンです」


リカルドは額に手をやって項垂れる。

お偉いさんの縁故で入隊し、色々仕事をやらせたが全く使い物にならず盥回しになった挙句にリカルドの下に配属された狸獣人だった。


狸は驚くと体が丸まって動けなくなってしまう…。そんな奴、どう考えたって軍人になんて向いていない。


「わかった。俺が救出に向かうから、他の者は先に脱出してくれ」


「お一人で? 危険では?」


「ま、何とかなんだろ」



………。


結果、何とかならなかった。

狸が本当に足手まといだった…。

リカルドは狼獣人だ。嗅覚に優れ、身体能力も高い。人間になんて捕まらないし、負ける事なんて天地がひっくり返ってもなかった。はずだった。


ポワトンの匂いを辿れば、すぐに捕らわれている場所を見つける事が出来た。

見張りについていた人間だって、気絶させるのなんて朝飯前。

椅子に縛られたぽっちゃりポワトンの縄を外してあげれば、後は逃げ出すだけ。

何度でも言おう。リカルドだけなら本当に簡単な作業。しかし…。


走って逃げるにしてもポワトンは足が遅かった…。


「待ってよぉ~、リカルド隊長~」


などと大声を上げる。居場所を教えているようなもんだ。

大きなお腹を揺らしドスドスと走っている。


これは罠なのか!?

人間が俺を捕まえる為にポワトンを囮に使ってるんじゃないのか?

ポワトンを待っていれば人間も集まって来た。


「そうなるよね?」


はぁっと溜息を付く。

ポワトンの背中を押しながら逃げるが川の側まで来たら囲まれた。

まさかの背水の陣…。

なんでこんなピンチになってんの??? 獣人国から来たスパイと言う事がバレるわけにはいかない。獣に変身してはまずい。

相手は剣を持っているのに対して自分は丸腰だった。

とりあえず立ち向かってきた一人目の剣を避けて、手首を掴んで力を込めれば簡単に骨が折れた。

奪った剣で戦っている間もポワトンは丸くなって震えている…。

(絶対に帰ったら内勤に変更だ!)

額に青筋を立てながら剣を振るっていると、一人の人間がポワトンに忍び寄っているのが目に飛び込んで来た。

ポワトンは武器を持っていない。

慌てて踵を返し彼の元へと行けば目を瞑ったポワトンに


「こっちに来ないでぇ!」


敵と間違えたのか勢い良く突き飛ばされた。

まさかの出来事に不意打ちをくらい、バランスを崩す。

と、そこに倒したと思っていた敵が下からリカルドの足を剣で薙ぎ払った。


「…っ!」


(負の連鎖、怖ぇ…)


怪我をおったリカルドを追撃するべく襲ってきた敵をすかさず切りつけ絶命させる。

残りは3人…。

とにかく邪魔者をどうにかしなければ…。

リカルドはポワトンの尻を大きく蹴とばした。

飛び上がるポワトンに「ハヤブサだ」と作戦名を告げて一人で先に行かせる事にする。

ハヤブサとは帰還を第一として仲間を待たず、獣人国を目指し単身で帰還する作戦。


「は、はいー」と返事をすると駆け足でその場から立ち去った。


邪魔者は居なくなった…。

身内が邪魔者ってどういう状況よ?と思いながらも安堵する。


切られた足は熱を持ちドクドクと脈打つ。

(わりと深いな…)

剣で戦うとしても、足が動かないのでは3人相手は厳しい。

しかし、後ろは川が流れている…。どうするか。


一か八かにかけてリカルドは川に身を投げ、流れに逆らわず下流に流される事を選んだ。


浅瀬に来ると岸を目指したが、出血が多く意識が無くなる。

その時に人型も取れず狼へと戻ってしまったのだった。


夢の中で「絶対に私が助けるからね…」と優しい声がした。

甘い、切なくなる程の好ましい香り。


次に目覚めると見知らぬ少女が自分を見下ろしていた。

(人間!? 俺は捕まったのか?)


「わわっ! 落ち着いて。私はルーシェ。あなたに危害は加えないわ。安心して」


少女はリカルドの体から手を離し、両手を上に挙げるが鋭い牙を剥きだしにして低い声でヴォォォーと唸ってみせた。


目を合わせたまま、少女は後ろへと下がる。


「あなたは川で倒れていたの。傷は水の中に浸っていたわ。あのままだったら死んでしまった。だから家に連れてきて手当をしたの。わかった?」


(そうか、俺はこの少女に助けられ家に運んでもらったのか…)


「あなたは足に大きな怪我を負ったのよ。今は安静にしていないと駄目。わかる?」


(おう! 有難うな。助かったよ)ヴォンッっと一鳴きする。

お礼を言ってみるが、声が大きかったようで怯えさせてしまった。失敗したと反省する。


「じゃ、今日からあなたの仕事は早く元気になるって事で良い? 今から傷の回復に良いお薬が入ったご飯を持ってるから。ちゃんと全部食べれる?」


(目が覚めたら何だか腹が減ったよ。飯くれ!)再び、ヴォンッと大きく鳴く。

(あ、また大きな声出しちゃった。怖かったか?)下から覗き見れば少女が優しい表情で微笑んでいた。


「ふふっ。可愛い、わんちゃん」


(何だと!? 俺をわんちゃんって言ったのか?)ヴォォォーっと唸る。


「あれ?ご機嫌斜め? 何に!?」


(自分で良く考えろ!)


「可愛い」


(違う! ま、それも微妙だが…、それじゃない!)


「わんちゃん」


(銀色に輝く気高き狼の俺に向かってわんちゃんだと!?)

ヴォォォォー。鼻に皺を寄せ大きな牙を見せつける。

(どうだ?凄い牙だろ?)


「あれ? あなた、わんちゃんじゃないの? じゃ、狼?」


(狼にしか見えないだろ!! あんな誰にでも尻尾を振るような奴らと一緒にするな)ヴォンッ。


「……。 狼って聞くと急に怖さが増してくるんですけど…。お願いだから噛んだり、食べたりしないでね?」


(………。)


「いやいや。そこは返事する所じゃない!?」


(あははっ、面白い奴だな。 食わないって)ヴォンッ、ヴォンッ、ヴォンッ。


「全く~。 人を揶揄うなんて…。悪い子ね」


(悪い、悪い。なぁ、腹減ったってば。頼むよ)

ご機嫌に見上げれば、急に両耳を挟まれて頬を撫でられ額にキスを落とされた。


「今、ご飯持ってくるから待っててね」


予想だにしなかったルーシェと名乗った少女の行動にポカンと口を開けて見送ってしまった…。


少女はお粥に薬草を煮込んだ物を持って来た。

ちゃんと食べやすいように冷ましてあって優しい娘だなと感心する。

お皿に口を寄せペロリと舐めると可もなく不可もなく…。

(ま、元気になったら肉も食わしてくれるらしいから、いっか)

怪我が早く良くならなければ獣人国にも帰れぬ。薬と思い完食した。


傷口を消毒して貰えば、食べて体も温まったので睡魔が襲ってきた。

少女が優しく毛布を掛けて背を撫でてくれれば安心して眠りに落ちる。


数日経てば歩けるまで回復する。

元々獣人は人より回復力は早い方だ。だが、粥に入れてある薬草の効き目が凄い。帰る時にはなんの薬草か調べて帰ろう。


ルーシェが村に肉を買いに行くと言って出かけたので、姿が完全に見えなくなるのを確認して家を出た。


建物が見えなくなると人型に戻る。

エルフが仕立てる服は人から獣に変身しても破けないし、人型に戻れば最後に着ていた服を着た状態に戻る。

獣人の為に特化した機能だ。


先程から覚えのある匂いの元をたどって行けば、自分の副官が木に寄り掛かって待っていた。こちらの姿を確認すれば駆け寄り

「リカルド隊長。ご無事でしたか」と声を掛けてくる。


「あぁ、怪我をしてここの住人に匿って貰っていた。 まだ本調子じゃないからもう少しここで療養してから戻る」


「で? ポワトンはどうだった?」

「はぁ…。ポワトンは独りで国に戻ってきましたよ。リカルド隊長が死ぬとは思わないですが、危険な状況へ追いやったポワトンは解雇されました」

「あ~…、内勤に回そうと思ってたんだけど…」

「いや、元々内勤だったんですよ。事務処理が出来ないなら体動かす方はどうだ?となりまして…。ま、結局は両方向いてなかったんですが…」

「飲食店とか良さそうだよな」

「……、客に出す分も食べちゃわないですかね?」

「「…………」」


簡単に仕事の状況を確認し、後日また落ち合う約束をして家に戻った。


夕方、村から戻ったルーシェの顔が暗かった。あきらかに元気がない。

彼女の隣に腰を掛けて、鼻先でつんっと肩を突く。


「狼さん。慰めてくれるの? 村へ行くと毎回意地悪い言葉を言われて、とっても疲れてしまうの。 ねぇ、あなたは私のこの髪の色と瞳の色をどう思う?動物だから気にならない? そうだったら、とても素敵」


獣人と人間が住まう国、ラスタ王国。

ルーシェが住まうこの国からは、かなり離れた場所にある。獣は様々な色彩を持っている。

だから人型を取っている時の髪や瞳の色は同じ物を探す事の方が難しいくらいだった。

ラスタ王国に住めばルーシェの悩みなんてすぐ解決する。


17歳から天涯孤独で21歳になった今でも村の住人に心無い言葉を向けられているなんて…。話を聞いているだけで胸糞悪くなる内容だった。

しかし、気になる話もある。

森の愛し子とは? 愛し子と言う言葉も聞いたことがない。

鼻を啜る音に思考を遮られ、隣を振り向けば静かに涙で頬を濡らしていた。

(可哀想に…)

自然と頬を流れる涙を舌で舐めとる。


「狼さん…。有難う」


首にきゅっと回された腕は震えていた。彼女は今、優しさという温もりを求めている。

リカルドはじっと動かず彼女が泣き止むのを待った。




※誤字修正しました

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