12.
後、数話で完結となります。
ルーシェが思ったより暗い子になってしまって…。
ごめんなさい~。
恋愛初心者の主人公が年上のモテる男性と付き合ったら。と考えたのですが、人付き合いから学ばなければならない彼女には難しい恋愛となってしまいました。
そんな彼女を理解して、たまらなく愛しているリカルド。じれじれですが見守って下さい。
一人部屋に戻ったルーシェは先程聞いた話を反芻する。
ベットで横になっても胸を締め付ける痛み。人を好きになるって楽しい事ばかりじゃない。やきもちをやいて醜い感情を抱いたり、相手を信用出来ず疑ってしまったり自信をなくす。
最初のうちは一緒に居るだけで嬉しくて、触れ合うだけでドキドキして毎日が楽しくて幸せだったのに…。
好きになればなるほど思いは膨らみ欲張りになり、独り占めしたくなる…。
今まで人と向き合ってこれなかった罰なのか。
例えば、ルーシェの物語の登場人物は主人公のルーシェただ一人だった。
それがいつの間にか狼が加わり、リカルドが現れ、あれよあれよと登場人物が増えて行った。嬉しい反面戸惑いの方が大きい。
好きな人が初めて出来て、戸惑う事ばかり。
誰か、教えて。
これは普通なの?
それとも私の心が狭いの?
リカルドさんは私が初めて好きになった人。でも、彼は今までもたくさんの女性とお付き合いをしてきた。それも私とは真逆の大人の女性達。
こんな子供っぽい私が番でがっかりしたかな?
もう出会わなかった頃には戻れない。それ程に自分はリカルドさんを求めている。
好き。
大好き…。
目から流れる滴が枕を濡らしていく。
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「今朝のお食事はいらないと…。具合が悪いのでしょうか」
「ちょっと見てくる」
ルドルフの報告に、直接自分で確認しようと席を立つ。
朝食はリカルドが早番でない限り一緒に取るようにしていた。
この屋敷に来てからルーシェが食事を取らなかった事はない。
昨晩の様子を思い出し、具合の悪そうな雰囲気があったかと考えるがその様には見えなかった。だがリザベラのショックが今頃出てしまったのかも知れない。
足早にルーシェの部屋へと急ぐとドアをノックする。
中からの物音も無く、返事も無いのでドアノブを回すと鍵は掛かっていなかった。
室内に足を踏み入れるとお目当ての人物の姿がどこにも見当たらない。
慌てて大きな声で叫ぶ。
「ルーシェ!!」
名前を呼べば彼女の柔らかい甘い香りがベランダの方から漂う。
今朝はまだシシリー草を摂取しておらず、ルーシェの香りを違えるはずがない。
部屋を横切り寝室へと向かい、ベランダを覗けば寝間着のままで森を眺めるルーシェが佇む。
風に煽られる髪を押さえてこちらをゆっくりと振り向く。
「ルーシェ。こんな所に居たのか。 具合が悪いならベットで横になってなきゃ駄目だろ?」
「心配かけてごめんなさい。具合は悪くないの。ただ、色々と考えてしまって…」
「なんだ? 何か困ったことでも? 俺に聞かせて?」
躊躇う素振りを見せたがゆっくりと話し出す。
「私は………、 リカルドさんの番として相応しい人間ではないんじゃないかなって」
「っ! 何、言ってんだよ。誰かに何か言われたのか!?」
僅かに苛立ちの混ざる声音で問われる。
その声にびくっと体が震えたが、彼の事を思うからこそ伝えなければ。
「昨晩、いけないと思ったんだけど、ローランドさんとの会話を聞いてしまって…。今までの彼女達と、私は違うんでしょ?幼い自分が番なんかで…、 リカルドさんはがっかりしてるんでしょ? 我慢してるんでしょ? 我慢してまで一緒に居るなんて間違ってる。番って存在に惑わされてるんじゃないのかなって」
「話しを聞いていたならどこまで? 最後まで聞いたか? 何が嫌だった?全部言ってくれ」
リカルドは必死で昨晩の会話を思い出そうとする。
自分はあの時、ルーシェが可愛くてしょうがないって話をしていた。迷惑だったのだろうか。それとも愛したくて堪らないって言った事が不愉快だったのだろうか。今すぐ側に行って抱きしめたい。しかし、ルーシェから漂う空気が自分を拒んでいると感じた。
瞳にいっぱいの涙を浮かべ。震える唇で絞り出すように答える。
「私…、リカルドさんの事が好きなの。好き過ぎて、自分の感情が制御できない。リカルドさんに近づく女性に嫌な気持ちになったり、抑えられないもやもやした気持ちに戸惑ってどうしたら良いか、わからないっ…」
リカルドが一歩前に踏み出すと、素早くルーシェも一歩下がり
「来ないで」と牽制する。
「ルーシェ! 落ち着け。そんなの好きな相手が居れば当たり前の事だ! ルーシェの事を不安にさせた俺が悪いんだよ」
今になっては遅いのか。
リカルドはルーシェが不安にならない程に彼女に愛を囁き、甘やかしてやれば良かったと後悔する。自分の重い愛情を受入させるには時期尚早と思い、シシリー草で自分を抑えていた事を後悔する。
「私なんか、リカルドさんに相応しくない!」
その言葉を聞いて、カッとなる。
「君は素晴らしい女性なのに、一番自分を理解していない! 俺が好きだと伝えても、それさえ真剣に受け止めてくれないのか!?」
「わからない…。どうしたら良いの、か」
ルーシェは手擦りにそっと触れ、それを乗り越えようとする。
「ルーシェ!!」
慌てて地面を蹴り阻止しようと向かうが、ひらりと降りるルーシェの手を掴む事は出来なかった。
ベランダにはいつの間にか森から手摺りの下まで弦が延びてきており、編み込まれて丈夫な階段を作っていた。
それをルーシェが下っている。
階段はルーシェが通り過ぎると一段ずつ消滅していった。
「待て! ルーシェ!!」
離れて行くルーシェを見て焦りを覚え、リカルドは「チッ」と一つ舌打ちを鳴らすと狼に変身し、助走を付けて手摺を乗り越え階段に飛び移ろうとする。
しかし前足は空を切り、無情にも消えゆく階段には届かなかった。
「キャァ!!」
落下する狼に悲鳴を上げるが、弦が伸びて体にしっかりと巻き付けると狼をベランダへと戻した。
そして動けぬよう体に弦を巻き付けて固定する。
その様子を見届けてルーシェが数段下れば、森から霧が発生しルーシェの姿を覆い隠す。
「ルーシェ! ルーシェ!!」
グルルルルッ。ガウッ、ガウッ!!
必死で弦を切ろうと噛み付くがびくともしない。
「ルーシェ…」
ベランダから先程までルーシェが居た場所を見下ろせば霧が晴れ、ただの森が姿を現す。
体を縛っていた弦も霧散して消えてゆく。
人型に戻り階下へ行こうと部屋に入ると、目の前が急に明るくなり緑と金の光がパアァーっと一点に集中するように集まる。リカルドは余りの眩しさに目を開けていられなくなり腕で遮るもきつく瞼を閉じる。
「ぐっ、…何だ、この光は…」
閉じた瞼でもわかるくらいに、徐々に光が収まってくる。
ゆっくりと目を開けて、腕を外すとそこには見たことも無い程に神々しく美しい青年が立っていた。
その美しい青年が普通と違う所は、全身が緑色をしているということ。
長くまっすぐの髪は深い緑をしており、肌も薄い緑をしていた。
切れ長の目もエメラルドに輝き、纏う衣は風もないのに揺らめいていた。
「私は君たちの言う森の精霊だ。 人前に現れる事はしないのだが余りにも不甲斐なく思ってな…」
リカルドは金縛りにあったかのように指一本動かせないでいた。
頭の中では動けと命令を出しているのだが、体に動きが伝わらないのだ。
「リカルドよ。私はルーシェの綺麗な魂を愛している。しかし自分では彼女と同じ時を生きる事が出来ない。だから彼女の子孫と代々友人関係が気付けたらと思った。だが、獣人の番への愛とはこの程度か…。 彼女を守れないというのならば、この先は君ではなく私が彼女を愛そう。彼女を苦しめるすべての物から守り、亡くなった後は魂を精霊とし私が彼女と共に生きていくよ。
リカルド。君には彼女を返さない」
精霊が話している間、リカルドは動けないければ声も出せないでいた。
力の差に愕然とする。
そして自分の不甲斐なさに胸を痛めた。
じっと精霊に見つめられ
いつでもルーシェを救えるのはこいつか!と悔しくなる。
すると精霊がふっと笑ったかと思うと姿を消した。
先程まで指一本動かす事が出来なかった体が自由になる。手を握っては開いてを繰り返し確認すると急いで階下へと走って行った。
そして窓から外へ出て森を見れば
そこに森の姿は無かった。
今回、森への逃走でベランダからルーシェが飛び降りるシーンがございますが、それはそれは過保護な森の精霊が【頑丈、かつ幅広の安全な階段(弦の命綱付き)】を用意してスタンバッテおりますので、通常の方々はくれぐれもベランダの手擦りを乗り越え、降りるようなマネはしないでください!!!!絶対にダメです!!!
なんなら森の精霊はリカルドにも過保護です。
森の精霊がオカンなら、子供は転ぶ痛みも学ばないで成長してしまうでしょう…。
毎度で申し訳ございませんが…。
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