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11.








その夜、リカルドが帰宅するとルドルフに「食後にお話しがございます」と告げられる。

いつもなら食後はルーシェとの語らいの時間だ。

だが神妙な面持ちのルドルフを見ると良い話ではないのだろう。

気にはなるが、今はルーシェを待たせている。

彼女の腹を空かせるのは本意ではないので、改めて食後に話を聞く事にした。




「何だって!? リザベラが来ただと?」

思いもよらない相手の行動に唖然とする。門前で追い払おうと思ったが、勝手に入って来てしまったらしい。不法侵入で突き出してやろうか。


「それで、目的は? ルーシェか?」

「…はい。 その、ルーシェ様に自分に自信がないから会えないんだろ…と。醜聞をまき散らすと騒いでおりまして。ルーシェ様がご対応されました」

「……、嘘だろ? 会ったのか? この間といい、今回といい…。そろそろ牢にぶち込むか」


グルルッと喉を鳴らし、リカルドの怒りで空気がビリビリと震える。

番に手を出されて黙っていられる獣人なんか居ない。


「それで? なんて?」

「はい。ルーシェ様をちんくしゃと呼び、早く別れて国から出て行けと罵っておりました…」


はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。


盛大な溜息を吐く。

そんな事を決める権利があの女にあるはずがない。

しかも汚く酷い言葉を俺のルーシェに浴びせるなんて万死に値する。


どいつもこいつも…。

リックとリザベラ。この二人、俺を敵に回したことを後悔するが良い…。

ドス黒いオーラが漂い始めたリカルドに慌ててルドルフが続きを話す。


「しかし、森の加護により蜂の大群が突然湧き上りリザベラ様を屋敷から追い払って下さいました。本当に、スカッとする気持ちの良い光景でしたよ」

胸に手をあて、スッキリしました。と言いながら良い顔で微笑む。


そりゃそうだろう。

大切なルーシェに言いたい放題されていた所を物理的に守って貰ったんだ。

その場に居たら俺だってルーシェを守ってやれたのに…。またしても森の精霊に負けてしまった。

正直、かなり悔しい。


「絶対に次は無いようにするが、次に来た時は叩き出していい。俺が許可する」

「はい。仰せのままに」



***************************



廊下をバタバタと走ってくる音がする。

コンコン。ガチャリ。


ノックとは…?

返事をする前にドアが開けられる。


「あ、リカルドさん。 怖い顔して…」

ソファに座るルーシェの前までつかつかと来ると、すっとその場に膝を付いた。


「ルーシェ、さっきルドルフから聞いた。何故帰ったらすぐに話さなかった?」

「だってお仕事で疲れて帰って来るのに、お食事が不味くなるでしょ?」

「そんな事、良いんだ。 今度からは一番に知らせてくれ。何なら手紙を送ってくれ。仕事中だろうが駆け付ける」

「あはは。そんなの駄目だよ。 えっ? 何?その目、本気? 駄目ですよ?」


隊長たるもの、部下に示しがつきませんから。ね?


「リザベラは腐っても子爵家の令嬢だ。俺の方から貴族のルールで抗議しておく」

手を取ってキスをすると、隣に腰を下ろした。

ぴったりと右側に密着する。

肩を抱き寄せられ見上げれば、眉を下げて不安そうな顔で見つめられる。


「なぁ…。 俺の事、(いや)になったりしてないか?」

いつも自信に満ち溢れているリカルドが所在無さげにしょんぼりと問う。


「これくらいで嫌になったりしないよ」

そう。嫌になったりなんかしない。リカルドには…。

彼が光なら自分は闇か…。

光に憧れる闇。

あぁ、光と闇も対の存在だなと納得する。光がなければ闇も生まれない。

光と闇も番かな?などと馬鹿な事を考える。


嫌になったりしないと言ったが心ここにあらずといった風のルーシェに何を声掛けようかと戸惑っていると再びノックの音が響いた。

こちらは返事をするまで扉が開かれる気配はない。


「はい」

「ルーシェ様、すみません。こちらにリカルド様はいらっしゃいますでしょうか?」

「あぁ。居るぞ」


「失礼致します」と言って入室してきたのはルドルフだった。


「ローランド様がお見えです」

「こんな時間に? わかった。下の応接室に通してくれ」

「はい」

そっとルーシェの頭を一撫でするとそこにキスをして「じゃあ、行くな。 おやすみ」と言って出て行ってしまった。


食事も終わり、普通の家なら寝るための準備が始まるような時間だ。

そんな時間にローランドさんが来るなんて仕事の話だろうか…。

逡巡した後、自分の知らない相手ではないしお茶を出しにご挨拶しに行こうと部屋を出た。



応接室に入ると、ローランドがすっと立ち上がって挨拶をする。

「リカルド隊長。こんな時間に申し訳ありません」


「いや、何かあったのか?」

座るよう、手で示すとローランドが腰を掛ける。

「早めに知りたいかと思いまして」


ローランドの報告はリックの事だった。

リカルド本人がリックと対面すると、聞き出す前に相手が再起不能になってしまう可能性があるので尋問はローランドが行っていた。

ローランドなら間違えはないが不満はあった。直接自分の手で…。


「リカルド隊長? 殺気をしまって下さい」


報告を聞くと、どうやらリックはリザベラに熱を上げているようだった。それもリカルドと付き合っている頃から。二人が一緒にいる所を見かけ一目惚れしたそうだ。

そして彼女と全く会っていない様子のリカルドに【リザベラを蔑にする最低な彼氏】として認識されていた。


どいつも、こいつも…!


ロブレン伯爵邸にリックが招待されたことを知ってリザベラに利用されたらしい。

まんまとリックのパートナーとして乗り込んで、彼にルーシェを引き止めて貰っている間に俺に接近する計画だったと白状したそうだ。リザベラへの想いが強く、彼女に迷惑をかけたくないと今迄口を割らなかった。


「今日、リザベラがここに乗り込んでルーシェに毒づいた。あの二人には罰が必要だな」


ローランドはそれを聞いて渋面な顔付になる。きっとリックとリザベラは接触禁止となり二度と会えないだろう。利用されただけだとしてもリックは除隊。リザベラは貴族席を剥奪、良くて国外追放になるだろう。


「僕はリカルド隊長を尊敬しているんです。本当に…。 だから最初、人間が番だと聞いてとても心配になりましたよ。 だって人は番を理解してないですからね。 本能で感じ取れない分、人間は運命から逃げる。獣人なら番と別れるとか出来ないですからですからね。側を離れるのだって辛いくらいです。 だからリカルド隊長のお相手はあなたを大切にしてくれる人でないと認めたくないんですよ」


「えっ? 照れる。何、急に…、どした?」


「クネクネしないで黙って最後まで聞いてください。 リックやリザベラさんもそうです。彼らが獣人だったらリカルド隊長の番に手を出す事がどんなに恐ろしい事か、理解出来たはずです。 殺される可能性だってあります。それが分からないなんて…。 ですがルーシェさんは番を理解してなくとも、あなたを好きだと言う気持ちは伝わってきます」


死にかけたリカルドを手厚く看病してくれたルーシェをローランドは気に入っていた。


「ま、とりあえずリックには俺からきつく説教するわ」

「ほどほどでお願いします。死人が出ては困ります」

「まぁ、分かってる、 …けど 」

「けど。ではありませんよ?ご了承ください」


二人は声を上げて笑った。




扉の奥からリカルドとローランドの笑い声が聞こえた。

悪いお話しでは無かったんだろうと安心する。

お茶の乗ったカートを寄せると、ドアをノックしようと手を持ち上げる。

すると二人の話題がルーシェの話になった。

気まずくて上げた手を止めてしまう。


「だいたい、今まで付き合ったタイプは気の強い美人系が多かったんだよ。だから俺の番があんな可愛らしい幼いタイプだなんて全く思いもしなかった」

「リカルド隊長は何故か妖艶なタイプに好かれますよね。類は友を呼ぶんですかね。フリーだったら断らない時期もありましたよね」

「はっ、人からそうやって聞くと最低男だな。実際そうだったが…。 だからルーシェみたいなタイプは初めてで戸惑うよ。キスより先には進められない。この俺がだぞ?」


ルーシェは心が凍りついたかと思った。


今、リカルドは何と言っただろうか?

妖艶な女性が好みだから、幼いタイプのルーシェが番でがっかりしているのかしら……?

彼は番だから仕方なくルーシェと一緒に居るしかないのだろうか…。

自分さえ番じゃなかったら、もっとリカルドは幸せだったかも知れない。


ぎゅっと手を握って

そっと持って来たカートを押してその場を離れる。

途中、出会った使用人に引き渡すと自分の事は内緒でこれを届けて欲しいと伝えて自室へと駆け戻った。


ルーシェが立ち去った後も二人は会話を続ける。


「狼の状態でルーシェと過ごした日々は毎日シシリー草食ってたから、番だってわからなかったけど、不思議と出会ったばかりなのに居心地が良かったんだよなぁ。他人と一緒にいる感じがしなかったんだよ。それで番ってわかってからは、

…たまんねぇよ。

今も毎日シシリー草食ってたって可愛くて、可愛くて。 初恋なんだよ。どうやって扱ったら良いかわからない。獣の本能が早く自分の物にしたいってざわつくんだよ。こんなの初めてだ。顔を見たら、声を聞いたら、匂いを嗅いだら。止まらなくなる。愛したくてたまらないんだ」


「プレイボーイのリカルド隊長が思春期の青年みたいで可笑しいですね」

ローランドは口元へ手をやって面白そうに笑う。


「笑ってくれて結構だよ。 シシリー草のせいでルーシェの香りも側に寄らなきゃわからねぇ…」

「鼻づまりの狼…。ブフッ」

「おい。笑うな」

「さっき、笑ってくれって…。ブフッ」

「………」


「恋愛の駆引きも無く必死だぜ。

番ってのは運命の人ってか、半身ってか、互いしか居ないんだが、人間にはわからないよなぁ~。 ルーシェと離れるなんて考えらんなくて、すぐプロポーズして国に連れて帰って一緒に住んだくらいだ」

「それで職場での泊まり込みとかも止めたんですね。正解です」


そこまで話すと、使用人がお茶を運んでくれた。

それからもリカルドの惚気に付き合わされたローランドが帰宅したのは深夜を回ろうという時刻だった。









【リカルドとローランドの会話】


「所で…。この国にはシシリー草は無いのですが、リカルド隊長はどちらで入手されていますか?」


「あぁ、あれは裏庭の森に行ってシシリー草くれって森の精霊に頼んでるんだ」


「…森の精霊、にですか…」


急にがっかり項垂れたローランドを見て不審に思う。

 「どうした!」


「いや、販売していたら購入したいと思いまして。 私にはすでに心から愛しているアリサが居るのです。アリサも私を愛しています。ですが、我々は番ではない。いつ番に出会ってしまうか……。不安です」


「そうか…。 シシリー草があれば嗅ぎ分ける事が出来ないからな」


「はい。 パートナーがいる獣人には番は毒ですからね」


「分かった! ルーシェから森の精霊に聞いて貰えないか確認しておこう。俺もこっそり精霊から貰ってるから身だからな」


「有難うございます」


ローランドは今日イチの良い顔をした。





最後までお読み下さって有難うございます。


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