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81.いなくなった妹

 それからシグルドとラファエラとは程々に雑談を交わし、急なお茶会はお開きとなった。別れ際には「また遊ぼう」と言ってくれたので、それなりに仲良くはなれたのだろう。アーサーにも一応報告を終えて、ラハートとは後日改めて話し合いをする旨を伝えて城を出た。


 全員転移魔法で送りたかったが、無闇に空間属性で他者へ干渉すると悪い影響も出かねない。渋々馬車で数日掛けて帰り、またアランは更に半日掛けて邸宅へと戻っていった。


 


 その同日の夕方。フォルトナの執務室にて、不在時の仕事を確認しながら軽食をつまんでいると、慌てた様子で使用人が飛び込んで来た。


 額には脂汗を浮かべ、息も乱れている。相当急いで走ってきたようだ。何か起きたのだろうが、俺まで焦っては収集がつかない。ここは落ち着いて話を聞くべきだろう。


「アーミラ様、大変です!」


「一体何事ですか」


「今しがた本家より伝令の馬が来たのですが、リーン様が行方不明になったと―――」


 そう思っていた俺は、頭を金槌で殴られたような衝撃に見舞われた。リーンが行方不明? かくれんぼで見つからないとかではなく、行方不明?


「それは、どういうことか、その、詳しく説明を……早く……」


「午前中に帰宅なされた旦那様が、昼食を終えた後にリーン様にお会いに部屋へと向かわれた際に発覚しました。その日は朝食で食卓に顔を出された後、誰もお姿を見ていないとのことで、街も探したのですが……」


「モニカは? 護衛は? 何をしていたのですか?」


「……ッ! そ、その、本当に気付いたらいなくなっていたと、本当に消えるようにして何処かへ行ってしまわれたようでして」


 その瞬間の俺は、恐らく凄まじく恐ろしい顔をしていたのだろう。目を合わせた使用人が、恐怖で顔を引き攣らせるのが分かった。


 しかし、相手を慮って冷静さを保つ余裕はなかった。何故か、リーンに渡したトーテムの反応が無いのだ。いや、無いというよりも、感応を何かに阻害されている。まるで電波のジャミングのように、魔力の感知がノイズ掛かってうまくいかない。


 一瞬攫われたという思考が脳裏に過るが、その可能性は極めて低い。


 今は時期的にサラがあの子の面倒を見ている。目敏く、感の鋭い彼女がそう易々とリーンに不審者を近づける筈がないのだ。そうでなくとも、何も気付かせずに攫わせる事は無い。


「……するとなんだ、神隠しにでもあったと言うのか?」


「あ、アーミラお嬢様……?」


 冗談じゃない、神であろうとなんであろうと、そんな事は断じて許さない。


「報告、ご苦労様です。下がりなさい、私は今から本邸へ向かいます」


 俺は使用人へそう言うとほぼ同時に、転移術式を起動していた。






 転移した先は、屋敷の前に続く道路だった。本来なら、屋敷裏手の倉庫横に出る。魔法陣を使用しなかったせいで、若干目的地がズレたようだ。


 ただ、そんな誤差に構っている余裕はない。すぐさまもう一度小規模な転移を行い、直接屋敷の中――アランの執務室へと入る。


「父様、リーンがいないというのは事実ですか?」


「お前、急いでるからってちゃんと扉から入ってこいよな……」


 丁度報告の途中だったのか、家令が目を丸くして突然現れた俺の事を見ていた。アランも若干呆れ気味で、あまり緊迫した様子はない。


「リーンが見つからないのは事実だ。今もう一度街の捜索をさせている。衛兵が森と街道へ抜けた人影を見なかったと言っているから、多分まだ何処かにいるはずだ」


「トーテムの反応がありません」


「……成程、単なる行方不明じゃないみたいだな」


 どうやら遠くへは行っていないであろう事から、まだ落ち着いていられたようだ。とは言え、俺の感覚ではリーンは屋敷周辺にはいない。方角も不明だが、遠くから極微小のあやふやな魔力が感じられる。


「師匠は? 暫くこちらにいると言っていましたよね」


「今捜索隊に加わってくれてはいるが、先生は昔から人捜しが苦手だから当てにするな」


 数百年自分の後継を見つけられなかった男だ、人捜しが下手なのは知っている。とは言え、師匠なら一度見た魔力であれば感知して、大まかな方角くらい分かると思ったのだが……。


「……お前の話が事実なら、一つ思い当たる節がある」


「早く話してください」


 俺が促すと、アランは家令を下がらせてから居住まいを正した。


「昔、一度だけお前を狩りに連れて行った森があるだろ。あそこにいる可能性が高い」


「何故ですか?」


「まだ言ってなかったけど、あそこはちょっと曰くがある土地なんだよ。俺も親父から聞いた話だが、森の奥には霊廟があって、そこにとある人物が祀られてる」


 要領を得ない言い方をされ、俺は訝しみを顕にする。アドルナード領に霊廟があったなどは初耳だ。しかもこの言い方だと、共同墓地などではなく特定の人物を祀っていることになる。


 それが一体リーンの消息不明とどう関わりがあるというのか、俺には分からない。


「昔、俺と兄貴が悪さする度に親父に脅されたんだよ。そんな子供は"森の奥からジュシ様が来て連れてかれるぞ"って」


「ジュシ……様?」


 ジュシ……何処かで聞いた単語な気がするが、こういう場合は大抵ゲーム内でだ。しかし、記憶にある限りではそんなキャラもボスも信仰対象もいなかった。


 ここで重要なのは、リーンの行き先。可能性があるのなら、探しに行くしか無い。


「私が行きます」


「あ、ちょっと待て! お前だけで行って行方不明になったらどうする、ナーブスを連れてけ」


 俺は一度アランの方を向いて頷くと、今度はしっかり早足で扉を開けて部屋を出ていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最新話に追いついてしまった
[一言] お姉ちゃん頑張れ-!リーンを連れ戻す
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