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74.王からの呼び出し

この辺りの話は一話が長いとダレそうなので短めです

 五度目の誕生日を終えて暫く、珍しく本邸からアランがやって来た。それもよそ行きの服を着て、外交に使う紋章付きの馬車に乗って。


 嫌な予感がした俺は、忙しいを理由に話を後にするという手を取ったが、生憎と使用人は本来の雇用主の言うことは断れない。結局は開拓村――正式名フェルトナの屋敷の執務室で、難しい顔をした父親と対面することになってしまった。


「王から名指しで宮廷へ招かれた」


「そうですか、気をつけて行ってらっしゃいませ」


「いや、お前も行くんだよ」


「なんて????」


 待て待て、なんで俺も一緒に行かなきゃいけないんだ。開幕の一言を聞いただけでも厄い。今まで面倒事に関わって来た俺の本能がそう告げている。


「え~、でもぉ? わたしまだ5さいだから、わかんないっ」


「……ッ」


 キャピキャピと擬音が後ろで流れそうな程、精一杯幼さと可愛さを装ってそう言うと、アランは胸元を押さえて蹲った。


「そ、そんな可愛い声で言っても、駄目なものは駄目だ! いや、マジで可愛いんだけどさ……今回呼ばれてるのは俺じゃなくてお前なんだよ」


「私が?」


 ……何か王様に呼ばれるような事したっけ?


 ちょっと思いつきで国家中のブームになるようなゲームを作ったり、勝手に繁殖例のない作物の栽培に成功したり、後はクーデターに繋がりそうな輩を排除したり、都市を滅ぼしかねない魔物も討伐とかはしたけど、悪いことはしていない筈なんだよな。


「心当たりを探してる顔をしてるが、多分全部だと思うぞ」


「えっ」


「図星か」


「ああいや、冗談です」


 正直に言うとやっとか、という気持ちが強い。なにせ態々それなりに派手に活動をして来たのは、王とのコンタクトを取る為と言っても過言では無かったからだ。


 まあ、それはそれとして行きたくない気持ちも本音としてある。だって、絶対面倒くさいじゃん?! ただでさえ貴族と関わるのが苦手なのに、王族なんてその上位互換みたいな相手だし。


 そうするべきかどうかと、やりたいかどうかはまた別の話なのだ。王族とのコネなんて千載一遇の好機だから、絶対会いに行くけど……。後は、ちょっと危惧している事が何点かあるので、そこが俺の精神を摩耗させている。


 何事も無ければ良いんだけどなぁ……。







 リガティアの王族は、嘗て半神であったグラニオウスの末裔である。それ故に、今まで王政は打倒されず、代々絶える事無く同じ血縁の子孫たちが玉座に座して来た。


 その宮廷は王都の最も高い場所、貴族たちの住まう区域を超えた場所にあった。


 本来は城と言うべきなのだろうが、俺の主観で宮廷と表現するべきだと思ったのでそう言っている。なにせ中央にある本棟から横に長く城壁が連なり、縦よりも圧倒的に横に広いのだ。


 本棟の形状は城であっても、全体を見ると宮廷っぽい。


「ややこし」


「何か言ったか?」


「いえ」


 今回アランが同伴したのは、流石に王と謁見するなら保護者がいないと拙いと判断してのこと。俺としても、こんな巨大な建物にたった一人で行くのは御免だ。よく人前で大物ぶってはいるが、性根は一般市民だからな。


 深い堀に架けられた橋を馬車で渡り、敷地内に入った後は歩き。メイドと御者は馬車と共に一旦分かれ、今ここにいるのはアランとその護衛と俺のみ。ただ、入城に関する面倒くさい手続きは全部アランがやってくれるので、俺は城の見学に集中出来る。


 造りとしては一般的な中世の王城とさして変わらない。一つ違う点を挙げるとすれば、城門や扉が死ぬほどデカい。それはもう、巨人が出入りする為にこのサイズにしたと言われても信じる程度には巨大である。


「……覇王は、もしかして巨人族だったのでしょうか」


「面白い考察だ、アーミラ・アドルナード」


 俺が独り言つそれに、先程まで手続きの為にアランと話をしていた一人がふと返事をした。初老の、眉なしの頑固そうな顔をした男だ。深い海のような色をした目は鋭く、眉間には常に皺が寄っている。地毛は金髪なのか、白髪と混じって良い渋みを出している。


「この城門は、嘗て覇王グラニオウスの友であった半巨人(ハーフジャイアント)の為に作られたと言われている。故に、貴公の考察はあながち間違いでもない」


 そう言った男は、値踏みするような目つきで俺を見ている。態度からして油断ならない雰囲気を醸し出しているが、やはり分かるものには分かるのだろうか。


「そうなのですね、勉強になりました。ところで、あなたのお名前を聞かせて頂いても宜しいでしょうか?」


「グルシャ・マクラーレンだ。大臣としてこの王城で働いている。滞在中、何かあれば頼るといい。リヒターとは昔からの友人でね、こういった機会があれば面倒を見るように言われている」


 マクラーレン、確か宮中伯の一人だな。家格は侯爵、仕事としては内政の統括を担当する有能な家系だった筈。クラルヴァインとも古くから交友があり、親王派の筆頭でもある。


「おや、手続きが済んだようだね。それでは行くとしよう、王が待っている」


 マクラーレン家も将来自陣に引き入れるリストに入っており、優先度的に言えばハーゼシュタインの次の次。純粋な戦闘力という点ではなく、政治的手腕から味方にしたい家系の一つだ。


 個人として関わるには少しやりづらい相手――とは言っても既に繋がりがある状態なので、攻略難易度は低そうでもある。


 それよりも気にするべきは、中央にいる他の貴族だろう。


 此処から先は気を引き締めていかなければならない。なにせ、何枚舌があるかも、腹の中にどれだけ黒いものを隠したのか分からないような連中が待ち構えているのだ。


 俺は小さく深呼吸をすると、門を潜って中へと足を踏み入れた。

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