表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/85

61.社会科見学

 麦わら帽子から落ちる影が大分濃くなり、畑仕事をしていた手を止める。もう土いじりなど何年もやっていなかったが、久しぶりに実家の畑で仕事を手伝っていた頃を思い出した。学校が休みの日は朝から祖母に連れられて茄子やらトマトやら、色んな野菜を育てていた。


 気付くと知らない内に時間が過ぎていて、こっそりつまみ食いして怒られたりもしたっけか。


「……ふぅ、今日はこの辺りで終わりにしましょう。皆さん、一日お疲れ様でした」


 日が落ちかけているの確認して、そう声を掛けると村の人々は作業を切り上げて片付けに入った。開拓村の建築に関してはほぼ終わり、仮設だった執務用のテントも立派な建物が立った。今は開墾を終えた土地から作物の栽培を始めている。


 初夏が過ぎ、少しずつ日の落ちる時間が遅くなって来たことで大分仕事の能率も上がった。此方の世界では魔法があるとは言え、電気が無い為夜間に作業は不可能だ。


 なので夏場は働き時であり、できるだけこの期間に色々なタスクを進めておきたい――――





 そう思っていたのだが


「アーミラ様、最近ちょっと働き過ぎじゃないっすか?」


「この程度普通です。サラがサボり過ぎなだけでしょう」


「いやいや、あーしがサボってるのはおいといて、アーミラ様はまだ子供なんすから、あんまり無理すると身体壊しちゃうっすよ」


 夕食を終えた後、執務室にて書類を片付けていた最中、サラに働きすぎと言われてしまった。


 彼女の発言に開拓村在住メイドたちはしきりに頷き、肯定の意を示す。とは言っても、そこまで自分が無理をしている自覚は無い。


「朝はメイドより早く起きて鍛錬、午前中は労働者達の指揮。午後も殆ど働き詰めで、こんな時間まで書類仕事っす」


「……?」


「その、普通では? みたいな顔してる時点でアウトっす。四歳児は一日十二時間働かないし、普通はもっと遊ぶもんっすよ」


 まあ、他の子供と比べたらそりゃあ働きすぎかも知れないが、今この時期は本当にやっておくべきことが多いのだ。遊んでいる場合ではないし、それに週二回は休みを設けているので十分自由時間はある。


「ゼダさんもそう思うっすよね?」


「そうですな、お嬢様は些か働きすぎと」


 サラが話題を振ると、ゼダまで同意してしまった。因みに普通に会話をしているが、コイツの正体は使用人達には明かしていない。どうせ呪いで俺以外に対しては何も出来ないし、知らぬが仏という奴だ。


「……一応言っておきますが、これは私の本音ですぞ」


「ご丁寧にどうも」


 態々耳打ちで「話を合わせた訳では無い」と伝えられ、俺は半目で返事をする。


 このジジイ、暗殺を試みては全部失敗に終わって、最近はこういった地味な嫌がらせに路線変更し始めたからな。


 俺は常時空間属性の結界で全身が覆われており、ナイフで刺そうが火で炙ろうがそもそも肌に届かない。術式を弄れば、必要な要素以外の大気中の成分すら分離出来る。つまり俺と外界との間には、薄皮一枚に見えて途方も無い距離の断崖が広がっているようなものなのだ。


 そこに人が手を伸ばしたところで、対岸に届くわけがない。師匠曰く、リフカの系譜は()()()()()()()()()()()()()()()()()と言っていた。


 ゼダに絶対殺されないと断言した理由は他にもあるが、恐らく世界で最も硬い少女と化した俺を殺せるとしたら、同じ空間属性の使い手――師匠のみだろう。


 ただ、魔族側がどんな手札を持っているか分からない以上、出来る限りの備えはしておくべきだ。俺単体がどれだけ死ににくくなっても、領地にいる人々は違う。何か一つでも間違えてしまえば、どれだけの死者が出るのか――――




「――――で、そんなアーミラ様に良いお話があるんすよ、これっす」


「お話?」


 俺が少し思案にのめり込みかけていたところを、サラの声で現実に引き戻される。同時に手渡された紙は、デカデカと『冒険者組合見学会!』と書かれており、この時代の手紙とは違う――チラシのようなポップさがあった。


「なんですかこれ……」


「実は旦那様からアーミラ様に回すように言われた案件なんすけど、なんか冒険者組合が貴族に向けて見学会を開いてるらしいんすよねぇ」


 冒険者組合とは、雑用から秘境探索まで行う何でも屋である冒険者たちの互助組織だ。国家という枠組みに属さない独立した組織であり、個として成立する程度には規模もある。


 ゲームだとチュートリアルの時点で主人公が冒険者として組合に登録するイベントがあり、組合でメインクエストとは違う寄り道専用のサブクエストが受けられた。サブクエでは金策が出来たり、限定アイテムが手に入ったり、色々恩恵もある。


 クエストを達成して冒険者ランクを上げれば上位のクエストが開放されていき、真面目にやり込んで全クエスト達成すると本編より時間が掛かる程だった。


 肩書が冒険者のNPCも多く、仲間にすると有能なキャラも多い。あの光の貴公子でさえ、最初に出会うイベントは冒険者組合でだ。


「要は社会科見学ということですか」


「社会科……なに?」


「気にしないでください」


 あったなあ……遠足とは少し違う、工場とか浄水場とか見学に行かされる小学生のイベントの一つ。通常授業が無いから嬉しかった記憶がある。


 とは言え今冒険者組合に見学に行って、何か得られる物があるとも思えない。本編の時間軸ならいざ知らず、この時期の冒険者に目立った人物は――――


「……いや、今から来るのか」


 よく考えると、俺の知るキャラたちの殆どはまだこの時代では無名だ。そんな彼らをいち早く見つけて、うちの陣営にスカウトすることも可能なのではないだろうか?


「ならばその冒険者組合見学会とやら、行きましょう」


 そうと分かれば行かない手はない。既存の戦力を強化するのも必要だが、外から補強するのも大事だからな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 四歳児にしては恐懼する程の働きっぷりです。。。しかし領地全滅イベントを防ぐ為に必要かもしれない。 しかしクズ暗殺者は未だ居たのか。やはり置いておく思考回路が理解不能です。。。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ