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48.本来の力

よく分かる属性相性例


火属性→風属性(x1.5)

火属性→水属性(x0.8)


空間属性→ALL(1.2)

ALL→空間属性(0.9)


 俺が血を吐いたことでブリジットとザーシャから悲鳴にも近い声が上がったが、即死していない時点で問題はない。


「アーミラ様……ち、血が……」


「平気です。それよりもブリジット様、そこのザーシャから離れないように」


「何で俺が……って、分かってるよ。守りゃいいんだろ、守りゃ」


 抜剣したザーシャと背後で怯える赤髪の少女を一瞥し、正面に視線を戻す。


 さて、ここで漸く答え合わせだ。


 正体を現した老執事の顔には平時と変わらぬ穏やかな笑みが浮かんでおり、それがいっそ猟奇的にすら見える。


「やはりあなたが犯人でしたか、しっかり怪しいとは思ってたいたんですけどね」


 ブリジットに呪いを掛けた術者は、カナではなくゼダだった。色々とヒントはあったが、俺がその可能性に気付いたのは茶会で出されたお菓子を食べた時だ。


 トレーの上に並べられたクッキーには、全て呪いが掛けられていた。もっと正確に言うならば、食べた者を呪うことが出来るようになる触媒が仕込まれていた。


 一つも食べないのは怪しまれるので、ブリジットが口にする前に偶然を装って残りを地面に落としたのは正解だったらしい。


 俺の体内で発動した術式は、内臓を尽く壊死させるものだ。一つ拝借して触媒の術式を解析した為、ちょっと血を吐く程度で済んだが、普通の人間なら即死している。


「成程、カナへと意識を誘導したのは意味がなかったということか」


「正直彼女と五分五分でしたけどね、庭に咲いていたのが毒花ばかりというのもちょっと判断を迷わせました。あれはあなたの趣味で?」


「そうだ、手を回して植えるように言ったのは私だ。呪いの触媒作りに使うのでな」


「合点がいきました」


 景気よく吐いた血の残りを吐き捨て、口元を手の甲で拭う。それでも鉄の味は未だ消えず、不快感を残している。


 よもや外見だけなら愛らしい幼気な少女であるこの俺を容赦なく殺しに来るとは思わなかったが、そもそも彼女に掛けた呪いを見ればまともな倫理観を期待するだけ無駄だった。


 今、俺の目の前にいる男は正常に狂っている。言い換えれば、必要な要素を満たした模範的な暗殺者だ。


 殺すという職務において、相手の性別や年齢や事情を一切考慮しない生粋の仕事人。プロとしては、この上ない人材だろう。


 唯一、殺し損ねた――という部分に目を瞑ればだが。

 

「しかし、今のは即死の呪いだった筈だが……何故生きているのか不思議でならないな」


「この程度で俺を殺せると思っていたなら、流石にそれは侮辱だぞ」


 元が日本人とは言え、俺も大分実家(脳筋)の空気に染まってしまったらしい。余りに拙い術式を使われた事に侮られたと感じ、思わず素が出てしまった。


「そもそもお前と俺では、魔力量と質の絶対的な差がある。殺せる訳ないだろう、ド三流が」


 呪いとは、要は相手の体内に自分の魔力を送って効力を発揮する術だ。魔力が多く、そして強い人間に対しては相応に効果が減る。


 俺はゼダが術式を発動した直後に――若干のディレイはあったが、レジストした上で即座に体内の呪いを空間魔法で隔離した。後は転移で何処へなりとも飛ばせば完全に無力化出来る。


「無論、お前が俺に勝てる未来もない」 


「フン……」


 今回は領地や王都の時のような、どちら側か分からない者の目が無い。今まで手を抜いていた、と言うのは語弊があるが、少なくとも無駄に手札を隠して戦わずに済む。


 正直俺は少し――いや、かなり怒っていた。


 まだ幼い少女を標的に、徐々に衰弱して苦しみながら死に絶えるような呪いを掛けるその残酷さが気に入らない。何の罪も無い子供だろうと平気で殺す、俺が一番嫌いな人種だ。


「ただ喜べ、本気で相手してやる」


「調子に乗ったガキが戯言を、年季の違いを見せてやろう」


 ゼダは俺の言葉を鼻で嗤うと、懐からナイフを取り出して動き出した。老人とは思えない機敏さで、瞬く間に距離を詰めてくる。足音を殆ど立てず、最低限の動きだけで走る暗殺者特有の歩法だ。


 俺は慌てることなく静かに待ち構え、数メートルまで距離が縮まったと同時に並列思考で構築していた術式の一つを発動させた。


「下がれ」


 俺と奴との間に斥力を生み、強制的にその体を跳ね飛ばす。宙を舞ったゼダは受け身をとって着地するが、かなりの距離を取らされた事で顔を顰めた。


「小癪な」


 忌々し気な声音でそう言うと、膝立ちの体勢から踏み込み、再び俺へと接近してくる。


「『転移(ポート)』」


 俺は転移魔法で横に飛ぶことでその軌道から逸れ、もう一度転移しながらゼダの背後に回り込む。


「ッ!」


「『有為転変(ナ・ミラ)』『硝穿天乱(カー・エン)』」


「がッ……!?」


 以前使った魔力をレーザーに変える魔法の、()()()()()で放たれたそれらがゼダの手足を貫く。


 意図して胴体などの致命傷になり得る箇所には命中させなかったが、それでも骨ごと貫く威力の攻撃を食らって無事では済まない。穿たれた箇所から血を流しながら、暗殺者は脂汗を浮かべながら膝をついた。


「貴様……今のは、一体何だ……」


「空間魔法と魔力の光線、後者はちょっと抵抗しにくいが単なる魔術だよ」


 魔力を纏った人体を貫通するには相応の威力を持つ攻撃で無ければならないが、俺の持つ空間という特殊な属性は他全ての属性に対して抵抗(レジスト)がほぼ効かないという特性を持つ。故にどれだけ強固な結界や身体強化で身を固めようが、大抵は柔らかいゴムでも刺すように貫く。


 そして、本来この『硝穿天乱』という独自の魔術は、堅牢な魔獣の肉と骨を穿つ事を想定して作ったものだ。対人用に威力の調整が出来るだけで、やろうと思えば分厚い鉄板だろうと破壊してみせる。


「それが賢者の力という奴か……だが、私とてこの程度で戦意を喪失する程軟ではないぞ」


 その台詞を証明するように、ゼダは持っていたナイフを――俺ではなくブリジットたちへ向けて投擲した。


「成程そう来たか」


 投げた本人もナイフと同じ方向に走っている。俺が攻撃を防げばその隙を突いて来るだろうし、そうでなかった場合あちらを殺しに行くのだろう。


 普通に考えると面倒な二択だが、それは狙われた側が完全なる無力であることが前提だ。


「ザーシャ」


「……って、おおう!?」


 俺の呼びかけに若干呆けていたザーシャが我に返り、剣の鞘でナイフを弾く。そしてそのまま腰を落として抜剣の構えを見せた。


 源流を別大陸に持つ、剣聖とその息子から教わった剣技を振るおうとする姿は堂に入ってる。一端の剣士らしい顔つきをしているし、中々の研鑽を積んで来た甲斐があったというものだろう。


「神鉄一刀流居合――虎神反断(こじたんだん)


「ッ」


 下段から縦に振り抜かれた剣は辛うじて躱されたが、それでもゼダの顔には驚愕が浮かんでいた。それも当然、今の一撃はこの歳の少年が放つ剣の鋭さではない。


 宙に汗の玉が飛び、確実に暗殺者の纏う殺意の衣を切り裂いた。


「悪い外したっ!」


「構いません、術式の構築は終わりました」


 故に、択を一つ潰せただけで十分。動揺を顕にした瞬間に、奴の勝ち筋は完全に消えている。


「『咎人を(ヴァ・ルシャ)』『永劫の魔鎖にて縛しろ(エラ・ト・カニス)』」


「ぐっ……これは……」


 俺の手から白銀の鎖が放たれ、身を反らしたことで完全に無防備だったゼダの身体を縛った。


「空間ごと捕縛する鎖だよ。物理的に引きちぎるのは不可能だし、お前の魔力では破壊も出来ないから抵抗しないことだな」


 縛り付けられたゼダは暫く藻掻いていたが、俺の台詞を聞くと途端に動きを止める。


 鎖で雁字搦めにされ、地面に這いつくばるゼダを見て安心したのか、ザーシャは剣を鞘に収めた。ブリジットは……ちょっと今はまだ心の整理がつかないのか、放心状態にある。


「……いよいよ本性見せたな」


「どうしましたか?」


「な、何も言ってねえよ! それよりもだ、お前の予想した通りだったな。やっぱりこの爺さんが犯人か」


「そうですね、何を目的にこのような事をしたのかは後々聞くとして……まずは」


 俺は一度そこで言葉を区切って、倒れているカナのところへ向かった。首筋に手を当てると、ゆっくりと脈が感じられた。


「ちゃんと生きてますね」


 状況的に考えて俺たちを殺した罪を彼女に擦り付ける予定だったろうし、死んでいるとは思っていなかったが一応安心だ。


 後は何がどうなったのか分からないでポカンとしているうちのメイドと、ブリジットのメンタルケアをして――それからこの男の尋問を始めよう。


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] どうやらアーミラさんは予想以上に中々賢いですね! しかし冷血かつプロ暗殺者に手加減を加えるのは危険だと思いますが、それほどの実力差だったでしょう? オーソドックスな詐欺とチンピラ数人に負け…
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