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45.偽られたお茶会

作中に登場するオドとマナの設定をそれぞれ逆の意味へと変更しました

 クレーデル領はファッションの最先端ということもあり、街には幾つもの服飾店が立ち並ぶ。中でもトエルの本店は大きく目立ち、また外装だけでその格式の高さが伺えた。


 今日はクレーデル伯爵令嬢、ブリジットに招待されたお茶会の日。開拓村から王都を経由し、今日の朝領内に入った。


「いつにも増して不機嫌ですね」


「……何で貴族にゃ態々三日も掛けて、他所の家まで嫌味と茶をしばきに行く習慣があんだよ」


 従者として付いて来たザーシャは、不満気に頬杖をついて外の景色を眺めている。


 貴族嫌いもあるが、無駄に時間を掛けてお茶を飲みに行く事が純粋に理解出来ないらしい。まあ、あんまりにも遠いと疲れるし、俺だって好きじゃないけどね。


「ゲイル氏には普段お世話になっていますから、頼まれごとには出来るだけ応じたいのですよ」


「こんな狭い場所じゃ剣も振れねぇ。茶を飲んでる暇があったら修行したいんだよ、俺は」


「あら、馬車でもトレーニングは出来ますよ? ほら空気椅子、自重だけでもいい負荷になります」


「もしかして、三日間ずっとそれやってたのか?」


 ザーシャの発言通り、師匠の言いつけで長距離移動の際はこうした場所を取らない筋トレをやらされている。まだ体が出来上がっていない為、負荷の大きいものは避けているが、それでも大分筋肉量は増えた。


「体幹は大事ですからね、下半身がしっかりしていれば大体何でも出来ます。筋肉は裏切りません」


「おぅ……お前まで親父さん(アラン)と同じこと言ってやがる……」


 筋肉による暴力は、原始的だが最も手軽で効果的な攻撃手段だ。魔術師対剣士もタイマンなら後者が圧倒的有利だし、極論人間なんて鍛え上げた筋肉を使ってグーで殴れば大体倒せる。


 不服にもアランと同じ思考をしているのは、俺も少しアドルナードに染まってしまったからかも知れない。


 全てでは無いにしろ、暴力は大体の物事を速やかに解決してくれるからな。正しい使い所を分かっていれば、この上ない武器になる。魔法と合わせて、合理的かつ法を破らない程度に使っていこう。


 と、そんな話をしている間に、馬車は丘上の屋敷へと到着。


「ったく、貴族ってのはどいつもこいつも家が無駄にデケェな」


「威厳を示す為に必要な事ですよ。もし貴族が平民のような小さな家に住んでいたら、その領地は他所から貧しいと思われるでしょう」


 クレーデル家の屋敷は、伯爵家にしてはかなり大きい。流石有名国内ブランドを持つ貴族は違う、門の作りからして立派だ。


「ようこそおいで下さいました、アーミラ・アドルナード様」


 門前に着いた俺たちを出迎えたのは、高齢の家令だった。蓄えた髭も髪も白いが、背筋だけはしっかりと真っ直ぐに伸びている。広い肩幅などの体格から、昔は精悍だったのだろうことも伺えた。魔力の量もそれなり、一般的な魔術師の平均以上はある。


「御機嫌よう、本日はお招きいただきありがとうございます。えっと……」


「ゼダで御座います、招待状の確認をさせて頂いても?」


「ええ、ゼダさん」


 ゼダと名乗った家令は使用人が渡した招待状を確認すると、再度深々とお辞儀をした。


「確認しました、確かにお送りした招待状に間違い御座いません。では、此方へ。お屋敷へとご案内差し上げます」


 促されて門を通ると、真っ先に丁寧に整えられた庭園が目に入る。広いし、なにより植えてある花の数がうちとは段違いだ。目が楽しいというのはこのことか、と思いつつもしかし――俺は眉を顰めた。


「あの、他に参加される方々が見えないのですが」


「それはそうでしょう、今日お招きしたのは貴女だけですので」


「……はい?」


 おかしいな、俺は確かにゲイルからお茶会の招待状を受け取った筈だ。お茶会というのは、大抵参加者が何人もいるもので、よほど親しくない限り一対一ですることは滅多に無い。


「申し訳御座いません。どうやらその様子では、ゲイル様は何もおっしゃられなかったのですね」


「えっと、それはどういうことでしょうか? もしかして何かの手違いで……?」


「いえ、何も間違いなど御座いません」


 ゼダは歩きながらも謝罪の言葉を述べるが、俺の言葉を肯定することはなかった。それを見て静かにザーシャへと目線を送ると、彼はそれとなく腰の剣の柄に手を乗せた。メイドをも逃走経路を確認し始め、私とゼダの間に体を差し込む。


「どうやら勘違いされておられるようですが、何か後ろ暗い(たくら)みからお呼びしたわけではありませんので、従者の方もどうぞご安心ください」


「……ッ」


 だが、此方の動きを見透かしたようにそう言われてしまい、ザーシャは思わず鼻白む。


「寧ろ私共は貴女様にお願いが御座います。どうか、ブリジットお嬢様を助けては頂けないでしょうか?」


 そして次の言葉で、俺も首を傾げる事になった。


「何故私に助けを求めるのか、話が見えません」


「まずはお嬢様とお会いして頂きたい、それから詳しい説明を致します」


 お茶会を偽り、俺を呼び出すような話とは一体なんだ? 一見するとたかが三歳と半年の子供に、助けを求めるなんておかしい。


 そんな俺の疑念を他所に、ゼダは廊下の中腹にあるニ枚扉の前で立ち止まる。


「着きました、此方がブリジットお嬢様のお部屋で御座います。お嬢様、アーミラ様が到着なされました」


「爺、それは本当!? はやく部屋へ入れて頂戴!」


 ノックの音に続いて、中から甲高い少女の声がした。それを聞いたゼダが扉を静かに開けると、部屋の内装があらわになる。


 中は至って普通の少し広めの寝室だが、窓際にあるベッドには沢山のぬいぐるみが飾られている。そしてそのベッドには、俺と同い年くらいの少女がいた。


「よく来たわ、あなたがアーミラね? 私はブリジット、ブリジット・クレーデルよ!」


 目の醒めるような真っ赤な長い髪、意思の強そうな緋色の瞳。形の良い眉は溌剌とした彼女の表情を彩り、その口は自信満々に弧を描いている。


 リーンとはまた違った元気で可愛らしいお嬢様だが、唯一その肌だけは日に焼けたことがないように不健康な白さをしていた。それに部屋に置かれた木製の車椅子を見るに、恐らく彼女は足が悪い。今もベッドにいることを考えると、寝たきりなのだろう。


 ブリジットを助けて欲しいと言ったのは、恐らくその足にまつわる何かか。


「爺、お茶とお菓子を持ってきて、お茶会をするわよ!」


 あ、でもお茶会する気も満々なんだ。

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