29.なんでお前と
「……クソ、なんで俺がお前と一緒にいなきゃなんね―んだよ」
「それはこちらの台詞です、何故あなたのような狂犬を側に置かなければならないのか……全く」
夕方、パーティーの準備が始まって大忙しの屋敷の中、主役である俺はザーシャと共にそれを眺めていた。――誠に遺憾ながら、こんな奴と一緒に。
「言っとくが、俺はジジイに命令されただけで、お前の言う事はこれっっっっっっっっぽっちも聞くつもりはねえからな」
「私こそお祖父様に頼まれたからあなたを預かっただけで、使い物になるとはこれっっっっっっっっっぽっちも思っていませんから」
グランから頼まれたのは、ザーシャを護衛として俺の側付きにするという内容だった。元々彼を鍛えていたのはそういう役割を持たせる為で、年の近い俺に丁度良いとさっき思いついたらしい。
確かに俺には専属の護衛が居らず、頻繁に――それこそ昨日だって危ない目に遭っている。アランもそろそろ護衛を雇うかどうかという話をしていたから、丁度良いと言えば丁度良いのだ。俺の精神年齢が肉体年齢より高めであることも加味してのことだろうし。
ただ――――
「俺の方がこれっっっっっっっっっっぽっちもお前に仕える気はねーし!」
「はん! 犬が吠えてなさい、例えこれっっっっっっっっっっっぽっち使い物にならなくとも使い潰して差し上げますから」
しかし、未だにコロコロコミックの下ネタで笑える人種であり、小学生の甥っ子とスマブラして本気になる、ある意味では永遠の小学三年生おじさんの俺はクソガキにマジでキレる。大人を舐めた子供が嫌いだからとかそういうのではなく、純粋に煽り耐性がないからだ。
「あー、あなたと無駄な会話をしたせいで喉が乾きましたね、飲み物を取ってきてください」
「はぁ? それぐらい自分でやれよ、なんで俺が取ってこなきゃならねぇんだ馬鹿」
この会話一つ取っても、俺の台詞がまずクソガキ染みている。恐らく俺がザーシャの立場であっても、同じ事を言うだろう。つまりこの場にいるのはクソガキ二人というわけで、当然言い争いになるわけだ。
……冷静に考えても、本当に最悪の相性だな。
「アーミラ様~! 不肖サラ、只今戻ったっす!」
そしてここでクソガキ三号の登場である。ハーゼシュタイン家での聞き込みを終えたサラが、馬鹿面で駆け寄ってきた。とは言えやることやって来たのなら、このクソガキ二号よりはマシである。
「あ! このクソガキ! なんでアーミラ様の隣にいるんすか!?」
「クソガキ言うな! おめーこそチンピラがメイド服着て何しに来たんだよ!?」
「チンピラじゃねーっすよ! あてぃしは名誉あるアドルナード家に仕える女中っす! お前の方こそ不良がお嬢様の側にいるんじゃねーっす」
「……はぁ」
クソガキ三人集まればなんとやら、一抜けして争うのを止めた俺は盛大に溜息を吐いた。なんだか少しだけ大人に慣れた気がする、気の所為か。
「で、サラ――情報は手に入れたんでしょうね?」
「勿論っす、出来るメイドの名は伊達じゃないっすからね」
いつ誰が呼んだのかは置いておくとして、やはりサラに任せたのは正解だった。
取っ組み合う直前だった二人を引き剥がし、話すように促すと――サラの口からはとんでもない事実が述べられた。
「これは一応噂、らしいんすけど……実はハーゼシュタイン家のご子息、アレクサンダー様が亡くなられたそうなんす」
「……?????」
その一言を聞いた俺は一瞬耳を疑い、思わず首を傾げた。
「……つまり?」
「いや、つまりもなにも、アレクサンダー様が死んだっていう話なんすけど……」
「アレクサンダー様が、亡くなられた?」
なんだろう、嘘言うの止めて貰ってもいいですか? ゲームで半主役級の活躍をし、アニメでもレギュラーだったアレクサンダーが死んだとか、どう考えてあり得なさ過ぎるだろ。
「その情報の信憑性はどれ程ですか、単なる噂では無いんですよね?」
「……門衛は濁してたっすけど、他の貴族の従者にも聞き込みしてきたんで多分事実っすね。四年前に亡くなられて、当主様が隠しているから公にはなっていない……とかなんとか」
あり得なさ過ぎるが、実際そうなのだとしたら相当に拙い――いや、拙いどころの話ではないぞ。アレクサンダーという個の強さにしても、その出自が持つ要素にしてもだ。
この世界では王権神授が現実のものとして存在し、リガティアも例外ではない。かつてこの国を平定した覇王グラニオウスは人と神との混血、半神だった。
聖剣カラドボルグが担い手を王家の血筋から選ぶのもそれが理由であり、この時代では隔世遺伝で神の血を色濃く継ぐアレクにしかあの武器は使えないのだ。
「成程、分かりました」
表面上は冷静を装って涼しい顔をしているが、内心は相当に焦っている。
聖剣がなくとも強いハーゼシュタイン家がいても、未来でこの国は魔族に敗北しているのだ。この世界線ではそれを踏まえて、予めアレクサンダーに聖剣を担がせて無双させる予定だった。それが無くなるとなれば、最早土台が全部崩れたも同然。
いや、マジでどーすんのこれ!?
思ったより俺が強くないのと、アレクがいないのとで割と状況やばくないか!?
このまま行っても、魔族に負ける未来しか見えない。逃げるにしても、リーンや家族を連れて領地を――国を脱出する程の余裕が七年後に出来るとは到底……。
「……アレクサンダー?」
澄まし顔で心の中は半狂乱になっていると、何故かザーシャがアレクの名前を呟いて宙を睨んでいた。
「お前、なんでそいつの生死なんか気にしてんだ」
「気にしている、というわけではありませんが少しきな臭い感じがして、サラに調べさせていたんです」
「ふぅん……」
ザーシャに構っている場合ではなく、それよりも何故この時期にアレクが死ぬのかが不可解だ。
彼は生まれつき神の加護を持っていて、並大抵の病や呪いに掛からず、怪我の治癒も常人より早い。その上魔法言語無しで幾つか光の魔法を扱えるという[ユニークアビリティ]――この世界風に言えば固有術式を持っている。
そんな最強の血筋と個性を持って生まれて、普通死ぬほうが難しいぞ……。
「サラ、それで彼の死因は?」
「それが誰に聞いても知らないか、流行病だとか、階段から落ちただとか、中には誘拐された――なんて話まで出てきてさっぱりっす」
「誘拐……誘拐ですか」
実は最近俺も誘拐されかけている。それも貴族の子供を狙った、名のある裏社会の組織から。
「サラ、申し訳ないのですが、また街で情報を集めて来てください。ここ数年で攫われた貴族の子供がいないかどうか、それと――ウロボロスという名の組織について」
「えぇ~!? またっすか!? これからパーティーなのに……」
「給仕はジェーンやこの屋敷の使用人がやりますから問題ありません。それにパーティーで出た料理も、あなたの分を取り分けて置いてあげます」
「マジすか!? 約束っすよ! 肉多めで!」
こうなったらもうアレクが誘拐されたという可能性に懸け、その行方を探し当てるしかない。
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