23.城下散策
馬車の窓から眺めていた王都の賑わいは、いざ自らの足で立ってみるとより一層凄みが増した。行き交う馬車の台数も多ければ、人の流れも常に絶えることが無い。
正直に言って中世の都会を舐めていたが、ともすればこれは連休のTDLよりも混み合っている可能性すらある。
「いやぁ、凄いっすねぇ」
「これはもう最早人の波ですよ。私、人混み嫌いなんですけど……」
サラが感心したように通りの人々を見ている中、俺は彼女の服を掴んで人の波に攫われないように必死だ。
大変賑わっているのは良いことだが、それはそれとして俺はこういうのが一番苦手である。コミケも一般参加した時は死ぬかと思ったし、何より今はこの体格だ。ぶつかられて怪我をしそうで非常に怖い。
「にしても、この中からグラン様を探すんっすよね? 無理じゃないすか?」
「珍しく同意見ですね、私も今丁度そう思っていたところです」
折角ちょっと裕福なお家の女の子っぽい服に着替えたというのに、この人混みを見て若干心が折れかけている。いや、でもちょっとショッピングしたい気もする、品揃えの良い王都の店なんて滅多に行けないからな。
「……なんか当てはないんすか? グラン様の行きそうなところとか」
「お祖母様が言うには、この時間から出かけた場合は大体酒場にいるとか」
「昼間っから酒っすか……」
仕事サボって煙モクモクやってる奴も同類だろ、という言葉は飲み込んで。グランはアラン以上の酒好きで、基本的に休みの日は昼から飲んでいるらしい。我が祖父ながら駄目過ぎて泣けてくるな。
「白髪の長髪で、赤ら顔の男が居たら知らせてください」
「了解っす、酔っぱらいを探せば良いんっすね」
とは言え探すという目的においては、酔っぱらいという状態異常である人間に絞れるというのは大きい。酒場を中心に探せば、そのうち見つかるだろう。
「……それはそれとして、妙ですね」
人の多さに紛れて位置は特定できないが、誰かに見られている気がする。気の所為にしてはやけに背筋の辺りがピリピリするし、この世界の感覚って割と馬鹿に出来ないからなぁ。
身綺麗で従者を連れた子供だから、ちょっと目立っているだけかもしれない。一度何処かの店に入って、この感覚が消えれば気の所為だろう。
「サラ、あの店から探しましょう」
そう言って俺が指したのは何かの料理店。それも大衆的で、如何にも質より量を優先するような感じの佇まいである。
「……アーミラ様、お腹空いてるんっすか?」
「違います、情報というのはこういうところに集まっていたりするんですよ。決してちょっと小腹が空いたわけではありません」
最近知ったのだが、この体は凄い燃費が悪い。と言うかこの世界の仕組み的に、生物として強ければ強い程必要な摂取エネルギーが増えていく傾向にある。
「へいらっしゃい!」
店の中はもう午後を過ぎて暫くなので割と空いており、暇をした店主が席の一つで一服していた。店内は程よく汚れていて、厨房に大きな出刃包丁や鉄鍋が並んでいる。うんうん、こういうのでいいんだよ。中々風情があるではないか。
それと視線の方は取り敢えず途絶えたので、やはり杞憂だったらしい。
「日替わり定食とチキントードの素揚げ二皿、あとパンは一斤お願いします」
「あいよ!」
「いやめっちゃ食うじゃないすか、情報収集は?」
「サラ、ここは料理を食べるお店です。何か頼まなければ失礼に当たるでしょう」
「にしても食べすぎだと思うんすけど……」
中には狩ったドラゴン一頭を一人で丸々平らげるような人間もいる。
――逆に一切食事をしなくてもいい[仙人]と呼ばれる人種もいて、彼らはオドをエネルギーとして体内に取り込むことで賄っているらしい。仙人は霞を食って生きる、というのはまんざら嘘でもないようだ。
因みに更にガチの人外として、肉体の軛から解放されて精霊になった人間もいる。
精霊は基本的に物理的な体を持たないが、そうなるともう睡眠も食事も必要がない。魔力で形成された体は幾らでも再生可能となり、普通の方法で死ぬことがなくなってしまう。
その代わりに人間らしさ――情緒や自我などをある程度失うらしいので、進んでなりたいとは思わないが。
「へいおまち!」
「お、では早速いただきます」
それに俺はこうして食事をするのが好きだから、食べる必要がなくなると逆に困る。出来ることなら美味しいものを食べるのに人生を費やしていたいくらいだからな。
「ふむ……これは、下町の味っぽくて私は好きですね」
「おっ、嬢ちゃんその歳でこの飯の良さが分かってるたぁ良いじゃねぇの」
運ばれてきた食事は俺の想定通り大盛りに敷き詰められた肉と野菜の山。でもこういう馬鹿の考えたみたいな盛り付け、俺は嫌いじゃないぜ。いっぱい食べられると嬉しいもんな。
「いやしかし、この手羽は中々美味……あっさりとしていながらパサつきが無く、噛むと下味の効いた肉汁が滲みてくる……癖になる感じがなんとも……」
そして全体的に男の飯と言った味付けの料理だが、このチキントードという品種の――鶏か何かの手羽だけはマジで忖度無しに美味い。
これに唐辛子があれば冷えたビールに絶対合う。油と辛味を喉越しの良いビールで洗い流して、また辛味手羽を食っての無限ループが出来るはずだ。ああ、久しぶりにあの苦いシュワシュワが飲みたくなってきた……。
「……と、店主さん、今日グランという名前の貴族の老人を見かけませんでしたか?」
「なんでい、嬢ちゃん。あの人の知り合いなのかい、今日はここには来てねぇよ」
「知人と言うか祖父でして、探しているんですが――その様子だと、この辺りでは有名なようですね」
「そりゃ護国の英雄の名前を知らねぇ奴は滅多にいねえさ。ま、最近はもっぱらエール通りの酔いどれジジイで有名だけどな…………って、祖父!? あんたあの爺さんの孫か!?」
「ええ、そうですけど……」
店主はそう言うと、瞠目してカウンターから身を乗り出してきた。
この国の有名人の血筋であることは知っていたが、まさかここまで驚かれるとは俺がびっくりである。相手からすると、街の定食屋に急に有名俳優が来た感じなんだろうか。
「いやこりゃ失礼を、うちのメシを美味そうに食ってるからまさか貴族様たぁ思いもせず……」
「味付けの方向性はかなり好みでしたよ」
「改めてそう言われるとなんとも、はは……参ったな、照れちまうぜ……」
嬉しそうにしているところ悪いが、顔が厳ついおっさんの照れ顔はキツい。グランに関する情報も無さそうだし、お勘定してとっとと次に行くか。
「あ、そうそう。爺さんを探してるのなら、二つ隣の通りを探すといいですぜ。あそこは酒場が集まるエール通りって呼ばれてんで、飲みに行く時は大抵あそこくらいでさぁ」
「貴重な情報ありがとうございます。それとごちそうさまでした、また来ますね」
「へい、お粗末様です!」
と思っていたら中々有力な情報をゲット。
次に行くのは酒場のあるエール通り――って、三歳が入っていい場所じゃない気がするけど……。
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