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22.王都到着

 翌日、アルベルト子爵領と別れを告げた俺たちは、数刻の後漸く王都の土を踏んだ。なだらかな丘陵の先に城壁が見えると、いよいよやってきたのだという実感が湧いてくるというもの。


 因みに先日、子爵にもパーティーの招待をしたところ快く受け取ってくれた。子爵は一日遅れで王都に向かうそうで、明日にはまたアイザックと顔を合わせる機会があるだろう。


 正門の前まで行けば、検問の為に人と馬と荷車の列が出来ている。貴族や通行許可証を持つ者は他より早く通れるとは言え、荷物の検問は必須だ。


 因みに原作だと既に魔族に占領されている土地であり、奪還すると王都復興クエストが受注出来るようになる。必要な物資を作ったり集めたりしてアレクサンダーに渡すことで、段々と都市としての機能を復旧させ始めるのだ。


 このクエストの旨味は、最後まで進めないと現れない幻の道具屋[夢幻堂]にある。クエストを完了させるとアレクから合言葉を教えて貰え、それをとある路地の隅で口にした時のみ、何もなかった筈の建物の隙間から店が現れるのだ。


 そこでは一度だけ死亡したキャラを蘇生する[不死鳥の瞳]や、魔力を刃に変えるという設定の[幻天透徹]という刀などのレアアイテムが販売されている為、俺はメインクエストそっちのけで進めていた。


 特に後者は魔力の高さに応じて威力の上がる物理攻撃なので、魔法の効かない相手にも効果がある。刀を装備できる魔法使いキャラか、主人公を魔術師ビルドで育てた場合メインウェポンになりえる武器の一つだ。


「……問題は、その道具屋がこの世界にもあるかどうかだけど」


「ん? 何か言ったか?」


「いえ、何でもありません」


 荷物の検問を終えて帰って来たアランが不思議そうな顔で俺を見るが、今の話を口にしたところで笑われるだけだろう。一応探してみるつもりではあるけど、本編とは時間も状況も違うしあんまり期待はしていない。


 再び馬車が動きだし、門を抜けて城壁の中に入ると喧騒が耳に響いた。門の外へと向かう人間と、新たに王都へとやって来た人間とが煩雑とも言える程に行き交っている。


「凄い人ですね」


「春の始めはいつもこんな感じだ。冬の間出稼ぎに来た奴が帰り支度をして、商人たちも活発に動き出す。領地で冬籠りしてた貴族共も、社交の為に戻ってくる頃合いだからな」


「私達もその内の一人、というわけですか」


「ちょっとアーミラ、嫌なこと思い出させないでよ……」


 社交の話題を出した途端、リリアナが露骨に嫌そうな顔をした。


 そんなに嫌なら屋敷に引き篭もってればいいのにとは思うが、貴族という人種はそうもいかなかったりする。


 茶会で同席したことがある、会話をしたことがある――うちのような木っ端貴族にはこういう細い繋がりが大事で、それがこれから長い付き合いになるやもしれない。その為にも社交界には顔を出す必要がある。


 リリアナはそれを理解しているから、嫌々だろうとこうして王都まで来たのだ。


「そういや、招待状はもう送ったのか?」

 

「うちのお父様と、そちらの義父様経由で問題無さそうな家格のお家に送ってもらったわ。そんなに大規模にならないように頼んでおいたし、アーミラもリーンも緊張しなくても大丈夫よ」


「私は別に構いませんけど、リーンがぐずらないかは心配ですね」


「えー!? しないもん! あたし大人しく出来るもんっ!」


 当日は知らない人が沢山いて結構疲れると思うのだが、本人がそう言うのならまあいいか。多分途中で絶対ぐずるので、そのつもりではいるけど。


「よし、着いたぞ」


 と、そんな会話をしている間にも馬車は目的地――王都にあるアドルナード邸へと到着した。


 馬車が止まり、扉が開かれる。使用人に手を借りて降りると、気品のある屋敷が俺たちを出迎えてくれた。


 その門の下には、面識は無いが何処か見覚えのある雰囲気の男女が三人。中でも白髪交じりの髪を後ろへ撫で付けた、眼光鋭い初老の男の瞳はリーンと同じ色だ。その隣に寄り添うおっとりとした女性は、リリアナや俺をそのまま中年にしたような外見をしている。


 最後に二人と少し間を開けて立っている金髪の女性は、どちらかと言えばリーン似の活発そうな感じだ。くっきりとした目鼻立ちに、自信満々な笑みが眩しい。


「よく帰って来た、リリアナ」


「お父様……!? 態々此方までいらしていたのね!」


「この人ったら、孫が二人とも帰ってくるって言ってそれはもう大慌てで」


「あらまあ、そうだったの!」


「べ、別に私のことはいいだろう。それより、そこの二人が……」


 まあ、言わずもがなこの三人は俺の祖父母で、リリアナの両親とアランの母親である。尚、(いかめ)しい顔の方がクラルヴァイン家現当主で、アドルナード初代当主は何故か不在だ。


「ごきげんよう、リヒターお祖父様、クルシャお祖母様、ルーシィお祖母様。アーミラ・アドルナードです」


「ごきげんよー! リーンだよ!」


 仕方が無いので三人にリリアナ仕込みの優雅なカーテシーと共に挨拶をするが、リーンはお構いなしにいつもの調子でぱたぱたと手を振ってしまった。


「……リーン、ちゃんと淑女らしくしないといけませんよ。あちらの方は血縁とは言え、うちより偉い貴族家の当主なのですから」


 クラルヴァインと言えば伝統と格式を重んじる、正に貴族の鑑と言われる程の厳格な家系だ。統一前のこの土地で玉座を争った氏族の一つでもあり、言ってしまえば大昔に存在した他所の国の王族である。


 流石にこれは小言を言われても仕方が無いかな、と俺が内心で思っていると――



「――――おお、もう立派に挨拶も出来るようになって! ほら、おじいちゃんにもっと良く顔を見せてごらん!」


 眉間に寄った皺どころか、元の表情を留めないほどに蕩けて好々爺然とした顔になった。


「お父様……」


 成程、これは孫が可愛くて可愛くて仕方がないときの顔だな。割と厳しい俺の親父も、姉貴の子を見た時同じ顔をしてたから分かる。


 ま、リーンの愛嬌をもってすれば多少のマナー違反も、チャラどころか収支的にはプラスなのは当然か。可愛いは正義、そして俺の妹は世界で一番可愛いから何も問題がない。

 

「ほら、長旅で疲れたろう。中でおじいちゃんと一緒にお菓子でも食べようか」


「わーい! お菓子食べる!」


 そう言ってリヒター翁はリーンを連れて屋敷の中へ入っていく。俺はまだ挨拶をするべき相手が残っているので、後であのおじいちゃんを構ってあげよう。


 俺が次に向かったのは、金髪で動きやすそうなドレスを着た中年女性――ルーシィのところだ。


「あら、あんたはリヒターと一緒に行かないのかしら? この日の為に王都の職人に作らせた砂糖菓子が沢山あるわよ?」


「そうしたいのは山々ですが、その前にグランお祖父様の所在についてお伺いしたくて。もしや、何か事情があってここに居られないのでしょうか?」


「あらまあ……ほんっとアランに聞いてた通り随分としっかりとした子ね。と、心配には及ばないかしら。朝一で外出したきり帰ってこないだけだから。全く……折角孫がこうして会いに来てくれたのに……」


「あんの馬鹿親父、まーたどっかほっつき歩いてんのか……」


 呆れた様子で頭を掻くアランの様子からすると、こういうことは初めてではないらしい。まあ息子がこれだもんな、その親も適当で駄目そうなのは目に見えていた。


 俺の爺ちゃんも俺の誕生日パーティ当日に競馬行ってたし。


 本人の言い分としては『プレゼントの資金を倍にしてもっと豪華な物を買ってくるつもりだった』とか。結果全敗で収支マイナスだったので、俺はあのクソジジイを未来永劫許すことはない。


「つーか、あんたもあんたよ!? この馬鹿息子! 娘が生まれてから三年も顔出さないで、一体全体どういうつもりかしら?!」


「いや、ちげーんだよおふくろ……こっちも色々事情があったと言うか……」


 ああそうそう、一人目を産んだ直後なのに色々とお盛んでしたからね。


 初めての出産から育児に続いて、その直後にリーンを身籠ったからな。身重のリリアナを連れて王都に来るのは割と大変だったろうし、落ち着いてきた今が頃合いだったのは事実だ。


「言い訳は結構! それよりも早くあの馬鹿を連れて帰ってくるのかしら! ほら!」


「ちょっと待てよ! 俺だって疲れてるから、少し休ませてくれって!」


 奔放な父と息子の扱いに慣れた……というか、まあそうならざるを得なかった母の姿だなぁ。なんだかとても親しみの湧く光景に見えるのは、俺が似たような環境で育ったからだろうか。


 ただ、それはそれとして、グランが王都にいるのなら都合がいい。


「あの、それでは王都の観光も兼ねて、私が探してきましょうか?」


「あらそう? それなら任せちゃおうかしら。アーミラは王都に来るの初めてだものね、丁度良かったわ」


「まあ、おふくろがそう言うなら……ただし、ちゃんと着替えてから行くこと。その服じゃ目立つからな」


「分かってますよ、父様」


 これで合法的に両親の目から離れて動き回れる。王都は色々とフラグの名所でもあるからな、歩いてるだけで何かのイベントにぶち当たるかもしれない。

面白い、続きが読みたいと思ったら下の星を沢山付けて頂けると作者のモチベーションが上がりますので何卒よろしくお願いします

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