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18.アイザック

 昼休憩を終えて、馬車は少し日の傾き出した頃合いに街へと到着した。


 道中ではリリアナの協力もありつつマスタード作りに励んだ結果、それなりに満足のいくものが出来た。今は他の調味料と合わせて漬け込んでいる最中なので、明日の昼食は美味しいものが食べられるだろう。


 街の入り口では検問があったが、馬車には貴族としての家柄を示す紋章が刻まれているので殆どフリーパス。そのまま領主の屋敷まで直行して挨拶をする。


 観光はその後――と言うか、この領地もうちと大して変わらないから見るものもなさそうだけど。


「ようこそ我がアルベルト領へ、アドルナード伯」


「領主自ら出迎えとは、態々すまないな」


 屋敷の門前で、使用人たちを連れたアルベルト子爵が出迎えてくれた。パッと見た感じは小太りで穏やかそうな雰囲気のおじさんである。一応家格としてはこっちが上なので、姿勢が低いのもあるのだろう。


「さ、それではどうぞ中へ」


「そうさせてもらおう」


 一通り社交辞令じみた挨拶を済ませ、屋敷の中に案内される。荷物は先に客室へ、人は応接間へと向かう。その途中、廊下で俺と同じくらいの歳の男の子が此方を見ているのに気付いた。


 短い栗毛に気弱そうな顔立ちが特徴で、黒縁のメガネを掛けている。


「すみません、あの子は?」


「ああ、うちの息子ですよ。ほらアイザック、挨拶をしなさい」


「こ、こんにちは……」


 アイザックと呼ばれた少年は挨拶をしたものの、おどおどとした様子でこっちへ来る気配がない。人見知りなのか、急に知らない人が沢山家に来て不安なのだろう。


「はじめまして、アーミラ・アドルナードです。こちらは妹のリーン、どうぞよろしくお願いします」


「よっ……よろしく……!」


 リリアナにみっちり仕込まれたカーテシーを披露して挨拶を返すと、アイザックは如何にもな感じで首を縦に振った。


 うーん、ガチガチに緊張しているなぁ……。俺も小学生の時は人見知りだったから気持ちは分かる。今回の目的は子爵と領の運営状況と魔族の侵攻に対する政策についての話をすることだし、彼と無理してコミュニケーションを取る必要もないだろう。


「そうだ、大人の話はつまらないだろうし、アーミラ嬢たちはアイザックに屋敷を案内してもらうといい」


「父さん!?」


 そう思っていたのだが、そんなに上手くは行かないらしい。まあ……この歳の子供が他所の家に遊びに行けば、子供同士対応させるのが普通か。


 ここで拒否しても変だし、話なら後からアランから聞けばいいだろう。


「では、宜しくお願いしますね。アイザック様」


 俺がそう言って微笑を浮かべると、挙動不審な少年は顔を真っ赤にしてコクコクと頷いた。とりあえず、まずは彼の緊張を解すところから始めようかな。

 





 アイザックに案内されて軽く屋敷の中を巡り、最後に彼の自室へとやって来た。客間は大人たちが使っているので、お茶をする場所がここしかなかったらしい。


「散らかっててごめんね……」


「別に構いませんよ」


 俺とリーンがソファに座って優雅に紅茶を嗜む中、アイザックだけは部屋中に散らかる本や何かの道具のようなものを片付けていた。


 さっき聞いた話によれば彼の歳は俺の二つ上なので、五歳の男の子の部屋にしては置いてある物が大人っぽ過ぎる気はする。俺が言えた話でもないが、貴族の子供はどこもこんな感じなんだろうか。


「……これは?」


 特に気になったのは、机の上に置かれた金属の塊のような何かだ。表面に蛍光色で文字らしきものが刻まれていて、見ようによっては機械の回路のようにも見える。


「あ……! それは――」


 いや、その表現は少し間違っているか。金属の表面に刻まれているのは、精緻に組まれた魔術式だ。


「魔力の雷属性変換に、発生した電気の伝導性の上昇、それから発生した光に指向性を付与する術式ですか。通電による発光が目的のマギアテックですね」


「えっ!? 分かるの!?」


「はい、全属性二級までの術式なら大体。それよりも、アイザック様は何故このようなものをお持ちで?」


「えっと、つい最近父さんの知り合いが尋ねて来て、これはその人に譲って貰ったんだ……」


 アイザックの持つこれは『マギアテック』と呼ばれる代物だ。


 原作に登場した古代の技術で、道具に術式を刻印を施して扱う――動力が魔力に、回路が術式に置き換わった機械という認識で構わないだろう。


 普通の刻印魔法と違い、マギアテックは魔物が持つ魔力生成器官の『魔石』を埋め込む為、使用者の魔力や魔法に関する素養を必要としない。代わりに機械で言うバッテリーに当たる魔石には、定期的に魔力の充填が必要なのだけがデメリットだろう。


 作中でもマギアテックの技術によって作られた道具が幾つか登場しており、主人公の使う通信機や飛空艇の動力部分などに使用されている。


 問題は、この技術が本編の十数年前にはまだ存在しないということだ。物語が少し進んで、イサクという男が立ち上げる『ケイルスター・アイアンワークス』という会社の運営を主人公が手助けして、古代の技術であるマギアテックの復元が叶う。


 この技術は属性変換が出来ない俺の弱点を克服する可能性がある為、イサクという人物の重要度は非常に高い。今の時期にマギアテックに関連するアイテムを持つ人物――アイザックにこれを譲った誰かがもしイサクであるなら、早急にコンタクトを取りたいくらいだ。


「アイザック様、その人の名前は分かりますか?」


「実は……直ぐにここを出て行っちゃったから知らなくて……。でも見た目なら覚えてるよ、白髪で背の高い男の人だった。確か、王都の偉い人とか父さんが言ってた気がするけど……役に立たなくてごめんよ……」


「白髪に背の高い男」


 ……なんか、最近その特徴に当てはまる人物と出会った気がするな。順路的にはこの街を通った筈だし、成程王都から来た文官か何かだったのか。


 ただ、イサクは二十代前半の――いかにも技術屋と言った風貌をしているので別人であることは確かだろう。本物は首にゴーグルを提げ、日焼けした肌に無精髭を生やした男なのであの男とは似ても似つかない。


「……だとすると、彼の知り合いにイサクがいる可能性も――」


「もー! お姉ちゃんとアイザックくんだけで話しててずるいよぉ! 私も混ぜて~!」


「あ、ヒッ……ちょっと、近っ……」


 俺が少しの間思索に耽っていると、蚊帳の外だったリーンが痺れを切らしてアイザックを挟むように――文字通り首を突っ込んで来た。


「お姉ちゃん、これなんなの?」


「マギアテックという、とても古い技術の一部です。これは壊れたガラクタですけど、完全な形で復元出来れば火を使わないで明かりを灯すことができるでしょうね」


「へぇ~、凄いねぇ」


「あの、その、だから顔が近いってば……」


「なんで? 別にいーじゃん、狭いんだしさぁ」


 狭い机の前に三人もいるせいか、人見知りのアイザックが顔を真っ赤にして目を回してしまっている。特にリーンは彼の腕に殆ど抱きつく形で密着しているので、パーソナルスペースのパの字も無い。


 元男だからこういうのが結構気まずいのは俺も分かるが……子供同士だし、何よりこの歳の男女の距離感なんてまあこんなものだろう。


 それにあたふたしているアイザックを見るのもちょっと面白い。奔放なリーンを相手にしていればコミュ障が治るかもしれないし、おっさんは生暖かい目で子供たちを見守るとしよう。








【TIPS】


[概念:マギアテック]


現代に栄える文明の一つ前

古代人たちの創造した機構の名称


魔術師たちにその名は広く知られているが

誰一人として、この技術の謎を解き明かすことは叶わなかった

故に、古代の遺物は恐れられる

面白い、続きが読みたいと思ったら下の星を沢山付けて頂けると作者のモチベーションが上がりますので何卒よろしくお願いします

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 表題を変えるということは、 プロットが相当変更になったのかな?
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