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16.馬車内にて、娯楽

※4/12 この話を含む全話の文末にTIPSを追加しました。ほぼフレーバーテキストなので、読まなくても本編が分からなくなるわけではありません。もしもいらしたらですが、考察する方の材料などにどうぞ。

 揺れる馬車の窓からは、少し温い風がそよぐ。天気は快晴、絶好の旅行日和の中、俺は背もたれに体を預けながら取り留めのない事を考えていた。


 今日はうちのお隣であるアルベルト子爵領内に入り、立ち寄ったついでに領主に挨拶をする。


 地球でどうだったかは知らないが、この国では他所の領主が自領に立ち寄る場合、精一杯持て成すのがルール――と言うよりかは礼儀か。


 同じ国に所属する者同士の結束を強める為らしいが、派閥争いをしている現状では説得力はない。しかしこういう細々としたご近所付き合いが、将来なんの役に立つか分からないからな。貴族に限らず、お隣さんは仲良くしておくに限る。


 全体の予定としては正午に一度休憩を挟んで夕方には子爵邸のある街に到着、明日の午前中には王都へと着く筈だ。一応予期せぬ出来事に備えて時間に余裕を持っているが、この辺りは比較的平和なので何も起こらないだろう。


 アランも酔わない程度にだが酒を飲んでいるし、馬に乗った護衛たちも周囲を警戒こそすれど雰囲気は柔らかい。外の景色は変わらず長閑なまま、そろそろ小さな子供は退屈しだす頃合いだ。


 その証拠にリーンはさっきから座席を立ったり座ったり、何度も読み返した絵本を広げては直ぐに閉じて不機嫌そうな顔をしている。


「ん~っ! お姉ちゃん、暇!」


 噂をすればほら、やっぱり言い出した。


 成長したとは言え二歳なので、まだまだ我慢が出来ないおこちゃま。俺もはじめからリーンが長時間の移動に耐えられるとは思っていなかった。


 その為に態々荷物を増やして、とあるものを持ってきたのだからな。


「じゃあ、暇つぶしにゲームでもしますか」


「げーむ?」


 俺は持ってきた鞄を開くと、その中にある木の板と袋を取り出した。木板は碁盤の目のように線が引かれており、袋の中には木片をコインのように成形したものが沢山入っている。


 円形のそれは表裏それぞれに黒と白に塗り潰してある――と、ここまで言えばもう分かるだろう。


「これはリバーシ、というボードゲームです。遠い国で流行っている遊戯で、本で読んだものを形にしてみました」


「――なになに? ちょっとあなた、アーミラがまた変な物持ち出して来てるわよ」


 その起源を十九世紀のロンドンまで遡る歴史の古さと、単純ながら奥深い戦略性、子供から大人まで幅広い層がプレイする代表的ボードゲームだ。


 因みに『オセロ』という名称は超エキサイティングなゲームを売っている会社の商標で、起源としては『リバーシ』の方が古い……と思う、間違ってたらすまん。


 ともかくこの世界にはリバーシと言う名のものも、それに酷似したルールのゲームも存在しなかった。これは『それなら自分で作ってみたらどうだろう』と、リーンともっと遊びた――色々金儲けの方法を考えている最中に試作してみたものだ。


 魔法で色々便利な世界なんだし、凝ったボードゲームくらいあっても良いと思うんだが、幾つか簡単な物があるくらいで将棋もチェスも無さ気なんだよな。そもそも娯楽に関するものが少ないし、皆は普段何をして暇を潰しているんだろうか?


「それで、どうやって遊ぶんだ?」


 初めて見るものに興味があるのか、アランとリリアナも俺の方へと顔を寄せてきた。


「互いに白と黒の陣営に分かれて、盤面により多くの自陣の石を置くんです。交互に石を置いていき、自分の石で相手の石を挟むとひっくり返して自陣側に変える事も出来ます」


「成程、ルールは余り難しく無さそうだな」


「どうです? リーン、お姉ちゃんとやってみませんか?」


「やる!」


 まずはルールを教える為に一戦、リーンを相手にかなり忖度してやってみる。一応これでも地元のリバーシ大会小学生の部ベスト8だったからな。手加減しながら相手に楽しく負けてもらう程度のプレイングは余裕――――








「うわっ、負けちゃったぁ!」


「か、勝った…………」


 三十分後、盤面には白と黒の石がほぼ半分ずつ。辛うじて最後に俺が二つひっくり返して勝ったが――実力的には拮抗していると言っていい試合内容だった。


 いや、なんで角三つ取って負けそうになってんの俺。


 リーンもルールを理解してからの対応が早すぎるんだけど? このゲーム初めてだよね? 途中から完全に分かった顔してたし、もう一個角取られてたら負けてたでしょこれ。ボドゲの才能もあるとか、やっぱうちの妹天才過ぎる。


「お姉ちゃんもっかい! ルール分かったからもっかいやろ!」


「そ、その……次は母様とやってみたらどうですか? 母様もやりたくなったりしてるでしょ? ね?」


 そしてもう一度やったら多分俺が負ける。本気を出したら分からないけど、こんな暇つぶしの遊びでムキになりたくはない。ここは一旦俺以外とやらせて、クールダウンと定石の見直しをしなければ。


「……そうね、これは中々面白そうなゲームだわ。刺繍にも飽きてきたところだし、偶には母の威厳というものを見せてあげましょう」


 よかったぁ……思ったより乗り気だ。 


 と言うかやっぱりこの手のゲームって、どの世界の人でも面白いと感じるんだな。ありがとう、名前分からないけどこのゲームを作って発展させてくれたロンドンと水戸市の人たち。これで俺はリーンと毎日楽しく遊べるよ……。






「――――うぇええ!? また負けたぁ!?」


「甘いのよ、角の管理がね」


 結局その後は一番興味津々だったアランも混ざって四人で回したが、リリアナが最強過ぎて誰も勝てなかった。大体この手のボドゲは母が強いのも、どの世界においても共通しているようだ。


 因みに最弱はアラン、経験の功で俺がリリアナに次いで強かった。リーンはまだ未知数で、成長しながら勝ったり負けたりを繰り返している。それでもアランには絶対負けないので、我が家の大黒柱の弱さが伺える。


 ともあれこれで商品として扱えそうな事が分かったのは大きい。王都に着いたら今度は祖父母にも勧めてみようかな。








【TIPS】


[文化:娯楽]


賽を用いた博打、簡素なカードゲームなどは存在するが

現代に伝わる盤上遊戯などは余り浸透していない


かつて南方大陸を総べた竜王は

この手の遊びに傾倒していたと言われ

僅かながら、その名残が残っているのみである

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