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15.王都遠征

 天使のような幼い少女が、立鏡の前で身だしなみを整えていた。


 白くきめ細やかな肌、細く柔らかい青銀の長い髪、星を散りばめたように煌めく青い瞳。愛らしい小ぶりな鼻梁、薔薇色の頬と唇。青と白を基調とした仕立てのいい服に身を包み、爪や髪も丁寧に整えられている。


 唯一右目だけは眼帯で覆われているが、その程度が些事に思える程に美しい。全てにおいて完璧と言える美麗な顔立ちは、見れば誰の目も惹くことだろう。


「……俺、今日も可愛いな」


 ま、俺のことなんですけどね。


 未来の姿を知っている俺からすれば、将来が約束されているようなものだし。この時点で美幼女なのは当たり前と言うか、うちの両親の遺伝子を継いで美形にならない筈がないんだよな。




 ――――来週三歳を迎える俺は、見ての通り一年前からそれなりに成長した。


 背丈という話もだし、魔法についても最近はモニカに教えられる事が減ってきて自由研究の時間が増えている。


 この一年の成果としては――身体強化魔法の会得、モニカに教えて貰った無属性魔法の応用、二級相当までの刻印魔法を網羅した。


 それからつい先日、マナを固めて作るバリアをハニカム構造へと置き換え、使用する魔力の削減と強度の向上に成功した。今の俺のバリアであれば、昔貫通した魔熊の牙も通さない筈だ。




「――――お姉ちゃん支度できた!? お母さんが早くしろって呼んでるよ!」



 ふと、部屋の外から聞こえて来る声に我に返る。


 思索にのめり込みすぎて一瞬忘れていたが、身だしなみを整えていたのは出かける為。三日後に三歳になる俺は、誕生日を家族だけでなく親類や他の親しい貴族と祝う為に王都に行くことになったのだ。


 政治と社交の中枢ということもあって、王都にある別邸に滞在して領地の経営を代官に任せている貴族は多い。アドルナード家もクラルヴァイン家も例に漏れず、祖父母は王都に住んでいるので――今回の旅行はある種実家への帰省とも言える。


「今行きます!」


 慌てて最後にもう一度髪を整えると、鞄を手に扉を開けて廊下へと出る。


「もう、お姉ちゃん遅いよ!」


 そこでは二歳になった妹、リーンが頬を膨らませて俺を待っていた。


 成長して益々俺――というか原作アーミラと瓜二つになった顔立ちで、髪と目も同じ色合いだ。やはり俺が遺伝子ガチャに失敗した結果、妹が金髪赤目になったのかもしれない。


 少し前まで舌っ足らずに「おねたん!」と呼んでいたのも、気づけば綺麗に喋れるようになっている。同じ年頃の子供と比べると明らかに早い成長は、恐らく彼女が純粋な天才だからだ。


 既に読み書きは普通に出来ているし、バランス感覚がいい為か体を動かすのも得意。何より魔力量の増加が著しく、それを外部へ流れ出さないよう小さな体に留めている天性の魔力制御の技術は末恐ろしい。


 ……いや、これに関してはリーン自身の努力の方が大きいか。


 一度起きた魔力暴走の後、リーンは暫くそれがトラウマになって俺と距離を置いていた。それからなんとか仲直りをして、モニカに魔力制御を行う為の最低限の技術だけ教えて貰ったのだ。


 この調子で行けば俺より強くなる気配がしているが、別にそれはそれでいい。嫉妬するような歳でもないし、可愛い妹が天才で努力家なのも誇らしいからな。


「……? どしたの? お姉ちゃん」


「なんでもありません。ほら、母様に叱られる前に早く行きましょう」


 そう言って差し出した手をリーンが握って、二人で小走りに屋敷の外へ出た。


 門の前に両親が立っており、荷物を積み込み終えた馬車の扉を開けて待っている。その後ろでは同行する使用人と御者が、今後の予定について話し合っているようだ。


「遅いぞ二人共!」


「すみません、忘れ物を取りに戻っていました」


 これから二日ほど掛け、馬車に揺られて王都まで向かう。途中で我が領の左上――お隣の領主の屋敷に宿泊させてもらう手筈になっているが、それでも日の大半は地に足の着いていない生活になるわけだ。


 俺はその間の時間を有効的に活用するための物を取りに行っていた。それが何かは出発してからのお楽しみなので今はまだ内緒。暫くは車窓からの景色も楽しめるだろうし、まずはゆっくり馬車の旅を堪能しよう。


 因みにモニカは一足先に実家へと帰っている。あちらでまた合流する予定なので、またすぐに再会出来るが。


「はぁ……」


メイドに鞄を預けて馬車へ乗り込むと、 窓際の席でリリアナが盛大に溜息を()いているのを見てしまった。


「母様、どうしたのですか?」


 その対面に座った俺は、首を傾げながらそう尋ねた。それから一拍置いてリリアナはもう一度溜息を吐くと、浮かない表情で首を横に振った。


「なんでもないわ。ただ、王都に行くって考えると少し憂鬱ってだけだから……」


「憂鬱?」


「……陰湿なのよ、社交界」


「あぁ~……」


 確か以前、珍しく酒で酔ったリリアナが昔の事について愚痴っているのを聞いた覚えがある。


 この国は典型的な封建制国家であり、貴族の世界はドロドロらしいのだが、とりわけ侯爵家の令嬢ともなると敵が多い。リリアナはそれが嫌で婚約していたアランに婿入りさせず、この土地に無理やり嫁いだのだ。


 当然その判断にクラルヴァイン家――と言うかリリアナの父は猛反対し大激怒、リリアナが半ば家出同然で実家を飛び出したこの騒動は社交界で語り草になっている。


 なにせ伯爵家と言えど新参のアドルナード家と、一番古い国王の家臣であるクラルヴァイン家ではそもそも婚約自体がかなり珍しい例だろうし。


 中にはうちの母を『リガティア貴族の恥晒し』と言って後ろ指をさす者もいるらしい。


 一応最低限貴族としてやるべきことはやっているが、出来れば社交界に関わりたくないというのが本音のようで。今回も王都に行けばそういう場に行かざるを得ないので、今から憂鬱な気分になっているのだろう。


 それにしても……殆ど滅んだ状態しか知らない時と違い、この国が結構問題を抱えている事に最近気が付いた。


 歴史の古い国にありがちな政治の腐敗もあるが、一番は目下の脅威である魔族に対して認識が甘いことだろう。特に中央の貴族たちは、現場を知らない為か非常に呑気している。


 魔族は単なる意思のない怪物の集まりではなく、人類の生活圏を侵略する一つの国家だ。つい五年前にもリガティアは北部の海洋に面した土地を奪われかけ、辛うじて防衛に成功している。港を奪われれば陸に対する侵略も一気に進む為、それを防ぐべく現在も現地の貴族を中心に度々戦線の押し引きが行われている。


 俺が今回王都に赴くのは、魔族に対する意識の確認と他の有力貴族とのパイプ作りも兼ねているのだ。


 これまでの両親の話からすると、隣接する領地との仲は悪くも良くもない――というか関わりは殆どない。中央には一応強い後ろ盾はいるが、アドルナード領が魔族に襲われた際も増援が来たような描写はなかった。


 もしこの土地が魔族に奪われるようなことがあれば、飛び地とは言え陸に魔族の拠点を築かれる。そこから下手すれば隣接する王都が陥落し、丸ごと属州へと堕ちる事になりかねないと言うか、実際俺の知るリガティア滅亡の歴史はそうだった。


 その前に貴族達の意識改革を行い、うちの領地が危機に陥った際に助けてくれる――言わば同盟関係を構築するのだ。目星は既に付けており、中には絶対に欲しいと思える人材も数人いた。


 まずドラフト一位は作中でも登場した『光の聖剣使い』の二つ名を取る、ハーゼシュタイン公爵家の嫡子であるアレクサンダー・ハーゼシュタイン。


 ゲームでは亡国の貴公子として、国を取り戻す為に主人公の仲間に加わる。性能面はかなり優秀で、基礎ステが軒並み高い上、レアな光属性のアビリティを多数覚えた。


 更にリガティアでのイベントを進めるとアレクのみ装備可能な『聖剣カラドボルグ』を入手でき、それを装備したアレクは固有の必殺技を習得する。


 正式名称は『光刃活殺天明剣』、ファンの間で『焦土砲』と呼ばれたそれは、ラストダンジョンの敵すらも全て一撃で屠る威力を持っていた。


 何故剣と名の付くアビリティなのにそんな呼ばれ方をしていたかと言えば、この技は剣を媒介に放つ光属性の極太レーザービームだからである。「何が剣技やねん」と当時プレイしていた俺は思ったが、全体攻撃かつ威力がアレクと同レベルの主人公の一番強い技の倍近くあるので黙って使っていた。


 いや、でも今考えてもあの技――というかアレクの性能はマジでぶっ壊れてたなぁ。仲間になる条件は若干厳しいが、それを踏まえてもお釣りが来るほど強い。


 問題はこの世界の彼についてだ。ハーゼシュタイン家自体は王の血筋を継ぐ家系で、剣や魔法に優れたエリートである。ただ、公式設定集でアレクの年齢は十九歳、今が本編から十二年前なので……当の本人は七歳。


 俺の四つ上の子供であり、まだ最強のアレクサンダーは存在しない。だが、今のうちから幼少期のアレクと関われるのはメリットだ。幼馴染という特別な関係でも築ければ、家族ぐるみの付き合いに発展して、有事の際も率先して手を貸してもらえる。


「……よし」


 ここまでの総括だが、まず今回の王都遠征で俺がやるべきことはアレクとの接触。ハーゼシュタイン家は名家であり、お目通り叶わない可能性があることだけは注意が必要だ。ただ、これに関しては少し考えがあるので、恐らく大丈夫だろう。


 次に王都でアドルナード家が関わりを持つ貴族たちの意識のチェックと、それからこれは出来れば――どこかしらの大きな商会との伝手を手に入れておきたい。

 

 この領地は長閑で平和で俺好みだが、如何せん流通と発展の芽が無さすぎる。領地が発展しなければ、運営に回す金も少なくなる。そうなると魔族に対する防衛費もあまり賄えなくなり、結果的に七年後に向けた準備ができなくなってしまう。


 ならば、俺が自分でビジネスを始めて金を稼げばいい。幸いにしてここは文明が中世に毛が生えた程度の発展途上国。先人の発明を盗むようで申し訳ないが、金になりそうなアイディアは無数にある。


 俺が発明者とは絶対に口にしないこと、あまりに発展を歪めるものは作らないこと。それを条件に色々と現代知識を使って食べ物や道具を作り、流通させてしまおうと思った次第だ。


 さっき自室へと取りに戻っていた物も、実はその一環で制作したものである。旅の途中でお披露目することになるだろうが……まあ、見る人が見れば一発で分かるだろう。




 ――――そんな思索に耽っている間にも、準備を終えた馬車がゆっくりと動き始めた。








【TIPS】


[血統:ハーゼシュタイン]


リガティアの初代国王、覇王グラニオウスの系譜

王の家系であり、半神であった覇王の血を引くハーゼシュタインの人間は

聖剣カラドボルグを継承する可能性を持つ


王家のみに所有することが許されたそれを持つことは即ち

国を統べる王たらんということに他ならない



成長備考


○アーミラ


現在ニ歳と十一ヶ月

身長106cm、体重15kg

他の三歳児よりもかなり大きい



○リーン


現在ニ歳と約半月程

身長92cm、体重12kg

姉よりも運動神経が発達している




面白い、続きが読みたいと思ったら下の星を沢山付けて頂けると作者のモチベーションが上がりますので何卒よろしくお願いします

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