13.無属性魔法にも出来ること
文末がなんか不穏ですが、暫くフラグ回収の予定はないです
そもそも無属性魔法とは――
「無属性魔法とは、文字通り特定の属性を持たない魔法というのが通説です。体内にあるマナ、大気のオド、これらを元の形のまま扱うことで、比較的手軽に魔法を発動出来るのがメリットです」
「マナを固めた障壁や、衝撃波などですよね」
「その通り、良く予習復習が出来ていて偉いですよ」
この辺りの技術に関しては俺も習得している。特にバリアは汎用性も高く、これに代わる魔法が殆どない。俺も既に二度命を救われているし、これからも使っていくことになるだろう。
「逆に無属性魔法は簡単ですが、属性魔法よりも出来ることが少ないデメリットもあります。そこをどう工夫するかも、魔術師の技量が試される部分かと」
とはいえ、基礎――無属性魔法の応用が属性魔法なわけで、基礎のまま更に別のことに発展させるのはかなり至難の技だ。
俺と似たような境遇の誰かがもう開拓しているだろうし、今日に至るまで無属性が世間で軽視されていることを考えれば余り期待は出来ない。
「それで、これは私の知っている一例ですが、魔力を固めて鏃のように尖らせ、それを無数に射出する魔法があります。普通に木盾程度なら貫通しますし、無属性であっても属性魔法に干渉性を持ちますので、魔法の迎撃手段としても有用ですね」
「……ほう?」
魔力を弾丸に見立て、大量に放つ魔法か。貫通力があれば確かに対人戦では有効そうだし、何より実弾を使わないコストパフォーマンスの良さは俺の好みだ。
「それから螺旋状に回転させた球状の魔力を相手にぶつける魔法とか、両手のひらへ集中させた魔力をビームとして打ち出す魔法、魔力で形作った分身体で滅多打ちに殴りつける魔法も―――」
「それ以上はもういいです」
これ以上はいけない、俺の中のコンプライアンスがそう囁いている。多分後は体が伸び縮みしたり、武器が変形したりするんだろう? 誰の何がとは言わないけどさ。
それよりもだ、無属性魔法さん――聞いてみると意外と出来ることが多い。
「なんでこれで軽視されてるんですかね」
「それはまあ……普通の人には出来ないからじゃないですか? これ全部、同じ人の考案した魔法ですし」
「先生の師匠――」
「いや、師匠ではないです。師のようなもの、です」
「あっはい」
食い気味に否定されてしまった。
師と師のようなものって一体何が違うんだろうね。俺には分からないよ。
「基本的にこれらは非常に高い魔力操作の技術を要します。こちらに関しては才能も大事ですが、同じ魔法を扱う訓練に費やした時間に比例して上達するものですから、大半の人は使えないんですよ」
無属性魔法を最低限だけやって属性魔法にステップアップした魔術師は、態々無属性の攻撃魔法を習得するという選択肢が無い。ゲームで威力が"50"ある技を、上位互換の威力"100"の属性付きの技を覚えたら使わなくなるのと一緒だ。
目に見えて威力が高い得意な属性の魔法に、より磨きを掛けたほうが効率的なのは事実。それに何より、無属性はダサいという風潮がある。
「そう、ダサいんですよ。派手さもなければ、なにをやっているのかイマイチ分からない部分とか」
「……先生って、結構そういう所気にしますよね」
「実際大事なんですって、この御時世。一般大衆にとって派手で華美な魔法は、分かりやすく強力なものに見えるらしいですから。魔術師の力量は、そうアピールするのが今の風潮なんですよ。だから火や雷属性の適性者は持て囃されます」
「見栄えが良いと人気が出て、より魔術師の界隈が賑わう……ですか」
「まあ、そういった感じでしょうかねぇ。私は地味でも実践的で、合理的な魔法魔術が好きですけど」
「同意です」
そりゃそうだ、派手な魔法だって役に立たなきゃ花火となんら変わりはしない。俺はキラキラエフェクトなんか必要ないから、効果的で確実に敵をブッ飛ばせる魔法が欲しいのだ。
「……あれ? そういうモニカ先生も確か、火属性が一番得意でしたよね? どの口が今の発言を? もしかして煽ってますか? 属性魔法が使えない私を煽ってますよね?」
「私にも色々と苦い経験があるんですよ……って、見かけによらず好戦的ですね、別に煽ってませんから!」
「ふふ、冗談ですよ」
「全く……じゃあ話を戻しますけど――アーミラ、あなたが世間の評価を気にしないのであれば、刻印魔法と無属性詠唱魔法だけでも十分に魔術師としてはやっていけるでしょう。当然風当たりは強くなるでしょうし、相応の覚悟は必要ですが」
「問題ありません」
前述の通り、元より俺は俺が強くなれるのならそれで良かった。誰かに見せびらかすわけでもなしに、他者の評価なんて別にどうでもいい。
「ならカリキュラムを大幅に変更しましょう。当然知識として属性魔法について知っておくべきですが、実践面ではあなたの得意な事を伸ばします」
だから俺の事を理解して、そう言ってくれるモニカが何よりも有り難かった。
「ところで、先生の言う事情というのは一体何なのでしょうか? 後学のためにそれも詳しくお話聞かせて願えたら、嬉しいのですけど」
「世の中には知らない方が良いこともあるんですよ」
「そんなに言うのが嫌なんですか……」
「どうしても聞きたいと言うのなら、今日のおやつと交換で手を打ちますけど? ん、どうします?」
ぐぬぬモニカめ……今日の三時のおやつは紅茶のクッキー、しかも王都の有名な菓子店の物だと知った上で言っているな……? あれ滅茶苦茶美味しいから、例えリーンであろうとも譲った事が無いというのに……。
「……分かりました、いいでしょう」
「取引成立ですね」
しかし、しかしだ。なんか意味深な事を言われてしまうと、知りたくなるのが人の性。おやつを一日逃すのと、先生の隠したい過去を知れるのなら断然後者を選ぶ。
「それで、その事情とは一体?」
「学生時代に『紅天蓮華』という――位階で言うと五段相当の火属性魔法なんですけど、それを実験棟で暴発させまして……結果的に建物を破壊して派手な花火が上がって……」
「ああ……」
「私って、魔力制御が苦手なんですよね。術式の構築ならそこそこ出来るのに。そのミスのお陰で、卒業時の成績が二段階ほど下げられたんです」
――――当然その年の成績最下位に私の名前が載りました
そう付け足して大きな溜息を吐いたモニカは、どこか哀愁が漂っていた。俺はそんな彼女何も言えず、優しい気持ちでおやつを譲ってあげようと思ったのだった。
【TIPS】
[魔法:無属性魔法]
一般的にマナを属性へと変換するプロセスを経ず
そのまま使用する魔法であると言われる
あくまで一般論であり、一部の識者は
「既存の属性に分類出来ない物もあり、それらは無属性魔法とは別物である」
という説を謠仙罰縺励※縺?k…………………………
※不明なエラーが発生、権限を所持しない外部者による介入を確認
…………ハロー、ハロー? 書き込めてる? うん、大丈夫そうだな。
なら早速指摘するけど、無属性魔法なんてものは俺たちの世界に本来存在しない。
無という言葉の意味も調べずに、お前たちが後から思いついて勝手に定義づけただけだ。
俺らの扱うこれは■■■■魔法で、■の■を使った■■の法則に基づくもの……って
ああくそ、書いたそばから修正されてるな……
まあいい、とにかくお前たち■■■の好きにはさせない。
どうせ今も見ているんだろうから言うけど
■■をこっちに送ったのは失敗だったな。
俺はもう無理かもしれないが
彼女なら絶対にいつかその居場所を突き止めるだろう。
覚えておけ、俺たちはお前たちの遊戯の駒になる為に生まれたわけじゃない。
俺たちは、■■■は必ずお前に報復してやる。