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0.プロローグ

一話2000から4000文字程度のさっくり読める奴を目指して書きました。

今作もトラックくんは皆勤賞です。

「――――えっ、マジ?」


 会社最寄りのコンビニ前の交差点にて、思わず上げた声に周囲の視線が俺に向く。


 同じ外回り中のリーマンや、学校帰りの女子高生が訝しげな目で此方を見ているが、俺にはそれが気にならない程の出来事が持っていた液晶端末の画面に載っていた。


 二世代前のスマホはとあるゲームニュースのサイトが開かれており、タイトルに大字で『ファンタジー・マギア・ブレイブ 第六弾追加DLCの発表』と書かれている。


「……マジかぁ」


 ファンタジー・マギア・ブレイブとは、『Eden』という会社の開発したゲーム『ファンタジー・マギア』を元祖とするシリーズ作品の第十三作目であり、発売から三年経った現在も半年に一回のペースで新しいシナリオや追加要素が実装される程の超人気ゲームのことだ。


 そして俺、名前は――別にどうでもいいとして、この略称マギブレの大ファン。もっと言えば、マギアシリーズは全てプレイするほどのEdenガチ勢とも言える。


 特にマギブレに関しては本当に隅の隅までやり尽くした。仲間に出来る全てのキャラを育成し、隠し要素を含めた全シナリオを読破し、入手出来る装備も全てコンプしているマギブレおじさんなのだ。


 そんなマギブレに新しい要素が追加されるとのことだが、内容が中々に驚愕の一言に尽きるものだった。


 まず新キャラの追加。これはDLCでは絶対に追加されるので分かってはいた。その上で、記事に載っていた動画を見た瞬間に声が出てしまったのだ。


 前半のありきたりな追加要素の紹介はどうでもいいとして、問題は後半で現れた女キャラ。


姿は影に覆われて意図的に顔へカメラが行かないようになっており、殆どシルエットだけしか見えていない。そんな彼女が青黒い閃光と共に瞬間移動を繰り返して、魔物を倒す美麗なムービーが流れている。


「……これ、アーミラだよな」


 ただ、隠しシナリオ『EX-2 絶望の意思』に登場する、アーミラ・アドルナードという裏ボスと髪型や服装が一致するのだ。記事と動画のコメント欄でもブーツの形状や着ている服の模様だったりで『そうではないか?』と考察する声が上がっている。


 因みにアーミラというキャラはマギブレでも人気が高く、何を隠そう俺の推しでもある。可愛い上に強いし、ストーリーも深くて良いんだよなぁ。


 身長は156cm、体重38kg、スリーサイズは上から82、55、85(公式)で、腰まで届く長い金髪と緋色の瞳が特徴の美少女だ。


 類稀なる魔術と剣術の才能の持ち主で、十歳まですくすく成長してたところを魔族に実家を滅ぼされて奴隷堕ちした――というハードな設定を持っている。


 希望を見出しては裏切られを続け、最後には『希望を持つという行為自体が絶望を招く』と悟り、始めから世界を絶望で満たして誰も希望を抱かないようにしようと画策して主人公たちと対立するのだ。


 そのアーミラがプレイアブルキャラとして実装されるなんて、まさか俺が公式に無限に送っていた要望メールが届いたのか……?


 という冗談はおいておき、アーミラを知っている者からすると、実は実装されることがほぼ不可能なのが実情だった。


 アーミラは基本的にどのルートを選んでも隠しシナリオに突入出来る――つまり全編において敵として登場するキャラだ。仲間になる要素もフラグも皆無であり、救済ルートの存在しないヒロインと言われてきた。


 それを実装するからには、何かしら特殊な待遇であることには違いない。


「if? 別世界線の話ってことか?」


 記事を読み進めていくと、次に追加されるシナリオがif――つまり本編で存在し得なかった世界線の話であると書かれている。このゲームに存在するキャラの区分に新たに[Another]タグが追加され、今後も同じようなキャラが増えていくとも……。


 おいそれってYO! もう丸々ゲーム一個分のシナリオが追加決定ってことじゃんかYO!


「マジで馬鹿だなエデン……」


 一応言うが、マギブレ対応ハードはもう既に二世代前の物になっている。そんなゲームに更に投資するとか、エデンは本当にやっていることがおかしい。


 まあ、ソシャゲでやるようなことを、据え置きでやってる時点で良い意味の馬鹿だと知ってたけど。


 しかしそうなると、実装されるのは別世界線のアーミラという事になるのか。パッと見は本編と余り変わらないが、何かしら性格や目的なども違ったりするだろう。


 でも……うーん、俺としてはアーミラというキャラクターの属性は変わらずに悪であって欲しいけどなぁ。


「――ん」


 ふと、スマホの通知音が鳴り、メッセージが画面上部に表示された。差出人は……現在俺が勤めている会社の社長から。まあ社長と言っても腐れ縁というか、俺の親縁に当たる奴なので気心は知れている。


 以前まで勤めていた会社を辞めて、そいつが立ち上げたという会社に雇ってもらったのだ。業務内容が多岐に渡りすぎてはじめは大変だったが、今ではすっかり慣れたものである。


「ウガンダの奥地で謎の遺跡発見、至急パスポートを準備しろ…………?」


 ……いや、前言撤回しよう。


 先々月はイギリスで"タイムトラベラーが残したと言われるタイムマシンの調査"に赴き、先月も"パラレルワールドからやって来たらしいロボットの回収調査"、先週までは"うん万光年先の銀河から届く謎の波形の解析"など、ちょっと俺が理解し難い内容の業務が続いている。


 一応なんかそういう正規の政府機関からの依頼で、社長は超が付く程の天才だ。やっている事が利益に繋がっているし、俺に給料が出ている以上あんまり文句も言えんけど。


「……まーた海外か」

  

 漸く時差ボケが治ってきたと思ってた直後のこれはちょっとキツい。そんな思いで肩を竦めてスマホから顔を上げた時――――



「危ない!」



 俺の真横にトラックのバンパーが見えた。


 誰かの声が響き、途端に世界がスローになる。これは所謂走馬灯というやつだろうか。いや、そんな事を考えている場合ではないのだが、どうやら運転手が居眠りしたトラックが歩道に突っ込んで来たらしい。


 記憶が正しければ、横断歩道の前には少なくとも七人の人がいた。そして俺のすぐ隣にも一人、スマホを弄っている学生が立っていた筈。


 咄嗟の行動というのか、引き伸ばされた時間の中の思考の帰結か、ともかく俺は手を横へと伸ばして出来るだけトラックの進路から逸れるようにそこにいる筈の学生を押した。


 それを引き金に時間の感覚が戻り、俺は一瞬で跳ね飛ばされた。痛いと感じたのは一瞬で、その後はまるで麻酔をした箇所を抓ったものを数百倍したような感じで衝撃が襲ってきた。


 恐らく地面を転がったのだろう俺は仰向けになり、動かない肢体とやけに冷静な頭で思った。


「ああくそ」


 ツイてないと。


 意外にも死ぬ事に対する恐怖は無く、ただマギブレの新情報を見させられるだけ見させられた直後に車に轢かれる運の無さを呪った。


 と言うよりも、自分の体のことは自分が一番わかる。多分これはもう助からないやつだ、内臓とかぶち撒けててもおかしくない。


 もし願いが叶うのなら、死ぬ前に少しでいいからDLCをやりたい……出張続きで最近ゲーム機自体触れて無かったし。あれ、そう言えばパスポートって何処に入れたっけ? 旅行鞄の中に入れっぱなしだったらいいけど、確か電話台の引き出しに――――


 ああいや、俺もう死ぬんだから別に用意しなくてもいいんだ。だってほら、その証に段々と意識が遠のいて、寒くて仕方がない。


「ほんっ……と……」


 閉じかけた瞼の隙間から見えた空は、青く澄み切っていた。俺が死んでも清々しい天気っていうのも、なんだか世界すら俺の死をどうでもいいと思っているようで腹が立つ。
















【その願い、叶えてやろう】


 



 だから最後に聞こえた声、それが都合のいい幻聴だとも分かっていた。そもそも突然そんなファンタジーじみたこと、起きるはずがない。


 神様とか未来人とか、タイムマシンとかパラレルワールドとか、夢があるという建前を人には言いながら、そんなものは全部フィクションだと心では思って今まで生きてきた。


 それに最後に縋ったのは皮肉だ、本当に神様がいるのなら――もっと前に俺を救っていてくれてもおかしくなかったというのに。


 そう……その筈だった。



(あたたかい)



 全身に感じる温もりと、()()()()()()()喜ぶ老人の顔、それからやかましいほどに泣き喚く赤子の声を聞くまでは――――








【TIPS】


[暴走トラック]


上位者の意思の介在か、何故か頻繁に人を跳ねる自動車


轢かれた人間は極稀な確率で

この世とは違う理の輪廻へと誘われる

かの車たちのバンパーには

何かしら超常の力が宿っているのかもしれない

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[一言] 38kgでバスト82ってヤバい
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