9話 ジェネラルゴブリン
「ん、ぐ……がぁ?」
ジェネラルゴブリンはその巨体にある大きな顎で、非常に小柄なゴブリンマージを食い千切り飲み込むと、ラルフの顔を不思議そうに見た。
それはまるでこんな奴が俺の縄張りに入って騒ぎを起こしているのか?とでも言いたげな表情。
そんなジェネラルゴブリンに対してラルフはいつもの様に剣を構えて攻撃に打って出る。
初めての敵との戦闘では出方を伺い、どんなスキルを持っているのか、自分との力量の差はどれだけあるのか、まずこういった事を把握するのがセオリー。
だけど相手がまだ戦闘の体勢に入っていない今は絶好の攻撃チャンス。
ここで致命傷を与えられれば勝利はラルフに大きく傾く。
「はぁっ!」
ラルフはジェネラルゴブリンの脚を狙い剣を左から右へ切り払う。
対してジェネラルゴブリンはその奇襲にも近い攻撃に一瞬たじろいだが、それでも脚を後ろへ素早く移動させて攻撃を回避した。
若干剣の先がかすったのか、血が脚を伝う。
「ちっ」
「があああああああああっ!!」
傷つけられた事と縄張りを荒らされた怒りが混じったのか、ジェネラルゴブリンはラルフの悔しそうな舌打ちをかき消す程の叫び声をあげる。
そして、ジェネラルゴブリンは後に下げた左脚を今度は勢いよく前に蹴り出してラルフの腹を蹴り跳ばした。
「ぐあっ!!」
思わぬ反撃を受けたラルフは口から唾液を飛ばし、後に吹っ飛ばされた。
地面に横たわったラルフは腹を押さえながら悶える。
「があっあっあっあっあっ!!」
そんなラルフの姿がよほど滑稽に映ったのかジェネラルゴブリンは腹を抱えて笑い出した。
その卑しい顔は今すぐにでもぶん殴ってやりたくなるほど腹が立つ。
ただ動けないラルフにとってはこれは好都合。
変に追撃をされていたら命に関わる様な攻撃を受けていたかもしれない。
思う存分笑っていなさいその間にラルフはまた立ち上がって見せるんだから。
「『ナチュラルヒーリングアシスト』」
私はラルフをの手助けをする為にすかさず手を組んでスキルを発動させた。
このスキルは対象の自然治癒力を強化してあげる効果があって、自分に使った時には傷の治りや痛みの引きをいつもよりちょっとだけ早めてくれる。
背水の陣で攻めたりする時に重宝してる私が持っている唯一の回復系スキル。
通常の回復魔法スキルに比べると即効性がないのが難点……だったんだけど。
「はぁ、はぁはぁ……ふうぅ。見た目から攻撃力が高いと思ったけど、そうでもないな」
ラルフは私がスキルを発動させてから数秒で立ち上がって見せた。
そういえば酒場でやられた時も直ぐにモンスターを討伐しに街を出て行ったのよね……。
もしかして元々の自然治癒力が普通の人以上なのかもしれないわね。
「がぁ」
「今度はそっちからか? 分かった、受けて立ってやる」
ラルフが立ち上がるとジェネラルゴブリンは笑いを止めて神妙な面持ちでラルフを見つめる。
「こいっ!」
「があっ!」
しばらくラルフを見つめた後、ジェネラルゴブリンは右腕を振りかぶりながら突進を始めた。
そして――
「――えっ?」
ジェネラルゴブリンはラルフを無視して動けなくなっている仲間のゴブリンを殺し始めたのだった。