7話 包囲
「もし通常キングクラス、或いは上位種の討伐に来たとして……面倒な事にならないといいんだけど」
ゴブリンには下位種のゴブリン、ゴブリンマージ、ゴブリンジェネラルこれらが進化したゴブリンキング、ゴブリンクイーン、ゴブリンジャックがいる。
上位種とはいずれかのゴブリンが突然変異して、より人間に近くなったもので、それらはホブゴブリンという名前を持つ。
通常ゴブリンのジェネラルはEランク。
通常ゴブリンのキング、クイーン、ジャックはDランク。
上位種のホブゴブリンはキング、クイーン、ジャックの冠を持つ持たないに関わらずCランクモンスターに数えられる。
バフの掛かった状態の今のラルフは良くてゴブリンジェネラルと同程度位の強さ。
それ以上の相手を求めてここに来たなら無駄死にもいいとこ……。
「ラルフの冒険者ランクがどの程度かは分からないけど、ギルド側がそんなに難易度の高い依頼を任せるはずないと思うんだけど……。わざわざ『巣』を狙うっていうのがねぇ……」
通常ゴブリンは数匹でチームを組み活動している事が多く、昼部隊と夜部隊の交代制で常に狩り等を行っている。
つまり、待っていれば出てくるからわざわざ巣に赴く必要はない。
ただそれでも『巣』を狙う要因として、どうしても急いで経験値を稼ぎたい場合、盗まれたアイテムの奪還、或いはチームの中で生まれたキングクラス、上位種を討伐したい場合の3つが考えられる。
お願いだから前2つであってくれないかな。
◇
「――やっぱり巣よね」
ゴブリンが残した血の跡を辿って行くラルフの後にこっそりついていくと、その先には案の定それらしい洞窟が見えた。
ここがさっき戦っていたゴブリンの巣で間違いない。
「ふぅ。っし行くか」
ゴブリンの巣である洞窟の前でラルフは立ち止まり一呼吸した。
そしてラルフは恐る恐る巣の入り口に足を踏み入れた。
遠目で見た限り巣には等間隔で松明が立てられ、一応真っ暗ではないようだ。
「視界は悪いけど、問題なさそうね。後は奥に――」
カラカラカラカラッ!!
ラルフの後に続いて行こうとした瞬間、突如として自然の音ではない音が鳴り響いた。
恐らくはこれは巣への侵入があった事を知らせる警報。
木、石、弦、そういったものでこんな装置を作れるって事は知能の高いジェネラル以上のゴブリンがいるのは確定ね。
「なっ!!」
洞窟の奥の方がチカッと光ると、ラルフは慌てて洞窟から逃げ出してきた。
それから少し遅れて高さ50cm程の火球が2つ勢いよく飛び出し、消えてい宙で消えていく。
火炎魔法スキル初級『ファイアボール』。
今の警報で巣の奥にいたゴブリンマージが攻撃を仕掛けてきたのだろう。
新米冒険者にとってはなかなか厄介なモンスター。
だけど今はそれ以上にこの状況がまずい。
「くそ、今ので集まってきたか……」
ラルフは回りを見渡して自分の状況がどれだけ危険か把握出来たようで、額からつうーっと汗を流す。
今のラルフは通常のゴブリンより強い。
だけど集まってきた30匹近い数を相手となると……。
これは私もバレないように手を出すしかなさそうね。