6話 追跡
「またこの森……」
ラルフを追って辿り着いたのは昨日と同じ森。
私としてはまだまだ弱いモンスターでレベルを上げて欲しいと思っていたところだからちょっと安心。
というのも昨日この森に来た時にどんなモンスターがいるのかっていうのも見てたんだけどゴブリン、スライム、コボルトくらいしか見当たらなかったのだ。
どれも新米冒険者向けのモンスターで私も嫌って程討伐したものだわ。
「さてさて今日はどの辺りで狩りをするのかしら?」
ずんずんと森の奥に進むラルフ。
一応バフの存在に気付かないように、朝早くからラルフの家に張り込んでバフを掛け続けていたんだけど、私のスキル『ランクアップ・アライズ・バランスオール』は範囲が思いの外広くないみたいなのよね。
開けた場所で私が隠れる場所がないとかだとかなり困るんだけど……。
「ぎぎゃっ!」
「ぎぎっ!」
そんな不安を他所にラルフの前にゴブリンが2匹姿を現した。
左には木のこん棒を持った奴、右には石の矢じりが付いた矢と弓を持つ奴。
ゴブリンは能力が低い分、こういう形でチームを組んで戦う事も少なくはない。
「ぎぎゃっ!」
木のこん棒を持つゴブリンが声をあげると、弓を持つゴブリンは後方に跳んだ。
振り回されるこん棒と弓での多重攻撃がラルフを襲う、けど……。
「ぎっ!?」
ラルフは剣を片手だけで使いこなしこん棒を受け止めると、自分を狙った矢を空いた手で掴みとった。
ラルフは昨日遅くまでゴブリンと戦内にゴブリンというモンスターに慣れ、戦闘に余裕が生まれていたらしい。
今のラルフならあの程度の攻撃をいなすのはわけないわ。
「はぁっ!」
「ぎぎゃっ!」
ラルフはそのまま掴んだ矢をゴブリンの心臓部分を突き刺すとグリグリ穴を開けるようにダメージを与える。
するとゴブリンはもがきながらあっという間に息絶え、両手をだらんと下げた。
「ぎ、ぎぎ……」
その光景を目の当たりにした弓を持つゴブリンは怯えながら一歩また一歩と後退する。
しかしラルフはゴブリンの死体を盾にそんな弓を持つゴブリンの元に近付き始めた。
「ぎっ!」
弓を持つゴブリンは足元にあった太い蔦に足をとられて転倒。
その隙をついてラルフは盾にしていたゴブリンを投げ捨て一気に間合いを詰めた。
「ぎぎゃあああああああっ!」
「えっ?」
隙を突いたラルフの一撃は首でも心臓でもなく弓を持つその腕をはねた。
なんでわざわざ一撃で倒せない箇所に攻撃するのか。
私は意外な一撃に思わず驚きの声をあげてしまった。
「ぎぎ……がぁっ!」
ゴブリンは必死に起き上がるとブルブルと震える足で逃げ出した。
そんなゴブリンにラルフは追撃をするでもなく、ただ視線を送る。
「……そろそろ行くか」
ゴブリンが逃げたしてしばらく経つとラルフはゴブリンが溢した血の跡を追って歩き始めた。
そうか。
ゴブリンは仲間意識の強いモンスター。
真っ直ぐに『巣』に戻るとは限らない。
だから敢えて時間と距離を置いて『巣』に戻りそうな状況を作ったのね。
って待って『巣』っていう事はまさか……。
「あ、あんたにはまだ早いって……」
ラルフの目的が分かると私は頭を抱えざるをえないのだった。
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