5話 赤色の紙
「ゴ、ゴブリンの右耳が23個……分かりました。ギルドの常駐依頼に貢献されましたので報酬をお持ちします」
次の日、早い時間からギルドを訪れるとラルフが依頼の受注兼報告カウンターで昨日討伐したゴブリンから剥ぎ取った右耳を手渡していた。
いきなり大量の右耳を持ってこられたからなのか、それともラルフが弱い冒険者として知られているからなのか、受付の女性は一瞬驚いた表情を見せた。
「ギルドの職員の受付はとんでもない倍率の中から選ばれたエリートで高給取りなのに、あんなに露骨な態度ってどうなのよ……」
私は失礼な態度をとる受付に苛立ちながら、ラルフの様子をギルドの中にあるカフェから眺める。
辺りがちょっと騒がしい気がするけど、今日もラルフがどこに何をしに行くか分からないから気は抜けない。
とにかく1人で外へ出歩いても大丈夫になるまではこうしていないと。
それに自分のレベルの確認をするような動きがあれば私も動――
「リーナさん? リーナさーん」
まぁギルドでの『鑑定』は高額に設定されてるからしばらくは問題な――
「聞こえてないんですかー? 何でそんなん仮面付けてるんですか?」
取り敢えず今日の目的はラルフに気付かれないように位置情報を得られる様になるこの魔道具を――
「おおーい!! あっ! もしかしてモンスターにやられて耳が!? 治療の為にちょっと触診させていただ――」
「私に触ったらどうなるか、まさかあなたが分からないなんて事はないわよね? エルトリオ」
「ははっ。相変わらずの威圧感だね。そんなんじゃ男が寄って来ないよ」
「結構よ。それより、あなたも仕事があるんじゃないの? あっちでお仲間さんが待っているわよ」
「折角こんな辺境な地で会えたのに素っ気ないなぁ。って『あなたも』ってどういう事ですか? こんなところでリーナさん程の人がお仕事をしているなんて、もしかしてよっぽどの事件が――」
「ないわ。ってやば」
私に声を掛けてきた男エルトリオに気をとられているとラルフはお金を受け取り、しかも何やら1枚の紙を手にギルドの外に向かいだしていた。
紙の色が赤いっていうのも不安を煽る要素。
何故なら赤色は個別の討伐依頼書なんだもの。
「あっ! ちょっ!?」
「そうだエルトリオ、あなたにはお願いしたい事があるから夜は空けておいてよね」
「夜に時間を空ける……。分かりました! 冒険者ギルド総本部地方調査隊所属エルトリオ、本日の職務を迅速に済ませておきます!」
「自己紹介お疲れ様。でも目立たれると困るからあんまり大きな声出さないで。それと、ギルドでは私に声を掛けないで」
「分かりましたっ!!」
「……じゃあまた後でね」
ギルドの冒険者達からの視線を掻い潜って私はラルフの後を追う。
例の調査隊がこのタイミングで、しかもそれが知り合いのバカだったのはラッキーだけど……あの大きな声は何とかならないのかしら。
「はぁ、でもラルフにバレなくて良かった。あいつには念の為に名前を呼ばない様に釘を刺しておかないと……」
私は魔道具を片手に握りしめながら、ため息を漏らしたのだった。