10話 突然変異
「ぎぎゃっ!?」
首元を噛み千切られるゴブリン、頭を潰されるゴブリン、心臓を抉られるゴブリン、仲間だったはずのゴブリンが次々に殺されていくその光景は人間の私でも気持ちがいいものじゃない。
ラルフの場合は怒りや悲しみといった感情どころではないようでただただ口を開け呆気にとられてしまっているようだ。
それにしてもジェネラルゴブリンはこのタイミングで何故仲間を殺し始めたのか……。
もしかしてラルフを強敵と判断してレベルアップ?
それとも殺した味方のスキルを奪うようなスキルでも――
「まさかモンスターにまで無視されるなんて……お前、許せねぇよ」
ジェネラルゴブリンがラストの1匹に手を掛けようとすると、ラルフはわなわなと震えて怒りを現にした。
駆け出すラルフ。
それでもゴブリンを優先して背を向けるジェネラルゴブリン。
ジェネラルゴブリンにどういう意図があるのか分からないけど、これは千載一遇のチャンス。
見ているだけの私まで手に力が入ってしまう。
「当たった――」
ラルフの振り下ろした剣がジェネラルゴブリンの背中を切り裂いた。
吹き出る血とラルフがこのままジェネラルゴブリンを倒すのではないかという期待から興奮して声が漏れてしまう。
ヤバいヤバい、バ、バレてないよね?
「がぁっ――」
「硬い。だったら何度でも――」
バレたかどうかの心配をする必要はないみたいで、ラルフは私の事なんか気づいている素振りも見せないで再び剣を振り上げた。
端から見ればジェネラルゴブリンに致命傷を与えられた様に映るが、ラルフ本人の手応えとしては大分浅かったらしい。
現にジェネラルゴブリンは叫び声を堪えながら最後のゴブリンに必死に手を掛けている。
ジェネラルゴブリンによるゴブリンへの攻撃は首締め。
それはラルフが放つ2度目の攻撃よりも早く行われ、あっという間にゴブリンを殺してしまった。
――キィン。
ラルフの剣が当たる間際、ゴブリンが絶命した瞬間、金属が擦れた時と似た音が私の耳まで届いた。
するとジェネラルゴブリンのいる辺りは白いもやに包まれ、ラルフごとその姿を隠す。
この現象はモンスターの進化……じゃない。
似てるけど進化の時ほど派手に光らないし、音だって……。
「突然変異……。最悪だわ」
次第に晴れていく白いもや。
目に飛び込んで来たのは力一杯剣で敵を切り裂こうと力むラルフの姿と、そんな事には目もくれないで自分の姿をなめ回すように確認する1匹のモンスター。
背は縮んだけど、スラッとした身体の線の中には力強さを感じる。
それはまるで無駄を省き鍛え上げられた格闘家の身体。
顔つきもさっきまでと比較すると随分人間らしくなっている。
「ホブゴブリンね。キングとか冠付きじゃないのは不幸中の幸いだけど……」
「――オマエ、ジャマ」
次の瞬間ホブゴブリンはラルフに向かって言葉を吐いた。
言葉を扱えるっていう点でも本当にこいつらは人間に近くて――
「気味が悪いな、お前」
ラルフはホブゴブリンにまで悪態をついて見せるのだった。
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