1話 幼馴染追放
「あの噂のSSS級冒険者様がリーナだったなんてねぇ」
「へへへ、驚いた?」
「当り前よ。今だって信じられないんだから。こんなに逞しくてシックスパックの冒険者様がひ弱でいっつも泣いてたあの時の女の子だなんて。でも私の両親の名前を覚えてるのなんてこの町に数える位しか残ってないし……。いやぁリーナがねぇ……」
「信じられないのは私もよ。まさかこの町がここまで復興するなんて」
「リーナが頑張ったみたいに私達も頑張ったの。頑張って生きてきた……。だからまたこうしてリーナに会えて……。リーナ。生きてて、本当に、本当に良かった。う、あ、リ―ナぁ。会いたかったよう!」
「も、もう泣かないでよ。仕事中でしょ?」
「だってぇ、久々に会えたんだよ私達」
泣き出してしまった酒場の娘、親友のサラの肩をさすりながら私は店の中を見渡した。
そこには15年前のあの日、あの事件が起きる前の店の姿があった。
やっと帰ってこれたんだなぁ。私。
「う、ぐっ。それで、リーナはなんでここに? SSS級冒険者なのに隣国、しかもこんな辺境の地まで来て大丈夫なの?」
「仕事は一通り済ませてきたから大丈夫。はぁ。本当はもっと早くここに来たかったんだけど、次から次にお偉いさんが仕事を寄こしてきて……。ラルフ、まだ約束覚えてくれてるかしら?」
幼馴染の男の子。私の初恋の人。
「ラルフ? もしかしてリーナ、ラルフに会いに来たの?」
「ええ。忙しすぎてこっちの国の情報は仕入れられてないけど、ラルフの事だから約束通り強く……きっと私より強い男になっているに違いないわ」
「んんっと、それは……」
ラルフの名前を出すとサラは気まずそうに顔を逸らした。
もしかしてサラ、ラルフの事を?
まぁ幼馴染がライバルになっても一歩引くなんて事はしな――
「しつこいぞラルフっ!! 誰がお前みたいな経験値泥棒をパーティーに戻してやるかっ!!」
「う、ぐっ!! た、頼む、パーティーの維持費は前より多めに支払うから……」
「お前が変に突っ込んだから妹は致命傷を負ったんだぞ! 妹がお前を許しても俺はお前を許さなねえっ!! お前がした事は金でどうにかなる問題じゃねえんだよ!!」
酒場の端にあるテーブルで男が暴れ出した。
探索者の多い酒場だとこういう事は珍しくないけど……。
「……ラルフ」
怒鳴り声を上げる男に顔面を殴られながらも土下座してパーティーに縋りつこうとしている少年がそこにはいた。
少年はラルフって呼ばれてるけど……ラルフの歳を考えるとあの見た目はおかしい。
私の考え過ぎよね?
「頼むっ!! 俺は強く、強くならないと。約束だったんだお互い強くなって結婚しよって。でもきっと弱虫のリーナは隣国でずっと泣いてる。だから俺だけでも強くなって……俺が迎えに行ってやらないと!」
「うるせぇっ! 約束だがなんだか知らねえが他の冒険者に迷惑かけて強くなろうなんて……。てめえみたいなクソ野郎には一生無理なんだよ!」
怒鳴り声の男は、少年を掴み上げて酒場の出入り口まで投げ飛ばした。
約束、っそれに私の名前……。
「ねえサラ、もしかしてあの吹っ飛ばされた少年って……嘘よね?」
「……本人も今の状況を嘘だって思ってるんじゃない? リーナが噂のSSS級冒険者様って知ったらラルフはどう思うかかしら。わたし、ちょっと怖い……」
「……。くっ!」
「ちょっとリーナっ!!」
私はラルフにどう声を掛けていいのか分からなかったけど、とにかくいてもたってもいられなくなって席を立つのだった。
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