第六話
下山を始めて直ぐ、悲鳴と戦闘音が響き渡った。それは徐々に広がりを見せ、今では山の彼方此方から聞こえてくる。俺達は周囲を警戒しながら歩みを進める。
進んで行くと倒れている男の子がいる。少女に辺りを警戒してもらいつつ、そっと男の子に近付く。男の子の口元に手を持って行き、呼吸を確認する。息はある。次に腕を確認するも、ブレスレットが無い。辺りを見回してもそれらしきものは無かった。山頂ならまだしも、山中でブレスレットを取るなんて酷い。発信機が無いまま放っておけば、男の子は救助されないかもしれない。ロキは鞄を前に持ってきて、男の子を背負う。そしてまた歩みを進める。
中腹辺りまで下りると、木々が倒れ、明らか戦闘があったと思われる場所に出た。辺りを見るとあちこちに人が倒れている。余りに酷い有様に少女は声にもならないようだ。ロキは男の子をそっと地に降ろした。少女にまた辺りを警戒してもらい、倒れている人を確認して回る。先程の男の子同様、皆ブレスレットを外されている。皆を放ってはおけないが全員を連れて下山することは出来ない。
「錬成」
倒れている木々を退かし、場所を作る。そしてそこに全員が入れそうな小屋を作る。一人一人背負って小屋まで運び入れる。
戦闘音はもう止んでいる。犯人はもう下山したのだろう。少女に小屋の見張りを頼み、他に被害者が居ないか範囲を広げて探す。
あと三時間でタイムアップになってしまう。ある程度の範囲を探したが他に倒れている人は居なかった。
「もうあまり時間が無い。俺達も下山しよう。」
最低限の手当はした。だが誰も目覚める気配は無い。仕方ないとロキはブレスレットを外し、小屋に投げ入れる。
「どうして!?」
少女はロキに詰め寄る。ここまで来たのにこれではロキが失格になってしまう。しかしロキはブレスレットが発信機になっていること、教師はそれを頼りに捜索・救助をすること、そして発信機が無いことの危険性と犯人が如何に悪質かということを少女に伝える。少女も理解は出来た。しかし納得がいかない。
「ほら、時間が無いから急ぐぞ!」
更に何か言おうとしていた少女を引っ張り、再び下山し始める。
何とか制限時間ギリギリにホールに着いた。彼女は合格。しかし俺はブレスレットが無いため失格となった。
「なんで!?」
少女が教師に詰め寄る。
少女の声が大きかったようで、周りの生徒が奇異の目でこちらを見ている。壁に背をもたれている少年がこちらをニヤニヤと見ている。ああ、彼が犯人か。
彼女は懸命にブレスレットを外した経緯について説明してくれている。しかし教師は規則だからと取り合わない。仕方ない。こうなることは覚悟の上での行いだったのだから諦めよう。
「もう良いから。ありがとう。じゃあな。お互い次も頑張ろう。」
彼女の頭に手を置き、もう良いと止める。その後背を向け、少女と別れた。