第五話
出来上がったスープを少女に渡す。器もスプーンも土から錬成しておいたものだ。少女は受け取るや否やガツガツと食べ始める。その様子を見ながら俺もスープを食べ始める。うん、即席にしては上手く出来た。
話を聞けば、少女は一次試験で攻撃された後にブレスレットを外され、更には持って来ていた荷物も奪われてしまったそうだ。ブレスレットは教師経由で返却されたが、荷物は戻って来なかった。武器も無ければ食料も無い。途方に暮れていたところに良い匂いがして我慢出来ずにやって来たそうだ。荷物を奪った奴が誰か聞けば、複数犯だったようで分からないと言う。
変に助けた手前、此処で放り出すのは後味が悪い。仕方なく少女と二次試験終了までの臨時チームを組む事にした。そして、どうせ寝はしないのだからと小屋の隅を貸す事にした。
焚き火の前で寝ずの番をする。途中うとうとしつつも辺りの警戒は怠らない。少女は小屋の中でぐーすか寝ている。二次試験は既に始まっている。その事に気付いている者はどれだけ居るのだろうか。取り敢えず彼女は気付いていなさそうだ。
夜も更けた頃、テントが有った方から悲鳴が聞こえた。とうとう誰かが動き始めたようだ。火を消し、小屋の中に入る。少女は熟睡しているようで起きる気配が無い。息を潜め辺りを伺う。
一時間ぐらい経っただろうか。連鎖的に犯行が行われている様子は無く、悲鳴も騒めきも落ち着いたようだ。テントの方を伺うも人が来る気配も無い。
本番は明日だ。流石に一睡もしないのは不味い。仕方ないので入り口を背にして座り、そのまま少し寝入る。
朝になり、少女が起きた。昨夜の残りを食べ、下山を開始する。
二次試験は下山する事が目的とは言え、他の生徒を妨害してはいけないとは一言も言っていない。昨夜の襲撃で気付いた者も多いだろう。一次試験では攻撃出来なかった者も、昨晩の待遇差から攻撃に転ずる可能性が高い。きっと一次試験以上の地獄絵図になるだろう。誰かが動き出せば、それに続いて皆動き出すだろう。
いつでも対処出来る様に辺りを警戒しながら進んで行く。それに対して彼女は鼻歌を歌いながら歩いている。彼女は馬鹿なのか?いや、馬鹿なのだろう。
俺の武器を貸す事も考えたが、正直彼女を信用している訳でも無い。下手に渡して背後から討たれるぐらいなら渡さずやられてもらった方が良い。二次試験の内容の訂正もせず、このまま放っておこう。
彼女を助けた事が吉と出るか凶と出るか。
俺は覚悟を決めて進み出す。