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それでも続くよ人生は  作者: ぬ~ぶ
23/50

#23 第三のバウンサー


 プライベートはいいとして、仕事の方はというと、俺は相変わらずロビンフッドのギミックでファイトしていた。


 だが、幸い下位に落とされるようなことはなかった。


 ジャブはちょくちょくやらされたが、こればかりはしょうがない。

 やられ役がいるからこそ、勝者が引き立つんだから。


 それに、トップ選手だって時にはジャブボーイを務めるもんだ。


 常勝チャンプなんて、観ていてつまんないからな。


 負けて、特訓して、雪辱するから痛快なんだ。

 少年漫画のヒーローもんだってそうだろ?


 その頃のジャップマットでは、正規軍と反乱同盟の抗争が盛り上がりを見せていた。


 正規軍のエースは、アメージング☆聖也(せいや)

 シックスパックの腹筋を誇るロン毛のイケメンだ。


 対する反乱同盟“スニーキー・スネーク”のリーダーは、ピュートーン井沢(いざわ)

 上半身に大蛇が巻きついたかのようなタトゥーを施した長身の怪奇派。


 そんな二人がシリーズ最終戦で一騎打ちしたんだが、KOJキングオブジャップヘビー級王座が賭かっていたし、負けた方はその場で坊主というオマケ付きだったから会場はフルハウス。


 試合は40分を超えるマラソンマッチとなったが、カウント2.9のシーソーゲームを制したのは聖也さんだった。


 井沢さんは、セコンドの正規軍にバリカンを入れられるや、慌てて控室に逃げ帰ったよ。


 あとは、聖也さんがマイクで「プロレス最高!」と叫んで終わる筋書きだったが、間違えて「プロレス最強!」と叫んでしまった。


 そしたら観客が総立ちになってヒートアップしたんで、聖也さんも引っ込みがつかなくなって、


「プロレス最強! 世界最強!!」


 と絶叫してしまったんだ。


 この模様はプロレス雑誌だけじゃなく、スポーツ新聞やネットニュースでも割と大きく扱われてね、俺はまずいなと思った。

 いや、俺だけじゃなくて、所属選手とフロント陣の全員がそう思ったはずだ。


 案の定、さっそく空手のなんたら流とか、なにがし会みたいなのが看板抱えてやって来た。


 空手家だけじゃない。

 キックボクサーやテコンダー、柔術家、それにただの素人ヤンキーまで玉石混交だ。


 そんな輩が代わる代わる道場にやって来ては、聖也さんの発言を取り消せと凄むんだよ。


 道場破りは、俺がジャップに入門した当時からあった。


 対応役というか撃退役は“バウンサー”と呼ばれ、それを担っていたのが片桐先輩と猛内隼人(たけうちはやと)さんだ。


 猛内さんは年齢もキャリアも俺より3年上で、背は180なかったけど、シュート(真剣勝負)はめっぽう強かった。


 何でも、幼少期に父親の転勤でバンコクへ移住したらしく、そこでムエタイに魅せられて、こっちへ帰ってくるまでの8年間、一日も欠かさず練習してたんだと。

 そういや、地元の大会で何度か優勝したこともあるって言ってたなぁ。


 だから道場破りが来ても、この二人がいりゃ何とかなった。


 でも、今回ばかりは違った。


 さっき玉石混交と言ったけど、どえらい玉が交じってたんだよ。


 いや、見てくれは何てことないどこにでもいる髭のオッサンだ。


 それが、いざ試合となるや武術の達人に変貌して、片桐先輩ばかりか猛内さんまで秒殺しちまったんだよ。どっちも正拳突きオンリーでな。


「アメージング☆聖也を出せ!」


 オッサンの狙いは、あくまで聖也さん唯一人。


 だが、聖也さんを出す訳にはいかなかった。


 もし、エースの彼が勝負に敗れて、道場の看板を奪われでもしたら大変だからな。

 下手すりゃ、団体消滅だよ。


「悪いが、君とアメージング☆聖也を戦わせる訳にはいかない」


 チーフマネの磯俣修がきっぱり言った。


 するとオッサンは、


「なら、奴にあの発言を取り消させろ!」


 と、改めて聖也さんの発言取り消しを要求してきた。


 具体的には、公の場での発言撤回と謝罪だった。


 だが、それにも応じる訳にはいかなかった。


 もしそんなことしたら、聖也さんだけじゃなく、プロレス業界全体が面目を失うことになりかねない。


「金銭で解決できないだろうか?」


 磯俣が恥も外聞もなく言ってのけたので、俺ら選手は呆れ顔を見合わせたよ。


 そしたらオッサンの奴、何て答えたと思う?


「1億なら手を引いてやろう」


 磯俣は鼻の下のみならず顔中に大粒の汗を作ってな、


「ちょっと協議させてくれ」


 そして、俺らんとこに駆け寄ってくると「もう、みんなで袋にしよう」だって(苦笑)。


 俺は磯俣のこういう所が嫌いだった。

 保身のためなら卑怯なことだって何だってやる、性根の腐った所がよぉ。


「待ってください。俺が何とかしますんで……」


 磯俣にそう言うと、俺はオッサンにノールールでの試合を提案した。


「面白い。受けて立とう。だが、わしが勝ったら看板は貰っていくからな」


 そして俺は、どんな怪我をしても責任は問わない旨の証文をオッサンに書かせて、試合に臨んだ。


 俺は例によって、奇声と共に目突きと関節蹴りを、同時に瞬時に繰り出した。


 目突きはガードされたものの関節蹴りはヒットして、オッサンはぐらっと体勢を崩した。


 だが、崩れながらも正拳を俺の脇腹にめり込ませやがった。


 思わずカッとなった俺は、膝頭をオッサンの顔面にぶち込んだ。それも、かなりの力量でな。


 そこで勝負あった。


 オッサンは連れの奴らに引きずられるようにして道場を後にしたが、その顔は見るも無残なものだったよ。

 いかに現代医療が発達したとはいえ、さすがにあの顔は元には戻らないんじゃないかなぁ。


 俺の脇腹は幸いヒビだけで済んだ。


 全治1ヶ月との診断だったが、二週間後には湿布貼って試合に出てたよ。


 ただ、この一件を期に、3人目のバウンサーとして任命されちまってな……ま、手当てがつくから別によかったんだけど(苦笑)。


 あと『PRODE』から総合出場のオファーが来た時はホントびっくりしたよ。


 道場破りの話が業界中に広まっていたのは知ってたけど、まさか天下のPRODEからお声がかかるとはねぇ。


 え? 何で断ったのかって?


 そりゃあ、正直出たかったさ。

 けど、もうすぐ子供が生まれるって時期だったからね。


 もし、大怪我でもして働けなくなったら、妻子を路頭に迷わすことになるだろ?


 それだけは避けたかったんだよ。



\_\_\_\_\_\_\_\_\_\_\_\_



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