表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/9

07 「……分かった。この子を買う」

 奴隷制度は王国では認められていない。

 人を家畜と同等に扱うなんて有り得ないし、王もそれを嫌悪しているからだ。


 だが秘密裏に奴隷は出回っている。金持ちの貴族共が愛玩目的、実験という名の拷問の為に彼らを買い、あれやこれやをする。


 そんな奴隷をこいつは取り扱い、金にしている。

 反吐が出そうになるが……食い物だけでも貰っておこう。


「その子は要らないんで食い物をください」

「なんだぁ? 奴隷を買いに来た訳じゃないのか」


 ぶつくさしながら男が元の場所へ戻る。……取りあえず空腹はどうにかなりそうだ。

 ため息交じりに視線を変えると目の前の子どもと目があった。


 薄汚れた灰色の髪が顔を隠している。みすぼらしい布切れを身に纏い、そこから出ている腕は一本しかなく、最後の腕さえも枯れ木のようで今にも折れそうだ。

 前髪の隙間から瞳が見える。くすんだ碧眼。本来なら光り輝いているだろう。

 それがこうなるとは……。


「ほらよ。俺が王都から出たばっかりで助かったな」


 男が戻ってくる。手には麻袋が握られていた。

 それを受け取り、中を確認する。……黒パンが三つか。


「ありがとうございます。……で、値段は?」

「銀貨一枚」


 は?


「……今、なんと?」

「銀貨一枚だ」


 ……流石にぼったくりだろ。

 王都で買うなら黒パン一個なんて銅貨一枚で買える。それなのにこの値段とは……。

 わなわなと手を震わせているとターバンの男があくどい笑みで、


「それなら――こいつとならどうだ?」


 子どもを指差した。


「こいつは売れ残りなのさ。俺はこのまま自国に戻るんだが……こいつを残しておいても食料が減るだけ。出来れば殺すなりなんなりして荷物を減らしたい。だがうちのお偉いさんが許さなくってな。困っていたのさ」

「……それで俺に買えと?」

「ああ、本来なら金貨を要求する所だが……処分代を差し引いて銀貨四枚にしてやろう。勿論食料も付けてやる」


 ……どうしたものか。


 銀貨四枚なら有り金全て渡せば買える。でもこんな所で使ったら後悔する。

 だが……。


 子どもに視線をずらす。身を丸め、華奢な身体を震わせながら俯いている。

 恐らくこのままでは餓死、運よく男の自国に戻っても死が待っているだろう。


 ポーチの中で銀貨が擦れる音が嫌に聞こえる。……するしかない、か。


「……分かった。この子を買おう」

「おお! 流石は旦那様! 有難うございます」


 何が『旦那様』だ。金が手に入った途端、急に媚を売りやがって。

 男が上半身だけを小屋の中に入れ、子どもを引っ張り出す。


「よかったな。死なずに済んで」


 子どもがたどたどしく俺の元へ近づく。怯えているのか……それもそうか。

 男に銀貨四枚を渡す。受け取ると男は麻袋と子どもを俺に押し付けた。


「これで取引は終了ですね。――さ、契約に魔力がいるので手を出してください」


 ……え。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ