07 「……分かった。この子を買う」
奴隷制度は王国では認められていない。
人を家畜と同等に扱うなんて有り得ないし、王もそれを嫌悪しているからだ。
だが秘密裏に奴隷は出回っている。金持ちの貴族共が愛玩目的、実験という名の拷問の為に彼らを買い、あれやこれやをする。
そんな奴隷をこいつは取り扱い、金にしている。
反吐が出そうになるが……食い物だけでも貰っておこう。
「その子は要らないんで食い物をください」
「なんだぁ? 奴隷を買いに来た訳じゃないのか」
ぶつくさしながら男が元の場所へ戻る。……取りあえず空腹はどうにかなりそうだ。
ため息交じりに視線を変えると目の前の子どもと目があった。
薄汚れた灰色の髪が顔を隠している。みすぼらしい布切れを身に纏い、そこから出ている腕は一本しかなく、最後の腕さえも枯れ木のようで今にも折れそうだ。
前髪の隙間から瞳が見える。くすんだ碧眼。本来なら光り輝いているだろう。
それがこうなるとは……。
「ほらよ。俺が王都から出たばっかりで助かったな」
男が戻ってくる。手には麻袋が握られていた。
それを受け取り、中を確認する。……黒パンが三つか。
「ありがとうございます。……で、値段は?」
「銀貨一枚」
は?
「……今、なんと?」
「銀貨一枚だ」
……流石にぼったくりだろ。
王都で買うなら黒パン一個なんて銅貨一枚で買える。それなのにこの値段とは……。
わなわなと手を震わせているとターバンの男があくどい笑みで、
「それなら――こいつとならどうだ?」
子どもを指差した。
「こいつは売れ残りなのさ。俺はこのまま自国に戻るんだが……こいつを残しておいても食料が減るだけ。出来れば殺すなりなんなりして荷物を減らしたい。だがうちのお偉いさんが許さなくってな。困っていたのさ」
「……それで俺に買えと?」
「ああ、本来なら金貨を要求する所だが……処分代を差し引いて銀貨四枚にしてやろう。勿論食料も付けてやる」
……どうしたものか。
銀貨四枚なら有り金全て渡せば買える。でもこんな所で使ったら後悔する。
だが……。
子どもに視線をずらす。身を丸め、華奢な身体を震わせながら俯いている。
恐らくこのままでは餓死、運よく男の自国に戻っても死が待っているだろう。
ポーチの中で銀貨が擦れる音が嫌に聞こえる。……するしかない、か。
「……分かった。この子を買おう」
「おお! 流石は旦那様! 有難うございます」
何が『旦那様』だ。金が手に入った途端、急に媚を売りやがって。
男が上半身だけを小屋の中に入れ、子どもを引っ張り出す。
「よかったな。死なずに済んで」
子どもがたどたどしく俺の元へ近づく。怯えているのか……それもそうか。
男に銀貨四枚を渡す。受け取ると男は麻袋と子どもを俺に押し付けた。
「これで取引は終了ですね。――さ、契約に魔力がいるので手を出してください」
……え。