06 「すみまぜん‼」
彼方から聞こえる馬の鳴き声、蹄の音。
……間違いない!
疲労しきっている身体のどこに力が残っていたのか、といわんばかりの脚力で音のする方へダッシュする。
だんだん近づく音。馬の他にも車輪が地面を削る音も聞こえる。
これは正しく――。
「馬車だ!」
操っているのは商人に違いない。きっと大量の商品というか食料を積んでいるだろう。
幸い金はある。少々吹っ掛けられるかもしれないがそれでもありがたい。
音の正体が向こう側から現れる。俺の予想通り、ターバンを巻いた男が馬車を操り、手綱を引いていた。
「すみまぜん‼」
道のど真ん中ではちきれんばかりに喉を震わせる。
ここで気付いて貰わなければ本当に餓死する。見栄もくそもあるか。
俺の声に驚いたのか、馬車が目の前で急停止する。馬の唾液が降りかかるが気にせず向かう。
「ぜぇ……すみません! 何か商品は売っていますか?!」
ここで俺は間違いをする。商品ではなく、素直に食べ物と言えばよかったのだ。
男は見開いた目を引っ込め、直ぐに嘲笑した。
「ああ、勿論売っているさ」
男が馬車から降り、俺の目の前に立つ。
この辺りではまず見かけない服装。ターバンと上下が一体した服。まるで女が着る服みたいだ。
それに黄色い肌も見た事が無い。王国出身の人はほとんど白か日に焼けた土色だ。
明らかに異質な格好だが……今は食料が先だ。さっさと買って離れよう。
男の手に従って馬車の裏に回る。
其処にあったのは大量の食べ物ではなく――。
「運が悪かったな。既に取引が終わってこいつしかいなんだ」
狭い部屋にポツンと、一人の子どもが座っていた。
「えっと……食べ物は?」
「何言ってるんだ。俺は奴隷業者だぞ。そんな物、自分達の分しかない」
だよなぁ……。
天使だと思っていた存在は一気に悪魔へと姿を変えた。