05 「……腹減った」
照り付く太陽。雲一つない、どこまでも澄んだ青空。
風に揺られる雑草と土の匂いが鼻腔を撫でる。
そう、俺は――。
「……腹減った」
空腹で今にも死にそうな状態だ。
考えてみればそうなるのは当然だった。
確かに懐が温かい、とはいえないがそれでも家族が少しの間働かなくても過ごせるだけの金は持っている。(銀貨一枚あればそれだけで一か月は保てる)
しかし金があれば生きていけるという訳でもない。金で買う物が何もないからだ。
いつもなら王都を行き来している行商人も終戦で盛り上がっている王都に居たまま。他の人がそれを聞きつけてやってくる可能性もなくはないが今の所すれ違いもしない。
太陽が昇るのを三度迎えた時点で俺の胃袋はからっぽになった。
「……うぐぐ」
悲鳴にも似た呻き声が口から洩れる。一刻も早く王都から出たいと思っていたが流石に下準備なしで行動するのは早計だった。
……もうどうしようもないが。
既に王都を出て三日目。風景も見た事がない場所に変わっている。此処から戻るのにも時間がかかる。ならこの先で村か何かがあるのを信じた方がよさそうだ。
……魔術が使えればな。
視界の横でちろちろ映る動物を観察する。掌サイズぐらいの身体とすばしっこい動きが恨めしい。
こんな奴魔術があれば容易に捕らえてご飯に出来るが……今の俺には到底不可能。
一応魔術結晶が一つあるがこんな所で使ってもどの道この状態に戻ってしまう。
くそっ……なんで俺関所で一個使ったんだ! 素直に払えば良かっただろ!
自分自身に悪態を吐く。自暴自棄。虚しい。
ない物ねだりした所で状況は何も変わらない。それどころか余計に腹が減るだけだ。
幸い、水は近くにある小川でどうにかなる。がぶ飲みして空腹を凌ごう。
川端に膝をつき、文字通りがぶがぶと一心不乱に飲み続ける。川の水を枯渇させる勢いで。
「――――ふぅ」
胃袋が満たされた所で立ち上がる。
途方もない旅だがその途中で死んでしまったら元も子もない。
……取りあえず近くの町でも村でも、人が集まる場所に着いたら食料を買い集めよう。
決意して再び足を動かす。
空腹が紛れたとはいえ疲労は蓄積している。燦燦と輝く太陽が瀕死の身体に響いて仕方がない。
ゾンビのような足取りで舗装されていない禿げた道を歩く。
そんな俺に、天使が舞い降りた。