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03 「旅に出よう」

 あれからというもの、俺の人生は転落の道を辿った。

 病院生活は食欲も失せ、寝付けない日々が続くせいで身体も中々本調子に戻らない。ようやく回復したかと思っても鈍った身体を動かすトレーニングもしないでベッドの上で過ごす。

 俺の身体は抜け殻のように、生気を失っていた。


「……もう直ぐで此処ともおさらばか」


 心地よい風を浴びながらため息を吐く。

 体力も回復し、元気な人を病院に置く余地はない。唯でさえ王都にある病院なのだからベッドの数の限られる。俺の担当をしていたおっさん(本人からそう言えと言われた)は俺を気遣ってくれるのか、「行く当てがないなら此処で働かないかい?」と誘われたが……。


「……魔力がなくなったんじゃ」


 何も、出来ない。

 生きている以上魔力は必要になる。火を起こすにも魔力、道具を作るのにも魔力を使用するこの世界で、どうやって生きていけばいいんだ。……此処で働いたとしても迷惑をかけるだけだ。


 ……ヴァサーゴの言う通りだな。

 魔術が使えない俺なんている意味がない。だから王も俺を見放したのだろう。


「旅にでも出るか」


 思わずぽろっと出た。

 一昔前の俺なら絶対に言わないであろう台詞。国に尽くし、民を守る為に死に物狂いで王国魔術師になったのに……身が落ちぶればこうも変わるのか。


「……結局誰も来なかったな」


 俺が入院している間、見舞いに来る奴は一人も居なかった。勇者も、先輩も、後輩も。

 ……とうとうあいつらからも、俺は。


「――駄目だ駄目だ!」


 暗い考えを退散させる。あいつらの事だ、戦に勝った後の始末でもしているんだろう。それが忙しくて俺の所に行く暇がないだけだ。

 自分に言い聞かせ、ベッドに潜り込む。


 ――今夜、此処を出よう。


 俺の見立てが合っていれば今夜は月が出ない。なら人知れず立ち去るには丁度いい。急にいなくなったとしても手紙を書き残しておけば大丈夫なはずだ。

 まだ陽が出ている時間帯だが瞼を閉じる。俺の決意は固かった。


 ♦


 むくりと身体を起こす。予想通り起きたのは夜中だった。

 草木が静まり、物音一つもない。外を見ても明かりは灯っていなかった。


「今がチャンスだ」


 ベッドから身を下ろし、クローゼットに入れてある服を取り出す。現在の格好は質素な白い服。流石にこのままで外に出たら怪しまれるだろう。

 いそいそと着替える。戦いの時に着ていた服だが……。


「これよりはマシか」


 レザー製の戦闘服。致命傷を避ける為に局所を厚くしているが……はっきり言って後方支援が主体の(俺は例外だったけど)魔術師に意味があるのか。

 そんな疑問は置いといて、


「行くか」


 ポーチをベルトに取り付け、最後にブーツを履き、窓枠に手を掛ける。

 入り口から出たらバレる可能性が高い。だったら――。


「何事も裏を斯かなくちゃな!」


 戦略の基本。相手の裏を考える。患者が窓から外へ出るなんて思いもしないはずだ。

 それに俺が居た病室は二階。結構な高さがあるが……俺には関係ない。


「――風の神よ。【風の革靴(サンダルファン)】!」


 魔術師だけに許された神秘――魔術を使えばこの通り。一々回り道をしなくても――。

 と、この段階で気づいた事がある。


 一つ、魔術を使えない事を忘れていた事。

 二つ、かなりの高さがある事。

 三つ、


「――――んぎゃあぁぁぁぁああああ!!」


 既に飛び降りた後という事。

 俺の目の前は真っ暗になった……。

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