02 「魔力とは、誰にでも存在する」
一人になった俺はどうにかして気持ちを整えると医者に話を聞いた。
――俺の状態を知る為に。
「先生。俺の身体の事、詳しく教えて下さい」
「……いいのかい? 酷な話になると思うが……」
先程とは違い、フランクで穏やかな口調の医者。これが本来の彼なのだろう。
痛む身体を堪え、真っ直ぐに見つめた。
「覚悟の上です。そうでもしないと……俺はずっと縋ってしまう」
「……分かった。此処に座りなさい」
目の前にあった椅子に座る。少しだけ楽になった。
医者は椅子から立ち上がると棚を開けた。
「魔術師の君だから馴染みがあると思うけど……」
手を伸ばして中身を漁る医者。
少しすると重たそうな機械を持って来た。
「魔術測定器。測定者の魔力、特性が全て判明出来る」
「確かに知っています。ですが……よくありましたね」
水晶が填められたアンティーク調の機械を指差す。かなり貴重でこれだけで家一軒建てられる。それ程高価な代物を一介の医者が持っているとは。
「なぁに、偶々持っていただけさ。……さ、此処に血を垂らすんだ」
医者の指示に従い、針で指先を刺す。チクり、と痛みが走ったがこれぐらいどうって事ない。
少ししてから受取皿に入るように下を向ける。すると雨粒のように赤い液体が零れた。
「……これで大丈夫ですか」
「ああ。――今から起動させる」
医者が手をかざすと機械自体が淡く光る。ぶおーんと動き始めたのを見つめていると医者の口が徐に開いた。
「魔力とは、誰にでも存在する。医者であろうが、貴族だろうが、それに奴隷でも。神は全ての生物に魔力を宿した。魔力の存在だけが平等といっても過言ではない」
額に脂汗を浮かべながら医者は言葉を紡ぐ。
「生物には体内に『魔力炉』と呼ばれる臓器がある。大なり小なりあれど、それが魔力を生み出し、我々に魔力を与えた」
機械を包んでいた淡い光が消える。まるで現実に引き戻すかのように。
結果が出るであろう水晶には――。
「……何も、ない」
変化が起きていなかった。
「この装置は魔力の質、特性が判る。魔力が多ければ水晶の輝きが増し、火が特性であればそれは赤色に水であれば青色に変化する。だけど君にはそれが見えない。つまり――魔力炉自体が壊れている可能性が高いんだ」
手をかざすのを止める医者。その顔は気難しい表情だった。
「……どうにかなるんですか?」
「どうかしてでも治します……って言えたらいいけどね。……一度壊れた物は直す事は出来ない。これが何も反応しないとなると治療自体が難しいかと」
「…………そうですか」
僅かな望みを託すがいい結果は得られなかった。
張り詰められた糸が途切れる。緊張を誤魔化す為に握っていた拳も、自然と力が抜けていた。
「……私達も尽力する。まずは身体の回復から、頑張りましょう」
医者の前向きな言葉に、俺は何も返せなかった。