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宇宙の独り子  作者: 旅する小説
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四章

各々数台調べ終えたあと、ジェットパックの音が聞こえ始めた。シャールが宇宙船から顔だけ出すと、宇宙服から誰だか判明した。

「オスカー!」

するとオスカーは一時停止し、シャールの方へ向かってきた。エルミトもそれに気づき、シャールの方へ向かう。

「おおシャール。お前なんでこんな所で採掘してるんだ?」

オスカーのショルダーバッグはパンパンで、オスカーは少し暑苦しそうな素振りを見せていた。

「いや、実は、、。」

エルミトは宇宙船の左翼部分に乗った。

「ん?誰だこいつ。」

オスカーは目を細めながら、エルミトに近づいた。

「は?おおおおおお、女じゃねえか!え、ちょ、ご、ご機嫌麗しゅう、、とか言うんだっけか!?」

エルミトはとても困惑した様子で、シャールは意外な反応にツボに入っていた。

「ご、ご機嫌麗しゅうっていつの時代だよ!お前の街に女性が居ないからって、なんだよその慌てぶりは、、!」

「う、うるせえ!おい、シャール、じゃあどうするのが正解なんだよ教えろ!」

「普通に自己紹介で良いだろ、、。」

シャールは一旦落ち着いたかと思えば、すぐにまた笑い出した。

「ちっ、、お、オスカーだ。お前は?」

「、、、エルミト。」

「お前、見ねえ顔だな。何番街の生まれだ?」

「いや、私は、、、」

シャールはまずいと慌てて割って入った。

「し、新入りなんだよ!」

エルミトはシャールに説明を求めるような眼差しで見つめた。

「ほ、ほら、色々あってさ、この子、降格させられてここに来たんだ。」

オスカーは眉を顰めた。

「ここ30年地球から新入りは来なかったんだぞ?それが数十年ぶりに新入りが来たなんてビッグニュース、なんで今まで俺の耳に入ってなかったんだ?」

シャールはとても焦燥した。オスカーは大の上流階級人嫌いだから、エルミトがS級だと知れば手を出しかねないので嘘をついたが、こいつはなかなかのミーハーでゴシップやニュース好きでもある。

「えっと、、。」

何かを察したのか知らないが、オスカーはそれ以上詮索しなかった。

「んーまあいいや。複雑な事情があるのはお互い様だしな。よろしく、エルミト。」

オスカーはエルミトに握手を求めた。エルミトは一瞬シャールを見たが、その握手に応え、握り返した。オスカーはにかっと嬉しそうな顔をしてから言った。

「じゃあなんだ、この4区にいるってことは、これがエルミトの初仕事か。へっ、コア漁りを選ぶなんて、随分物好きだな。俺もここちょっと探索すっかな。シャール、帰る時になったら言ってくれ。」

「分かった。」

シャールはため息をついてからエルミトに事情説明をした。

それからというもの、僕たちは少しずつ一緒に仕事をすることが増えた。


青春の匂い


「よっしゃー!!エルミト、今日は俺の勝ちだな!」

オスカーは大量のコアを抱えながら興奮してエルミトに言った。

「黙れブスカー!私は33だぞ?お前、数えてみろよ!」

「あ?1、2、3、4、、、30、31、、。」

コアを数え終えて、オスカーは落胆した。

「またエルミトの勝ちかよ、、。っていうかそのブスカーって呼ぶのいい加減やめろや!」

「ふふん♪ブ・ス・カーの分のチョコレートレーション貰った!ほら、とってこーい!」

オスカーは悔しそうに歯を食いしばって自分のショルダーバッグの方へ歩き出そうとした。すると、

「まだ鼻息荒くするのは早いよエル!」

シャールは宇宙船のコックピットを引きながらドヤ顔で二人に近づいてきた。オスカーは足を止めて振り返り、

「シャール、まさか、、、。」

震え声でそう言うと、

「そのまさかだ!見よ!このコックピットにも収まらぬコアたちを!」

シャールは両腕をバッと広げ、コックピットにパンパンにつめた蛍光色に輝く数多のコアを指した。

「、、、数、いくつ?」

エルミトは瞳孔を開きながら言った。

「この私、シャールの今日のコア獲得数は、、、デデデデデデデデデデデデ、、、デン!なんと、48個!!」

「うおー!!遂に4年前のエルミトの大記録、46個を上回ったー!」

エルミトは唖然としていて、オスカーとシャールは抱き合って歓喜した。

そう、僕たちはあれから8年の間、かけがえのない友として暮らしてきた。エルミトもご覧の通り、僕たちには少しずつ心を開き、一人の美しい活発な女性となっていた。オスカーも僕も体重、身長、筋肉共に健やかにぐんぐん増えていった。僕たちは、二十歳になった。

するとオスカーは腕をシャールの肩に回して後ろを向いて言った。

「で、あの話、忘れてないよな、シャール!」

「ああ。僕は一日のコア獲得数がエルの記録を上回ったら、あいつに告白するんだ!」

もはや彼女がS級だなんて事実、隠しすぎてほとんど忘れていた。いや、覚えてはいたが、その事実から逃げ続けた結果なのかも知れない。僕は少しずつ彼女が好きになっていった。

正直エルに僕への恋愛的な好意があるかは未知数である。いや、可能性はほぼ無い。彼女は僕らに打ち解けはしたが、友達以上の関係になるという概念すら感じない。恐らく断わられるだろうと思っている。しかし自分自身の気持ちにどうしても嘘はつけなかった。たとえ今の関係を崩してしまう結果となったとしても、告白せずに後悔するよりも告白して後悔しようとオスカーとも話して決めていたのだった。

「で、今から本番、行っちゃうのか!?」

オスカーは食い気味で尋ねた。

「うーん、やっぱりこういうのはいい雰囲気じゃ無いとダメだよね。」

「だな!じゃあ明日一番に結果教えろよ!」

「ふん、お前の目の前で俺たちのキスを見せつけてやるよ!」

興奮を抑えきれぬ様子で二人はテンポ良く言った。

「へへっ、それは楽しみだ!」

「じゃあエル、帰ろう!」

エルミトは振り向いて少し微笑んでから頷いた。何度見ても彼女の笑みは天使のようである。自然と僕も微笑み返してしまった。

僕たちは各々のジェットパックを点火させた。オスカーは方向が逆なので、一瞬振り向いて

「頑張れよ。」

と呟いた。

ジェットパックの振動と共にせーのと心の中で叫んで、僕たちは永遠の闇へと飛び出した。


結構遠い所まで行っていたので、数回シャールとエルミトは小惑星や宇宙船の上などで休憩を挟んでいた。3度目の休憩にもなったが、いざ告白しようとしても数年ほぼ閉じ込めていた気持ちを解放するのは中々勇気がいる。いつも喉仏あたりでつっかえて言いたいことが言えないもどかしさを感じていた。最後の一欠片の戦利品を口の中に放り入れる。

エルも何か感じているのか、会った当初を想起するまでの沈黙が続く。

そんなことを引っ張ってもう街に着いてしまった。ジェットパックの火力をゆっくりと弱めて

「ああ、、」

と自分の決心の弱さに落胆する。

「で、何が言いたかったの?」

エルミトはやはり何かシャールが言いたげであることは分かっていたらしい。しかしそんな唐突に返されても決心が逆に固まるほど彼は勇者では無かった。

「いや、えっと、、ジェ、ジェンセン4号がなんか調子狂ってるからさ!メ、メンテナンスにトロメダとアルゴおじさんの所に行かないとなって!」

「へえ、じゃあ先に夕飯準備しとく。」

咄嗟に出た嘘にしては上手くできたとシャールは少し安堵した。

「うん、よろしく。」

実際シャールの4代目ジェットパック”ジェンセン4号”はメンテナンス期間を迎えていた。

「ま、いいか。どうせそのうち行く予定だったし。」

時計台への帰路を辿るエルミトを横目に、シャールはまっすぐに歩き出した。

8年でもここまで進化しないのかというレベルで全く街並みは変わっていない。情勢として変わったことと言えば、多少反世界政府運動が活発化した程度だ。ジョセフ・マッコーリーという苗字付きの貴族が最近世界政府の大臣を会議の間に殺そうと暗殺者を雇ってたと疑われて宇宙貧民街送りになったらしい。濡れ衣だと怒って住民を反逆に勧誘した結果だそうだ、、、全部オスカーから聞いた。


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