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宇宙の独り子  作者: 旅する小説
4/5

三章

支度


当たり前のように街は閑散としている。他に人一人通っておらず、ほとんど環境音もしない。エルミトが歩きながらふと上を見上げると雲のようなものが描かれている。空を模しているのだろうか。

シャールがそれに気づいて言った。

「この街を造った人が塗ったんだ。僕たちは地球に居た時の記憶がほぼ全くないから分からないんだけど、地球の天井はこんな感じらしいね。」

「地球に居た時の記憶が無い、、!?」

まだ小さいが、今までで一番大きな声を出してエルミトは驚いた。

「ん?うん、そうだよ。生まれてからADLを受けてFランクになったら、赤子の時点で問答無用に追い出されるんだ。地球を。」

エルミトの瞳孔が大きく開いた。

「嘘、、」

どうやらとても驚いているようだ。

「宇宙孤児は自分でそれを選んだ人だけじゃ無いの!?」

シャールは一瞬首を傾げて真剣な様子で斜め上を見ながら言った。

「10%正解、、と言っておこうかな。宇宙孤児の大半は自分の意思関係なく気づいたらここに居た人たちだよ。」

「、、、そうなの、、?」

どうやら自分の常識を打ち崩されたらしい。とてもショックというか、驚いた顔をしていた。

「やっぱり事実隠蔽がされているんだろうなあ。まあ、そりゃそうだよね。」

シャールは悲しそうに俯いた。

「、、、今事実を知ったから満足。」

どうやらエルミトは不器用ながらも元気付けようとしているようだ。

シャールはそれに答えるようにして顔を上げて言った。

「そうそう、10%正解というのは、例外もあるってことだよ。10%の人たちは宇宙孤児に同情したり政策に怒りを感じてDランク以上だったのを自らFランクに降格申請して、あるいはされられて宇宙孤児になった人たち。オーウェルじいちゃんも、今から行く店の、、というかこの店のオーナーもその一人。」

エルミトは会話に集中していて気づかなかったが、どうやら目的地に着いたらしい。

「、、、ここは?」

シャールはにかっと笑いながら答えた。

「入ればわかるさ。」

そう言ってシャールは店の扉を引いた。

デデデデン、デデーン!

ベースギターの音のような入店音と共に

「いらっしゃいやせー」

という潔い掛け声がこだました。店内には様々な機械部品や道具、宇宙服が並んでいる。近未来的な店のはずだが、やはりレトロと近未来が混ざったようで少々気持ち悪い。

「やあ、トロメダ。」

シャールが声をかけた先には金髪ショートヘアーで茶色の目をした活発な女性が居た。年齢は30歳ぐらいだろうか。身長はシャールとあまり変わらない。

「おうシャールじゃねえか!今日初の客だからって声張って損したぜえ。」

トロメダは無垢な笑顔をシャールに向けて言った。

「んで?その可愛い子は誰だい?お?もしかしてお前ら、できてんのか!?おいおいシャールそれはねえぜ!!ははっ!」

一瞬トロメダが険しい顔をしたような気がしたが、シャールはなんとか誤解を解かねばと少し焦ってあたふたしている。しかし同時に彼女には通用しないと諦めているような様子でもあった。

「いや、この子は、、」

「おーい、親方!!シャールが見ねえ顔のべっぴんさん連れて来たぞ!!」

シャールに一切耳を貸さずに、トロメダは店の奥に向かって叫んだ。

すると奥からえ?と言っている声がし、ぬっ、ととても巨大で閻魔顔のおじさんが現れた。

「ちょ、アルゴおじさん!誤解なんだっt、、」

「ええ!?シャール君ができてる!?この子ですか!おやまあ美人さんじゃあありませんか!シャール君、こんな娘どこで拾ってきたんですか!?」

アルゴは興奮を抑えながら言った。

この巨体でこの店の店主のアルゴは、図体が大きい割にほとんどの人に敬語を使っていて律儀だ。よく言えばギャップ萌えする人である。

「拾って来たって、、いや、間違いでは無いかもだけど、、」

シャールが助けを乞うようにエルミトを見るが、エルミトは平常運転だ。安定の無表情を貫いている。

シャールはもう諦めた様子で言った。

「もうそれでもいいよ、、この子はエルミト。訳あって家に居候してるんだ。」

「訳あって、ねえ、、。」

トロメダ、アルゴはニヤニヤしながら二人を見つめていた。

「ってことは、この子もコア探しに行かせるんですか?」

アルゴは言った。

「ああ、そのつもりなんだ。」

「おいおい、お前はそんな可愛い彼女さんに力仕事させちまうのか?いつも一緒にイチャイチャしたいからってそれは乙女心を分かって無いってもんだぜシャール。」

トロメダの茶化しは止まる所を知らなかった。

「で、今日はエルミトの宇宙服と、その他道具諸々を買いに来たんだ。」

「こいつ、遂に俺を無視しやがった!クッソ、お前はいつの間にそんな偉くなったんだ?え?」

トロメダはシャールの肩に腕を回しグイグイと言った。

「宇宙服と道具ですか。予算は?」

「だいたい500エルベルぐらいだと助かる。」

トロメダはまたしても無視されたと頰を膨らませてあからさまにふてくされている。

「、、、エルベルって、何?」

「ああ、ここの通貨だよ。僕ら若い宇宙孤児は、宇宙ゴミの中から今地球の資源だと中々作れないコア、っていう部品を集めてお金を作ってるんだ。エルミトもこの仕事をやってもらうことになる。それで、だいたいコア一個が100エルベルぐらいになるんだ。500エルベルっていうと、、一日超頑張った時分ぐらいの値段かな?コアは探すのが結構難しいんだよね。他にも値打ちのあるものはあるよ。」

「、、、なるほど。」

「まあこの道具一式分は、出世払いってことで。」

「やっぱりお熱いじゃねえか。ケッ。」

トロメダはますますふてくされた。

「そろそろ誰かいい人見つけないとじゃ無いの?トロメダ。」

シャールは反撃するようにトロメダに言った。

「ちっ、余計なお世話だよ。」

トロメダは腕をシャールの肩から放し、そっぽを向いた。

アルゴは店内を歩き回りながら様々な商品を手に取っていき、紙に代金を書いていった。

「ええっと、ニッパーは13エルベルで、グローブは10エルベル、、」

するとエルミトも店内を物珍しそうに見歩き始めた。

「まあ基本道具はこんなものですかね。全部で173エルベルになります。」

アルゴは言った。

「じゃあ宇宙服だな。ふっふっふ。まさか我が唯一無二の最・高・傑・作を解放する日が来ようとはっっ!!」

トロメダは天を仰ぎ見ながら言った。トロメダはこの店の宇宙服担当の技工士だ。どこで技術を覚えたのか知らないが、彼女の宇宙服の品質は地球の製品にも劣らないという評価を受けている。そして彼女は宇宙服の話になると、一瞬でテンションが爆上がりする。控えめに言ってヲタクである。

「コアを探すことを生業としている宇宙孤児は今まで男しかいなかった。しかーし!いずれこの宇宙に生まれ出でる女子の中に、コア探しをする者が現れる!そう信じて女物の宇宙服を夜な夜なこの私、アンドロメダ銀河から名をとった宇宙服開発の申し子、トロメダは開発していたのだ!そして!それはつい先日出来上がったばかり!しかもサイズも恐らく彼女ぴったりなはず!これは宇宙確率論における運・命、というやつなのでは無いでしょうか!?」

世界が一瞬フリーズしたようだった。

「うん、、そうだね。それ、、えっと、327エルベルで足りるかな、、?」

シャールがそう言うと、後ろに雷が落ちたエフェクトが出そうなほどトロメダは驚愕していた。

「327、、エルベル、、材料費だけでも、、赤字、、グハッ!!」

どうやら327エルベルでは足りないらしい。するとアルゴは憤怒を抑えてこう言った。

「ねえトロメダ君、、そんな宇宙服、作ってってお願いした覚えないんだけど、、?しかもうちの宇宙服は最高級品でも500エルベルだよ、、?327エルベルで材料費もカバーできないって、どう言うことかなあ、、?そんなの売ったら1000エルベルは下らなくなるよ?あーそういえば、前に泥棒に入られたのかってぐらいごっそりうちの売上金無くなってたけど、まさか盗んだの君じゃ無いよねえ、、?」

トロメダはやっちまったと凄まじい冷や汗をかいている。シャールはため息をついてから助け舟を出した。

「で、それ、327エルベルで売ってくれるの?」

トロメダはビクビクしながら、

「せ、、せめて600は欲しい、、。」

と要求額を上げてきた。

するとシャールはトロメダに近づき、

「話逸らしてあげたんだよ、、?」

と悪魔の如く囁いた。するとトロメダは涙目で

「327で、、いいよ、、。」

と言った。

「じゃあ、エルミト、試着してきなよ。」

エルミトは頷いたが、同時に人一倍耳のいいエルミトは、全てが聞こえたため内心恐怖を覚えた。

「じゃあ、、どうぞ、、。」

トロメダは未だ半泣きでエルミトを試着室に案内した。

「すみませんね、、」

アルゴは申し訳なさそうに言った。いつもの大胸筋も縮こまってしまっている。

奥の方から断片的に声が聞こえる。

数分後、宇宙服を着たエルミトが試着室から出てきた。

「お似合いですよ。」

アルゴはそう言い、シャールも頷いた。

宇宙服はベージュ色がベースで、キャピキャピしていると言うよりは、控えめでおとしやかなイメージを持たせる。彼女のイメージにぴったりと言えるだろう。

それから僕たちはこの宇宙服の諸説明を受け、購入した。

シャールは店を出ると、エルミトに

「どうする?今日はもう休む?」

と尋ねた。

「、、、実際に買った宇宙服使ってみたい。」

自分の意思をしっかりと述べた為、シャールは少し自分を信頼してくれたのかなと嬉しくなった。

「じゃあ、手軽な近場だけ行ってみようか。」

シャールが笑顔でそう言うと、エルミトは小さく頷いた。

エルミトとシャールは、自分たちのジェットパックの発進スイッチを押し、ぐっと踏み込んでからジャンプした。

街のシャボン玉を突き抜け、暗黒の宇宙に二人は飛び出した。

「操縦上手いじゃないかエルミト!僕なんてちゃんと飛び上がるだけでも丸一日掛かったのに!」

シャールがそう褒めると、エルミトはありがとうと言うようにシャールに目線を送った。

「これから4区に行くよ。4区は殆ど狩り尽くされてるけど、多少の金額になる他の部品が手軽に手に入れられるロケーションなんだ。どのシェルターからも近いし、宇宙服を初めて買ってもらった子が基本最初に行く場所なんだよ。」

エルミトはいつも通り薄い反応を見せた。なんとか会話を持続させようと、シャールはエルミトに質問した。

「S級って、相当すごいよね。異能力とかあるの?」

「、、、特には」

エルミトは言った。

「じゃあ、家柄が凄いのかな?」

すると途端にエルミトは青ざめた顔をした。シャールは地雷を踏み抜いたと後悔した。しかし謝っても傷口を広げるだけと踏んで話を変えようと試みた。

「えっと、その、、す、好きだ!エルミト!」

え、、?何を言ってるんだ僕は!?よりによって出てきた言葉が告白だなんて!恐る恐るエルミトの顔を見ると、ふっ、と鼻で笑ったようだった。どうやら冗談だと受け取ってくれたらしい。正直嘘をついた訳ではない、、?いやどうなんだろうか。とにかくこんなタイミングで告白するなんて誰が見てもおかしい。第一相手は天下のS級人類至宝様だ。自分とは世界が違う。それにもう配偶者は決まっているはずだ。そんな僕たちが結ばれるなんてありえない話である。悲恋物語じゃあるまいし。

「えっと、その、今のじょ、冗談だから。」

そうシャールが言うと心なしかエルミトは残念そうだった。

「こ、ここが4区だよ。」

幸か不幸か着いてしまった。

至る所に宇宙船の残骸が浮いている。まるで宇宙船の墓場だ。宇宙街暦で朝方ということもあってか人は見た限りいない。

「、、、なんか虚しい所。」

エルミトは言った。

「うーん、否定はできないけど、正直これ以上虚しくない場所を知らないからなあ。」

シャールは少し肩を落とした。

「、、、で、何するの?」

「ああ、そうだね。えっと、まずは手軽な宇宙船、、あれとか良いかな?」

少し飛んで一つのある程度新しそうな宇宙船に乗っかった。

「これは旧式のスペースシャトルみたいだね。多分火災か何かで破損して浮遊しつつここにたどり着いたって感じだと思う。」

シャールは少し偉そうに言った。

「じゃあ、まずはそこを剥がしてみて。」

エルミトは言われた所を引っ張り剥がした。

「僕たちが今回狙うのは、これ。各種パラメーターだよ。」

シャールはエンジンパラメーターを指差して言った。

「あんまり価値は無いんだけど、まあ見つけやすいし、お金には一応なるから。」

エルミトは中に潜った。

ほとんど何も見えない。すかさずエルミトはペンライトのスイッチをカチカチとに通して点けた。

「よし、じゃあパラメータの繋がってるコードを探してみて!」

パラメータを一旦顔を遠ざけて全体を見てから、何本かのコードがひと束になっているのを見つけた。

「、、、あった。でも何本か焼けて切れてる。」

エルミトは報告した。

「うーん、やっぱりか。本当はなるべくコードが長い方が値打ちが多少上がって良いんだけど、まあ仕方ない。じゃあ全部のコードを長さが全部均等になる所で切って。」

エルミトは腰の道具入れからニッパーを取り出し、少し力んで切った。パラメータが落ちそうになり、エルミトは慌てて両手を出しキャッチした。

「ふふっ、ナイスキャッチ。」

エルミトは自分のショルダーバッグにパラメータを入れ、宇宙船から直角にジャンプして出た。

「なんとなく要領は掴めたかな?」

エルミトは小さく首を縦に振った。

「じゃあ、今度はエルミトの好きな場所を探索してみなよ。僕はその近くの別の宇宙船を探すから、用があったら呼んで。」

シャールがエルミトの顔を伺いながら少しゆっくりめに言った。

「、、、了解。」

シャールは少し安堵して

「じゃあ、どっち行く?」

と尋ねた。


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