一章
*本編スタートです
不甲斐なき日々の終焉
静寂の中で、甲高い金属音が不規則に鳴り響く。シャールはただひたすらに、荒い息が口に咥えたペンライトにかかっていることも気にも止めず、電気コードをニッパーで取り除いて何かを探している。すると丸い鈍く蛍光色に光った部品を見つけ、それを少し捻って引っこ抜いた。多少の反動で少しそり返ると、多少慌てた様子でそのまま一回転して地に足を付ける。シャールはその部品を見つめながら、
「これだけ探してまだ2個か、、うーん、やっぱりもう57区は狩り尽くされてるな。」
とため息混じりに言った。青く短めの髪から、数滴汗が浮かぶ。腕時計のようなモニターに目をやると、心拍数、体温、装着してからの時間が表示される。
「あと一箇所だけ行ってみよう。」
そう思って振り返ると誰かが呼んでいるような気がした。とっさに耳をすませると、確かに、おーいと誰かが呼んでいる。部品に掴まりながら鋭角にジャンプすると、確実に声が大きくなっていくのが分かる。すると黄土色の髪でエメラルドのように澄んだ色をした、180cmほどのまるで絵に描いたような美青年が手を振っているのが雑多の部品の中から垣間見えた。その美青年が仲間のオスカーであると判ると、すぐさま
「やあ、オスカー!コア何個取れた?」
と言った。すると満面の笑みと共にオスカーは答えた。
「やっぱ81区はまだたくさんコアが残ってるぜ!しかも多少のガソリンまで予備が船内に残ってる。流石、俺たち宇宙孤児お抱えの情報屋様だぜ。いやー結構代金が高くて焦ったが、これならちゃんと手元に金が残るぞー!」驚嘆と共にシャールは古びた宇宙船の壁に肘を付けた。姿勢を立て直したかと思った矢先、
「ねえ、そのコアちょっと分けてくれないかなあ」
シャールは見え透いた作り笑いをオスカーに向けそう言った。
「お前それはちょっと虫が良すぎるぜ。」
「はは、冗談だって。いやーでも2個はちょっとやばいなあ、、」
そんなとりとめのない会話が数分続き、オスカーは盗られる前にと売出しに行った。シャールはもう少し休んでから行くと言ってオスカーと別れ、独り佇んで宇宙を眺めていた。
すると空気の無いはずの宇宙空間から、熱風のようなものが吹いてきた。
「なんだこれ、、?」
少しずつ熱は熱くなっていく。
「これはまずいぞ、、?」
するとまるで閃光弾を1万ほど一斉に放ったかのような強烈な光が目に飛び込んできた。とっさにシャールが腕で目を隠して数秒、閃光が収まったらしいので腕を放すと、そこには今まで漁ってきた宇宙船の100倍、いや1000倍ほどの大きさのある要塞のような宇宙船が凄まじい損害を負って浮遊しているではないか。
「これ、、輸送船か?」
どうやら転移に失敗したらしい。焼け焦げたような痕が全体に残っている場合はそういうことなのだと誰かが言っていた。
「絶対熱いけど、、新しいってことは積荷もコアも残っているはずだ。」
そう言って相棒のジェットパック”ジェンセン”を背負うと、宇宙船に向かっていった。
真空の中での運命
思いの外宇宙船の周りは熱くは無かった。非常ドアを恐る恐る耐熱グローブをはめて引っ張ると、ドアはすぐに剥がれた。剥がれたドアを放って中に入ると、煙で視界を遮られた。
「やっぱり何も見えないや、、とりあえずこの煙をなんとかしないとなあ」
手探りで壁を伝っていくと、何かがシャールの足を掴んだ。
「ひゃあああああああああああああああああああああああああ!」
この世のものとは思えない断末魔に近いような叫び声をあげた。
しかしシャールはいや、おかしくないかとすぐに冷静になり、目の見えない中少しずつ屈んだ。すると確かに人の肌特有の柔らかく生暖かい感触を覚えた。
「ん?これって、、」
その正体が判るとシャールは赤面した。しかしまたシャールはすぐさま冷静さを取り戻し、こう叫んだ。
「生きてる!?でもこのままじゃ空気吸えないじゃないか!!」
すると自分の非常時用酸素タンクに手を回してからマスクを引っ張りだし、その人に手探りで被せた。
「クソ、この視界じゃ助けられる人も助からない!!」
シャールはその人の腕を握り、一目散に宇宙船を飛び出す。ジェンセンを点火しある程度飛ぶと、その人の顔に目をやった。
「っつ、、やっぱりは、裸だった、、。しかも僕と同じくらいの女の子じゃないか。」
少女は美しい茶色と鋼色の界のような髪色で、シャールはまるでブラックホールに意識を持っていかれるような感覚を覚えた。しかしそれと同時にその少女はとても不規則な過呼吸状態に陥っていた。
「まずいな、、。ここじゃ健康診断プログラムも稼働できないし、とりあえずシェルターに行かないと。うん、なら僕の家が一番近いな。よし!」
そう言ってジェンセンのスイッチを長押しすると、5秒ほど火は消え、車のアクセルを踏むように今までの10倍ほどのスピードで発進する。すると数分たたぬうちに小さいの街の灯が見えた。