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文化祭 準備編①~やっぱり俺には関係ないな~

「それどういう意味?」


 元原光。『イケイケ5』の一角にして文化祭実行委員。身長145センチと幼児体型にボーイッシュなショートカット。そして恵まれた顔から放たれる愛くるしい笑顔。その笑顔を見た者はたとえ彼女が唐突に目つぶしをしてきても、つい許してしまうとまで言われている。まさに彼女は『かわいいは正義』を体現した存在といえよう。畑山も例外ではなかった。彼女の笑顔に中てられたことで絶対に話してはならないことをつい話してしまったのであった。


 畑山は自分の失言に全く気付いていなかったが、さらに問いかけられたことで冷や汗をかき始めた。まだまだ作戦はこれからだというのに、このことが『イケイケ5』にバレてしまっては今後の活動がやりづらくなってしまう。それだけではなく、『イケイケ5』は友達も多いため、自分たちの野望がどんどん広まっていき、ずっと後ろ指を指されながら残りの学校生活を過ごさなくてはならないかもしれない。畑山は慎重に言葉を選んだ。


「あー違うんだ、これは、その、えと、抹殺っていうのは言葉の綾なんだよ、ほら俺たちみたいなやつらがそういう人たちと仲良くなったらそうなっちゃうかな~みたいな感じでさ、うん」


 何を言っているのか分からない。畑山は自分でもそう思い、明後日の方向を見上げた。いい天気であった。秀男と太はあまりにも苦しい言い訳に肩を落とした。これではごまかすことはできないだろう、自分たちの学校生活は幕を閉じた......。そう絶望的になっていた3人だったが、元原は意外な反応を見せた。


「へ~そうなんだ~。そういう人たちと仲良くなりたいってことか~。うん、いいね!人と仲良くなるっていうのはめちゃめちゃいいことだよ!てっきり畑山君たちはそういうのあんま好きじゃないって思ってたよ~。いっつも3人でいたしさ~」


 元原光は頭があまりよろしくない。勉強よりも遊ぶことが大好きな彼女は240人中200位という悲惨な成績を叩きだしたことすらあった。ちなみに秀男は最下位である。


 とにかく、彼女は細かいことは気にせず、本人の言葉をそのまま受け止めるタイプであった。あまりにも好意的な態度に、3人は目をピンポン玉にした。


「そ、そうなんだよね~。仲良くなりたくてさ、ホント~。あははは」


 畑山はそのまま乗っかることにした。もちろん、彼は友達どころか知り合いにすらなりたくはなかったが、今の地位を守るためには仕方ないことであった。


「オッケオッケー。そういうことなら私も協力するよ~。任せといてね!」


 そういって彼女はその場を去った。彼ら3人はとりあえず安堵したものの、元原が一体何をしてくるのかさっぱり分からないまま、その時間は終わった。


 帰りのホームルームでは文化祭で何をやるのかを決める多数決が行われていた。彼らの希望は販売だったが、もちろん通らなかった。なぜなら、あれだけ意見が出されていたにもかかわらず、9割の人間が劇に手を挙げていたからである。おそらく、『イケイケ5』が手を回していたのであろう。畑山は悔しさのあまり歯ぎしりをした。


「はい、みんなありがとう~。じゃ、劇に決定だね~。次は何にするか決めようか~」


 彼らにとってはもっとどうでもいいことであった。彼らがどんな劇をやるにしても、裏方の仕事をやる羽目になることは生まれたときから明らかなことだからだ。


 こうして、彼らが聞き流している間に『シンデレラ』をやることが決められた。畑山は寝落ちし、秀男は意識が飛び、太は視界を真っ暗にしていた。



 数日後、劇の配役が決められようとしていた。シンデレラ、王子様、継母、シンデレラの姉×3、踊るモブキャラ×4が1部、2部ごとに決められる。王子様役は『イケイケ5』の男子2人が抜擢された。だが、問題はシンデレラ役であった。『イケイケ5』には女子が3人いるが、シンデレラになれるのは2人だけ。いったい誰をシンデレラにするべきか激しい論争が起こったのだ。


「姫野さんは固いだろ!」


「元原ちゃんのギャップ萌えを狙うの!」


「クールな氷室さんがふさわしい!」


 このシンデレラ論争は泥沼の様相を呈していた。互いが互いの推しがどれだけ素晴らしいかを熱烈に語り始め、しまいには思いを歌にしてしまう者まで現れてしまい、全く収集がつかなくなっていってしまったのだ。最終的にこの論争は氷室紗耶香が自主的に辞退することで落ち着いた。


 一方の彼らはというと、限りなくどうでもいいといった様子であった。先ほども述べた通り、彼らには一切関係ないことだからである。


 あとは脇役を決めるだけであった。自分には関係ないことだ......。そう揃って思った彼ら3人が瞼を閉じようと思ったその時、


「はいは~い。じゃ、私が勝手なイメージで役を決めてくから、やだって人は言ってね~。まず、継母が風香ちゃんと花音ちゃん。次に姉役が畑山君と山田君と___。最後に舞踏会の人が冷ちゃんと飯田君と鈴木君と___ね。嫌だって人はいる~?」


 彼らは眠気が一気に吹き飛び、身体に悪そうな汗をだらだら流した。彼女の言う役柄に自分たちが入っているではないか!どんな端役であろうと自分たちに演じることなどできはしない!そう思った彼らは手を挙げようとした。したが、できなかった。


 彼ら陰キャは授業中に問題の答えが、万が一分かったとしても手を挙げようとはしない。目立つからである。できれば目立ちたくない彼らにとって、手を挙げて『イケイケ5』の意向に真っ向から反対することはクラスの女子から本命チョコをもらうくらいに絶望的なことであった。


「あ、誰も文句ないみたいなんでこれで決定!残りの人は照明とか?だから頑張っていこうね~」







 こうして何もできずに役が決まってしまった畑山たち。彼らの静かな文化祭は一転して、波乱なものになってしまった!はたして彼らは成し遂げることができるのか!?

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