朝起きたらムカついてきた
「それで、どうなったんだよ?」
あの歴史に残る大激闘から一夜明け、彼らは電車内で世間話をしていた。もちろん、畑山が関心を持っていたのは太と涼野のことであった。
「ああ、あれからLONEを交換してアニメの感想言いあってるよ。いや、涼野さんは本当にあのアニメが大好きみたいでさ、僕が良く分からなかったところまで丁寧に説明してくれたし本当に___」
太はかなり上機嫌で涼野とのコミュニケーションを喋った。その顔は彼が今までに見せたことが無い、幸せそうな顔であった。畑山もまた今までに見せたことの無い、笑顔を浮かべた。
「じゃあな、そこそこ楽しかったぜ。行くぞ、秀男」
そう言って、畑山は隣の車両に向かっていった。太は彼の腕を掴んだ。
「お、おいちょっとどこ行くんだよ?」
畑山は何言ってんだコイツといった顔をしながら言う。
「お前はもう俺たちの仲間じゃないってことさ。この裏切り者め!」
畑山の決別宣言に太は仰天した。昨日、畑山は自分がやったことを素直にほめてくれていたし、ポテトチップスだっておごるほど上機嫌だった。それなのにどうして今日はこんなことを言われなければならないのか太は全く分からなかった。畑山はさらに続けた。
「昨日は確かに『でかした!』とか思ってたよ。涼野と仲良くなることで自分たちと同レベルにまであいつを落とせると思ってたからな。でも、よくよく考えたらお前が美少女と仲良くなっただけじゃないかってことに気づいたんだ。お前のレベルが上がっただけじゃんってな」
「いまさら気づいたのか」
なんのことはない。彼はただ嫉妬していただけだったのであった。彼もまさか太が涼野のような美少女と仲良くなれるとは考えていなかったのである。だが、太は納得していなかった。
「でも、駆逐対象はイケメンと美少女でしょ?僕は当てはまらないんだからいいじゃん」
彼らしからぬ正論を吐いた。確かに畑山の目標はイケメンと美少女をこの世から葬り去ることであって、それらと仲の良い人間は対象には入っていない。太を追放する理由にはなりえない。
「うるさいぞ、このやろう。だからって俺は仲良くしろなんて一回も言ってないし~。もうみんな敵だ~。死ねばいいんだ~」
自暴自棄になった畑山は恨みを全世界に向けた。彼の攻撃対象が全世界に向かえばいったいどれくらい損失があるのだろうか。考えるだけでも笑みがこぼれてくる。秀男は彼のあからさまな嫉妬を面白がった。太はめんどくさくなり、携帯をいじり始めた。
学校。いつもなら陰キャ3人衆がくだらない話に腐った花を咲かせているところなのだが、畑山の精神崩壊によってそれすらも咲いていなかった。一応、彼らは集まってはいたが、会話は無かった。畑山は机に突っ伏し、太は嬉しそうに携帯をいじり、秀男は悲しそうに携帯をいじっていた。10連ガチャが爆死したのである。長い沈黙......。その沈黙に耐えられなった秀男は思い切って質問した。
「そういえば、涼野のところに行かないのか?」
秀男の問いかけに太は笑って答えた。
「行かないよ、女子3人と話す勇気なんてないし。それに涼野さんとは学校では話さないよ」
秀男は太の答えに少し驚いた。というのも彼は今回の作戦について興味が無かったので知らなかったのである。一応、聞かされてはいたものの、彼は雑音として認識していた。ゆえに太がなぜ学校で話さないのか良く分かっていなかった。
「涼野さんは友達と話すのが好きみたいだし、それにアニメ好きだってバレたくないみたいだからね」
なるほど、それならば確かに納得がいく。学校内でアニメの話をしていれば、それがバレてしまうことは明白である。秀男がそう納得したとき、ついにやつは動いた。おきまりの人差し指カッコつけポーズをとった男が生き返ったのだ。
「なるほどな、そういうことだったのか。つまりお前は学校では彼女とは話さないってことだな?」
なぜか嬉しそうに問いかける畑山に太はそうだと答えた。秀男は呆れた。
「それならいいや、俺の見えないところでなら問題ない。よし、許してやろうじゃないか。いいですよね、秀男リーダー」
「勝手にリーダーにするな」
畑山の言葉に太は頬を緩ませた。彼の謎ルールのおかげで太は誰も入りたくない陰キャグループの中に戻ることが許されたのであった。あそらく、とてもめでたいことである。畑山は太の肩をポンと叩き、急に秀男に向かってしゃべりだした。
「そろそろ秀男も俺たちと共に壮大で素晴らしい計画を行ってもらうぞ。お前の助けが今後必要な時が来る可能性が無きにしも非ずだからな」
「あんまないよなそれ。俺はそんなくだらないことしたくは___」
畑山の悪魔的勧誘を普通に断った秀男に対して、彼は人差し指を立てる例のポーズをとった。普通は分からないが、彼のお気に入りポーズである。
「そうかな?なんだかんだ俺と太がやってることが楽しそうだな~とか思ってるだろ?」
畑山の発言に彼は耳が痛くなった。彼らがやっていることは確かに馬鹿馬鹿しいが、彼の目にとってはその姿がなんだか輝いて見えていたのだ。だが、それを口にするのは気恥ずかしい上に、やはり彼らのやっていることは馬鹿馬鹿しい。彼のプライドがそれを邪魔していた。
「あー俺ちょっとトイレに行ってくるわ」
思いっきり逃げた秀男に畑山はため息をついた。太は秀男を追いかけた。彼も秀男と一緒にイケメンを撲滅し、理想郷を作り上げたかったのだ。
彼らの激闘はとりあえず一息ついた。これから彼らはいったいどうするのか?次回、新章開始!
「なんか最近調子よさそうだよね~、畑山くんたち」
「そうだね、なにかいいことあったのかな?」
「かもね~」
(そんなわけないじゃん)
(あの陰キャたちに)