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くたばれイケメン、美少女ども~~~陰キャたちの逆襲劇~~~  作者: カラカラ
涼野風香編~~~太の怒り
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涼野風香編 後編!!

 昔から私はそうだった。小学校低学年のころはよく男の子に交じってサッカーしてたし、バトルアニメも好んで見ていた。でも、成長するにつれて男子とは遊ばなくなって、女子とオシャレに勤しむ方が楽しくなっていった。


 けど、それでもアニメを見ることは辞められなかった。私は男の子っぽさから完全には抜け出せていなかった。もちろん、他の女の子たちはそんなの見てない。だから私は隠し通すしかなかった。辞めるべきだと思っていても辞めることはできない。私はあの『熱さ』が好きなのだ。今の女子、いや男子にすらない『熱さ』が私はたまらなく好きなのだ。


 ただ、隠しきるというのは思ったより大変なことだった。アニメの話をしないことはすごい簡単なんだけど、どうしても漏れてしまうことがある。今まではそれでも問題なかった。私が仲良くしてる人はアニメのことを何も知らない人だし。だから、油断してたのかもしれない。



 次の日。涼野風香は何事もなかったかのように学校に登校した。もちろん、彼女は昨日のことをしっかりと覚えていたが、ただなんとなくそんな感じでいないと負けた気がするのだ。いつも通り、教室で友達とあいさつを交わし、昨日のテレビ番組などの感想を言い合う。そうしてゆっくりと黒歴史を忘れていく。彼女はそう誓いながら、教室に入った。


 まだ彼は来ていない。それを確認してホッとした彼女はそのまま友達と談笑した。こうして彼女の日常は過ぎていく。ここまでは。


昼休み。涼野が友達と昼食を食べていると、右のほうからなにやら声が聞こえてきた。最初は気にしていなかった涼野だったが、だんだんと大きくなる声量のせいで嫌でも耳に入ってくる。それは衝撃的なものだった。


「ねえ、いいからさ、アニメ見ようよ~」


「嫌だよ、俺はラノベマンだから無理」


「何?逃げるの!?」


「逃げてないわ!時間が無いの!」


「それがお前の選択か......まあ、それもいいだろう!」


 涼野はその会話を聞いて、忘れかけていた黒歴史を思い出した!昨日、自分がつい口に出してしまった『ガンガンガンバトル!!』のセリフを太たちが言っている。自分たちにも聞こえるくらいの声で......。これだけなら偶然で片付けられるが、『逃げるの?』や『それがお前の選択か』といったセリフは何回も繰り返し使われていた。太が答えるたびにそのセリフを言っているのだ!


 涼野はすごい勢いで友達2人を見た。彼女が昨日言ったセリフのことをもし、彼女たちが覚えていたら?それが不安で仕方なかったのである。


(まあ、大丈夫でしょ。いちいち覚えてるわけない......)


 そう彼女は高をくくっていた。確かに彼女の考えはなんら間違っていない。人間は1日経ってしまったら、その記憶を74%忘却する。つまり、なんの変哲もない会話をいちいち覚えている人などいないのだ。


 だが、それはあくまでなんの変哲もない会話の場合である。彼女は気付いていなかったのだ。アニメを見ている人全般がアニメキャラのセリフを口に出すとき、若干そのキャラに寄った声色になってしまうことを!そして、彼女もまた若干気取った言い方をしてしまっていたのだ!友達の1人、花音はその彼らの会話を聞き、首をかしげていた。


「うーん、なんか聞いたことあるような気がする......」


 余裕の表情で卵焼きを口に入れようとしていた涼野だったが、花音の発言を聞いて思いっきり動揺し、鼻に卵焼きを当ててしまった。卵焼きの甘ったるい匂いが彼女の全身を駆け巡った。と、同時に彼女は明晰でもなければ、馬鹿でもないその頭脳をフル回転させた!


(やばいやばいやばいやばい!)


 やばいしか出てこない涼野。当然である。涼野は彼女たちに隠れアニメオタクであることを一生懸命に隠してきた。バレてしまえば、


「うわっ、オタクキモ」


「あいつらと仲良くやったら?」


 そう、これこそが薄汚い畑山たちの最低で卑怯な作戦であった!涼野がアニメオタクであることを周囲にバラすこと。これが成功すれば、彼女を自分たちと同レベルに引きずり込むことができる!彼らはそう考えたのであった。そして実際に、この作戦は涼野を動揺させ、その友達に薄い疑惑を抱かせることに成功していた。


 このまま放置していれば、バレるかもしれない。少し落ち着いてそう考えた涼野は彼らの口を封じるべく行動を起こした!


「あー、山田君。ちょっといいかな?」


 涼野は席を立ち、太を廊下へ誘った。太は畑山をチラ見したあと、涼野に付いていった。そして、両者が廊下で向き合う。いよいよ、決着の時が来たのだ!


「あ、あの、どうかした?」


 太のすっとぼけた態度に涼野は苛立ちを覚えた。太の心臓はバクバク鳴っている。ここで、彼女から話してくれなければ意味がない。畑山に言われたとおりに、彼は慣れない嘘をついていた。


「ワザとでしょ、あんな露骨にさ、その、言葉言うなんてさ」


「なんの話?」


 まだとぼける太に涼野は業を煮やした。今まで彼女が溜めてきたうっぷんを晴らすかの如く、その怒りを爆発させた。


「だ、か、ら!アニメのセリフをあんなに口にするなんてワザとでしょって言ってんの!!」


 涼野は周りに人がいることを忘却してしまったらしい。普段の彼女らしからぬ大声に太は大きな胸を激しく揺らした。


「わわっ、お、お、落ち着いて、落ち着いて、みんな見てるよ!」


 太の言葉に涼野は少し冷静さを取り戻すと同時に恥ずかしくなった。まあ、誰も居なかったのだが涼野はなんとなく羞恥心を覚えていた。太も彼女の怒りに、すっかり気圧されてしまっていた。続く沈黙。だが、やがてそれは打ち消された。


「それで、結局どうしてあんなことしたの?」


 落ち着きを取り戻した涼野は太に疑問を投げかけた。だが、太はかなり困っていた。というのも、彼女があまりにも大声を出したために、自分でもなんでこんなことをやっていたのか忘れてしまったからであった。思い出そうと必死に頑張る太はチラリと涼野を見た。般若の顔をしていた。生命の危機を感じ取り、すぐさま答えを出した。


「そ、それはその......友達になりたかったからかも」


 意外な回答に涼野は言葉を失った。


「ぼ、ぼくはアニメが好きで......でも、友達はそんなにアニメ見ないんだ、だ、だからその、どうかな......?」


 涼野は実のところ、ストレスが溜まっていた。自分の好きなことを誰にも話すことができないこと。それは誰であっても苦しく、辛いことであるのだ。


 しかし、太と友達になることは難しいだろう。当然である。なんか良く分からないが無駄に脂肪のついたわがままボディに、仲良くなる手段の陰湿さ。なんとなく、避けたい気持ちがあるのは極めて自然である。その自然さはイケメンが女にモテて、ブサメンがアニメキャラに恋するくらいの自然さであった。当然、彼女はその申し出を断るであろう。


「あ、じゃあよろしく~。あのアニメすごい面白いよね!?」


「うん、そうだよね!特に今週の決別シーンなんて......」


 アニメを語りたい欲求に涼野風香は耐えることができなかったようだ。太と涼野がにこやかに談笑している珍光景にトイレから帰ってきた秀男は理解が追い付かなかった。


「え、え、何あれ」


「ふっふっふっ。よくやった太」


「うわっ、居たの?」


 秀男はいつの間にか隣にいた畑山にも驚きを隠せなかった。畑山は満悦の表情をしながら、トイレに行き、個室で泣いた。

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