革命の始まりだ!!
「「「「あなたのことが好きです。結婚してください!!」」」」
やれやれ、弱ったな......。まさかこんなことになるとは。ただ俺は穏やかに暮らしていければそれで良かったのに。
俺は突然、この異世界に召喚された。何でも、絶大な威力を誇る闇魔法を使いこなす魔王を倒すために俺が召喚されたらしい。でも、仕事に明け暮れる毎日にうんざりしていた俺には、そんな体力と精神力を使いそうな面倒ごとに付き合う心構えがどうしても持てなかった。だから、俺を召喚した女神の言うことをスルーして農業を始めたのだが......。
俺はどうもトラブルを引き寄せる体質を持っているらしい。今だって俺には全く釣り合いそうにもない美少女4人から告白を受けてしまっている。やれやれ、俺のどこに惹かれる要素があるんだ?全く分からない。
とにかく、こんな美少女たちと結婚なんてしたら国中、いや世界中から注目されてしまうことは間違いない。なんとかしなくては。やれやれ、面倒だな......。本当に大変だよ......。誰か俺と交換してくれ!!
「は?死ねよ」
「うわっ、どうした急に」
「頭大丈夫?」
畑山一郎。その畑山の唐突な言葉に彼らは反応せずにはいられなかった。やがて、畑山は彼らに聞こえるくらい大きなため息をつきながら言葉を続けた。
「いやさ、お前らも見てみろよこのページ」
そう言って畑山は彼らに読んでいたラノベを見せた。彼らのうちの1人、やたら太った皮肉屋、山田太(以下太)は興味深そうに顔を傾けた。もう1人、いかにも勉強できそうな顔をしながら常に最下位をキープしている男、鈴木秀男(以下秀男)は一瞥もせずにゲームをやり続けた。そんな態度をとる秀男に対して、畑山は悪魔的所業を行った。ゲームのコンセントを抜いたのである。
「ちょ、お前何すんだよ!」
当然怒りを露わにする秀男。しかし、畑山は全く動じず、人差し指を立ててニヤリと笑った。
「ふっ、大丈夫さ。さっきセーブしてただろ?大したことないじゃないか。それより、ラノベ見ろよ」
畑山は思いっきり開き直った。自分が仕掛けた落とし穴に自分が引っかかってしまったときくらいの怒りが秀男には湧いてきた。そのまま、殴って殴ってたまに蹴ってまた殴ろうとしたとき、太が声を出した。
「読んだけどさ、これがどうかした?」
「分からないか?この圧倒的理不尽に!!」
畑山は顔を真っ赤にしながら思いっきり叫んだ。その真っ赤な顔はまさにリンゴのようである。そこまで赤くはないが。
一方、思考を邪魔されたことで秀男は落ち着きを取り戻した。やはり殴る蹴るだけではレパートリーに欠けるのではないかと考えたのだ。
「何言ってるのかさっぱり分かんないよ。日本語で話してるよね?」
いつもの太の皮肉が畑山に炸裂した!しかし、畑山はダメージを受けることなく答えた。
「分からないなら教えてやろう。いいか、この主人公は良く分からないけど美少女に惚れられているんだぞ!しかも1人2人どころじゃなく、4人だぞ4人!ありえないだろ!しかも本人はそれを望んでないだとさ!!はっ、冗談じゃねえぞバーカ!!!」
先ほどよりもボリューミーになった声にドン引きする秀男。先ほどまでの彼をフルボッコにするシチュエーションが大空へ吹っ飛んでいった。畑山の外国語によるスピーチを全く理解できない太はさらに尋ねた。
「What do you mean?」
「英語で喋ってねえよ!!」
「ニーハオ?」
「中国語でもねえよ!!!」
さらにうるさくなった声にたまらず秀男は口をはさんだ。
「静かにしてよ、頼むから」
秀男の言葉に畑山は目と口を大きく開けて、すぐに口を閉じた。しかし、1秒ももたなかった。
「つまりだ、俺が言いたいのはこの主人公がなぜモテるのかってことなんだよ」
だいぶボリュームは下がったが、まだうっすらと顔が赤く染まっていた。なぜ主人公がモテるのか......。これ以上にくだらない、さらに死ぬほどどうでもいい問いが果たしてあるだろうか?しかし、その問いと同レベルの者たちは必死に考えた。彼らが答えを出す前に畑山は勝手に正解を発表した。
「それはな、なんだかんだイケメンだからだよ!そもそもアニメとか漫画の主人公見てみろよ!みーんなイケメンとか美少女ばっかりじゃねえか!!どうしてブサイクメンは存在しない!?おかしいだろ!!!」
喉元過ぎれば熱さを忘れる。この言葉が彼にはピッタリであろう。とはいえ、忘れるのが早すぎるが。彼がようやく日本語で話したことで理解できた太は首を上下に揺らした。秀男は眉をひそめた。そして、畑山はとんでもないことを言った。どれくらいとんでもないかというと、18禁ビデオを見ている最中に親が部屋に入ってくるくらいのとんでもなさである。
「俺たちがモテないのもこのせいだ。つまり、イケメンや美少女が限りある資源を搾り取って更地にしてしまうせいだ!!諸君、こんなことが許されていいのか!?いや、許されていいはずがない!!私はここに宣言する!!イケメンと美少女をこの世から抹殺する!!そして、俺たちが相対的にイケメンとなる世界を作り上げるのだ!!!」
「おおおおおおおおお!!!」
「うるさい」
こうして彼ら陰キャの逆襲劇、その幕が開いた。彼らの大いなる野望は果たして成し遂げられるのか!?絶対、無理。