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正直言ってあの異形の使い魔ほどのインパクトは無かった物の、その後も魔法学部の紹介も興味深い物だった。
例えば普段は講義に使われているらしい教室に通された千春たちは、此処の学生たちが携わっている研究を紹介して貰った
教室に据え付けられたスクリーン上で、学生たちがこの日のために準備した資料が映しだされている。
資料の中には先ほどの棚に陳列されていたクリスタルの持ち主が、実際に能力を使った時の映像を使われていた。
どうやらクリスタルを売却する際に、実験資料として能力使用時のデータ取りに付き合った魔法少女もいるらしい。
「魔法少女のリソースに関するいい例として、この魔法少女の能力があげられます。 彼女は漫画やアニメなどの様々媒体から引用した、百近くの能力を形にしようとしました。
その結果、殆どの能力は能力としての体をなしていなかった」
「典型的なリソース不足ですね。 聞き取り調査によると彼女は能力を構築する際、このような結果になる未来を予期していたそうです。
しかし彼女はその感覚は単なる気の迷いだとして、無理やり強行した結果が…」
スクリーンに映し出されている資料映像で、プライバシーの関係からか顔や声が加工された魔法少女の姿があった。
この魔法少女は手に持ったクリスタルが埋め込まれた剣を水平に構えて、その先端からライターのような小火を出していた。
本来であれば火炎放射器のように強力な炎が出る筈だったようだが、現実はこの通りお寒い限りである。
魔法少女は魔法と言うしかな不可思議な力を使えるが、決して万能の存在では無い。
一人の魔法少女が使えるリソースには限りがあり、それを上手く配分できなければ結果はこの通りということだ。
こんな能力なら持っている意味はなく、この魔法少女は喜んでクリスタルを此処に売ったことだろう。
「一般的にも知られている事ですが、魔法少女が実現出来る力には限りがあります。 死者蘇生は出来ないし、地球を滅ぼすことも彼女たちには出来ない。
それが私たち魔法学部での見解です…」
「しかしマスクドナイトNIOHの能力は、その枠を超えているように見えるのです! ヴァジュラと言う遠近両用の武器を持った上で、頑丈さとパワーのAHの型、超感覚と精密さのUNの型と言う多彩な能力!」
「AHの型とUNの型と言う、二つの能力を持つマスクドナイトNIOHにはとても注目していたんです! あれほど完成度のある能力を使い分けれる魔法少女なんて、他には居ませんよ!!」
「普通の魔法少女ならば、ヴァジュラと片方のフォームだけでリソースが打ち止めになる筈です。 それなのにマスクドナイトNIOHは両方のフォームを、リソース不足になること無く完璧に実現している。
一体どんな構築をすれば、あんな汎用性の高い能力が実現するんですか!」
この場に居る魔法学部の学生たちは、一人の魔法少女が構築できる能力の制限に関する研究を行っていた。
その彼らが言うには、これまでの戦いで千春が見せたマスクドナイトNIOHの力は他と比べて異常であるらしい。
マスクドナイトNIOHの能力について疑問を持った者は彼らが最初では無く、以前にも同じような疑問を千春に投げかけた者は居た。
しかし千春は彼らの疑問に応える気はなく、これまた以前と同様に合間に言葉を濁そうとする。
「いや、俺も良く分からないんだ。 正直、これは貰い物なんで…」
「そ、そうですね…。 あなたは魔法少女から能力を譲渡されただけでした。 能力の譲渡に関する話も聞きたいですが、今は能力について魔法少女の方に話を…、居ない!?」
「どういうことだ、さっきはそこに…」
「…逃げたな、あいつ」
直接話を聞ける機会に是非その秘密を知りたいと、学生たちは千春を質問攻めに合わせてしまう。
世間的には千春のマスクドナイトNIOHの力は、NIOHチャンネル主である魔法少女の天羽が授けた物となっていた。
千春の使う能力に興味津々らしい学生たちは、当然ながら千春が駄目なら天羽から話を聞き出そうとする。
しかし危険を察したのか天羽は既に部屋か消えており、学生たちの学術的好奇心が満たされることは無かった。
適当なタイミングで此処の教授である粕田が学生たちを止めてくれて、千春は学生たちの追及から何とか逃れていた。
粕田に案内された部屋には一足先に脱出していた天羽も居て、千春は学生たちの相手をさせられた恨みから彼女を軽く睨みつける。
そこは応接室らしき場所であり、千春たちは粕田から勧められて高級そうなソファー席へと腰を掛ける。
そして秘書らしき人が持って来たお茶を口含んで、千春たちは一息を付いていた。
「ははは、申し訳ありません。 今日のために有望な学生を呼んだのですが、少し熱意があり過ぎましたね」
「いや、凄かったですね。 みなさん、本当に真剣に魔法少女のことを研究しているんですね…」
「わざわざ魔法学部なんて所に来た物好きですからね…、あの位は当然ですよ」
千春たちに対して此処の研究を紹介するため、休日に呼び出された学生たちである。
魔法学部の上澄みであることは間違い無いが、それを差し引いても彼らの熱意は本物である
あの熱心な学生たちに加えて、研究資料として集められた多数のクリスタルや使い魔にも驚かされた。
どれも事前に聞いていた魔法学部の評判とは全く異なっており、千春は違和感を拭えないでいた。
「本当、今日は驚きました…。 まさかこんなに凄い所とは思って無くて…」
「ああ、やはり以前の評判をお聞きでしたか…。 実はですね、お恥ずかしい話ですが私たちの魔法学部が今のように研究熱心になったのはごく最近でして…」
「ええ、それって何時からの事なんですか?」
千春の内心が顔にでも出ていたのか、粕田はあっさりと魔法学部の世間での評判の悪さを認めた。
どうやら粕田の話によると、少し前の魔法学部は千春が聞いた通りの酷い場所であったらしい。
それが一体どのような事があって、今のような研究熱心な若者が集まる場所へとなったのか。
「口幅ったいですが、私が今年から此処の教授に就任した時からですね。 それまでは本当に酷かったですよ、学生だけでなく講師までが研究のけの字もせずに遊び惚けている状況でしたよ。
魔法学部はこの大学の目玉として新設された学部ですので、それがこの有様では大学自体の評判まで落ちてしまいます。この状況に学長が危機感を抱きまして、私が魔法学部の立て直しを命じられたのです」
「へー、何かドラマ見たいですね…」
「うん、あるある。 企業を立て直す系のドラマ、流行ってるよね…」
朱美から聞いた魔法学部の情報は、粕田教授が就任する以前の古い情報であったらしい。
粕田の辣腕によって魔法学部は、研究熱心な学生たちが集まる素晴らしい学び舎として生まれ変わっていた。
その活躍は傍から聞けば、最近テレビで見かける企業を題材にしたドラマのようにも見える。
実際にビジネスマンのようにスーツを着こなす粕田の姿は、ドラマに出ていても違和感が無さそうだ。
「勿論、私の力だけではありません。 例えば本当に魔法少女について研究をしたくて、魔法学部に入ってきた生徒も居て、彼らは私に全面的に協力してくれました。 資金面でも学長の後押しがありましたし、私は彼らと二人三脚で今の魔法学部を作り上げたのです。
そうそう…。 引退した魔法少女からクリスタルを集めると言う手段も、彼らのアイディアなのですよ」
「そうか…、それで今の魔法学部になっんですね」
「私たち魔法学部は生まれ変わったと自負しています。 しかし世間の評判は中々覆らないもので、私たちへの評価は恐らく矢城さんが最初に抱いていた物になるでしょう。
我々は生まれ変わった姿を世間にアピールする必要があるんです」
「ああ、それで渡りのモルドンを扱った実験なんかを、NIOHチャンネルで公開しようと思ったんですか…」
確かに粕田の手によって魔法学部は生まれ変わったが、その事実を知る者は限られている。
情報通を気取っている朱美ですらも、過去の情報を信じて現状の魔法学部の状況を把握していなかった。
魔法学部が本当の意味で生まれ変わるには、世間に広まっている過去の評判を払しょくする必要があるのだ。
そして粕田はそのための手段として、魔法少女関係者の中で有名人となったマスクドナイトNIOHのネームバリューを利用したいらしい。
「おいおい、本当に責任重要だぞ、天羽…。 おい、天羽」
「え、何っ? お兄さん…」
「お前…」
これから千春たちが作成する動画の如何によって、この魔法学部の運命が左右される可能性が出てきた。
今回の動画作成の活動が思った以上に大事である事を理解した千春は、動画作りの相棒である天羽の様子を伺う。
しかし声を掛けれた天羽は、辛うじてカメラを回している物の明らかに上の空の様子であった。
この様子では先ほどまで交わしていた粕田との話を、彼女が聞いていたかどうかも怪しい。
朝から感じていた天羽に対する違和感は、もう千春の中で捨て置けない段階にまで積み重なっていた。




