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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第二部 VS魔法少女
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6-5.


 千春たちは粕田に案内されて、魔法学部で使っている建物の中に入っていた。

 まずは実験の前に此処の魔法学部について、教授である粕田直々に紹介してくれると言うのだ。

 事前に聞いていた評判の悪さもあった、正直言って千春は魔法学部について期待をしていなかった。

 しかし結果的に千春の予想は、いい意味で裏切られることとなる。


「これは…、クリスタル!? それもこんなに沢山…」

「ええっ!? これって全部、魔法少女のクリスタルなんですか!?」


 そこはSF映画に出てくるような、如何にもなガラス張りの部屋であった。

 室内では魔法学の講師や学生らしい人たちが、何やら高そうな機械を操作している。

 更に部屋の中には鍵付きの棚が設置されており、その中身を見た千春たちは驚きを露にする。

 魔法少女の力の源というべき結晶、クリスタルが棚にずらりと保管されていたのだ。

 正確にはクリスタルが埋め込まれた剣や杖などの、魔法少女の武装や変身アイテムらしき代物が並べられている。

 数えて見ればクリスタルが10個近くもあり、つまりは10人近くの魔法少女からこれ集めたらしい。


「やはり魔法少女について研究するには、このクリスタルの存在は無視できません。 我々は様々なアプローチから、クリスタルの分析を…」

「き、教授。 こんな数のクリスタルを一体何処から…」


 よく見れば先ほどの学生たちは、あの機械を使って魔法少女のクリスタルについて調べているようだ。

 確かに魔法少女の力を研究するならば、彼女たちの力の源であるクリスタルが必要になることは分かる。

 しかしクリスタルは魔法少女にしか生み出せない貴重品であり、一体これだけの数のクリスタルをどのように集めたのか。

 見るからに動揺している千春の様子を、粕田は少々意地悪な笑みを浮かべながら見ている。

 どうやらこの展開は教授の筋書き通りに進んでいるらしく、粕田は嬉しそうに千春へ種明かしをしてくれた。


「矢城さん、あなたなら心当たりがあるのでは無いですか? 魔法少女が自らの手でクリスタルを捨てる例を…」

「魔法少女であることを辞めて、実質引退した魔法少女!? そうか、彼女たちから集めたのか?」


 粕田の話を聞いた千春の脳裏には、少し前に戦った使い魔のホープの姿が思い描かれていた。

 自らが生み出した使い魔を捨てて、平凡な女子高生としての生活を選んだ元魔法少女。

 成長した魔法少女が世間体などを気にして、魔法少女の力を捨てようとする例は決して珍しくは無い。

 現役で活動している魔法少女ならば、その力の源であるクリスタルを自ら手放すことはほぼあり得ない。

 しかし魔法少女を辞めてしまった者であれば、交渉の余地があるということか。


「はい、その通り。 私たちは密かに活動を停止した魔法少女に接触して、使わなくなったクリスタルを融通して貰っているのですよ。 幾ばくかの謝礼と引き換えにね。

 これだけの数のクリスタルを集めるのには、それなりに苦労しましたが…」

「へー、考えたな…」


 自慢げに魔法学部が集めたクリスタルの数々を披露する粕田であるが、確かにこれは胸を張れる物だろう。

 言われてみれば単純な話であるが、それを実際に実行してこれだけのクリスタルを集めたとは大した物である。

 魔法少女であることを捨てた者にとっては、クリスタルなどは使い道のないゴミと変わらない。

 そのゴミを引き取って貰えるうえに謝礼金まで出るなら、クリスタルを手放す者がいてもおかしくない。

 千春は魔法学部がクリスタルを集めた手管に素直に感心して、自然と感嘆の声をあげた。


「こんなに沢山の魔法少女が、クリスタルを捨てたんですね…」


 一方で魔法少女としてはベテランの域に達している佐奈は、若干悲し気な表情で棚のクリスタルを眺めている。

 佐奈自身も年を重ねるごとに、魔法少女として生きる事への生き辛さを実感しているのだろう。

 彼女にはクリスタルを捨てた魔法少女たちの気持ちが、ある程度は理解できるようだ。

 巡り合わせが悪ければ佐奈のクリスタルもこの棚の中に飾られていて、千春と出会うことも無かったかもしれない。

 自然と佐奈はポケットの中に手を伸ばして、自身のクリスタルがあることを確かめていた。











 仮にも魔法少女である千穂は、自らのクリスタルであれば毎日のように見ている。

 しかし他の魔法少女のクリスタルは余り見た事は無く、こうしてずらりと並べられていると中々圧巻である。

 クリスタルは一つとして同じ色の物が無く、似た色はあっても比べて見れば違いが見て取れた。

 色とりどりのクリスタルの姿に目を奪われた千穂は、彼女のクリスタルを持つ使い魔のリューへと話しかける。


「一度にこんな数のクリスタルを見たのは初めて…。 すごいねー、リュー。 …リュー?」

「…□□っ!」

「…ΛΛΛΛ、Λ!」


 使い魔の反応が無いことから視線を棚のクリスタルから手元に移した千穂は、そこで抱えていた筈のリューが何処かに消えていることに気付く。

 普通なら重さが消えた時点で分かるものだが、それに気づかない程にクリスタルの輝きに目を奪われていたのだろう。

 慌ててリューの姿を探す千穂の耳は、この研究室に隣接する部屋の中から聞き覚えのある鳴き声が届いた。

 リューのそれと似ているが微妙に異なる鳴き声も聞こえてきたので、千穂は恐る恐るその部屋の中を覗き込んだ。


「□□□□、□□!」

「ΛΛ、ΛΛΛΛ!!」

「えっ、これって使い魔?」


 部屋の中には予想通り、千穂には見慣れた手乗りサイズの小さなドラゴンの姿があった。

 しかし千穂に予想外だったのは、リューと何やら話をしているらしいもう一体の存在である。

 頑丈そうな檻に入れられたそれは、四つ足の獣のような姿であった。

 千穂は最初はその獣をライオンと思ったようだが、すぐにそれが間違いであることに気付く。

 普通のライオンに翼がある筈も無く、尻尾が蛇になっている筈も無い。

 その異様な姿と額に光るクリスタルから、それが魔法少女が生み出した使い魔であることは明白だった。






 粕田の反応を見る限り、元々の予定ではこの使い魔をお披露目にするのはもう少し後だったのだろう。

 それがリューと千穂の先走りで前倒しとなり、なし崩し的に千春たちは隣の部屋へと通された。

 そして千春たちは千穂たちに続いて、檻の中で飼われている凶悪な見た目の使い魔の姿を見付ける。


「へー、使い魔まで居るのか…」

「はい、この子は今では私たちの家族ですよ。 名前はタナトスと言います」

「多分、キマイラを意識した使い魔なんだろうな…。 この感じだと日常用の形態は…」

「当然ありません。 私たちが引き取って無ければ、この子もあのホープと言う使い魔と同じ目にあっていたかもしれません…」


 獅子と羊の龍の顔を持ち、龍の翼を生やし、尾が蛇となっていると伝承で語られているキマイラ。

 この使い魔は明らかにキマイラをベースに生み出されており、中々迫力ある見た目となっていた。

 一体この使い魔を生み出した魔法少女が、どんな思惑があってこんなモンスターを作ったかは定かではない。

 しかしこの厳つい見た目に加えてリューのような日常用の形態が無ければ、一般家庭でこんな使い魔の面倒を見切れる筈が無い。

 下手をすれば何時かのホープのように捨てられてた可能性もあったので、この使い魔に関しては魔法学部に引き取られたことは幸運と言えるだろう。


「お前、捨てられたんだね…」

「□□□□!」

「ΛΛΛ、ΛΛΛ!!」


 魔法少女が自ら生み出した使い魔の世話を放棄して、あろうことに魔法学部にそれを売り渡した。

 使い魔であるリューを家族として迎え入れて、共に生活をしている千穂にはとても信じられない事なのだろう。

 千穂は僅かに声を震わせながら、優しく檻の中への使い魔へと語り掛ける。

 しかしそんな千穂の心情を尻目に、タナトスはリューと楽し気に会話をしているようだ。

 ゲームの敵キャラとして出てきそうな恐ろし気な風貌の割には、暴れる気配もなく大人しい物である。

 元ネタであるキマイラと同じギリシャ神話において、死を意味する"タナトス"と言う物騒な名前を付けられた使い魔とは思えない。


「…もしかして、意外に優しい子なの?」

「見た目で損するタイプで有ることは確かです。 本当ならこんな所に入れたくないんですが…」

「流石にこの見た目だと、外には出しておけないか…。 お前も苦労しているな…」


 檻の中で退屈だったのか、キマイラ型使い魔のタナトスは楽し気にリューとお話をしている。

 尻尾に生えている蛇の顔がリズミカルに振られており、見るからにご機嫌な様子だった。

 粕田の反応を見る限りではこの使い魔は、檻から出してあげても問題を起こすことは無い良い子なのだろう。

 しかしそのモンスターその物の見た目から、どうしても放し飼いが出来ずにこうして檻での生活を強いられているようだ。

 千春は檻の中に押し込められている凶悪な使い魔の姿に、憐れみを覚えるのだった。



昨日は疲れていて、更新をサボってしまいました…

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