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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第二部 VS魔法少女
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6-4.


 渡りのモルドンとの戦いでなし崩し的に共闘した魔法少女、マジカルレッドこと花音。

 今回千春にお声が掛かった実験のために、当日までに彼女に代わる魔法少女を探す羽目になってしまう。

 千春の方で魔法少女の伝手が無い場合は、実験を主導する魔法学部側で代わりを用意するとも提案はされていた。

 しかし事前に聞いた実験の内容を考えると、出来れば手の内を把握している魔法少女に手伝って欲しいと考えようだ。


「実験は今度の日曜日、ウィッチはその日は家の店でバイトの筈だ。 先輩を呼べれば、話が早かったんだけどな…」


 最初に選択肢に上がったのは、千春と同じ街で活動する先輩魔法少女であるウィッチこと友香であった。

 過去に共同でモルドンと戦った経験もあり、ベテラン魔法少女であるウィッチが手伝ってくれるなら心強いだろう。

 しかし千春はすぐに友香を選択肢から外した、喫茶店メモリーで働く彼女を呼んだら寺下に迷惑が掛かるからだ。

 寺下の事だから相談すれば笑って許してくれるかもしれないが、流石にそこまで甘える訳にはいかないので諦めるしか無い。


「…知り合いの魔法少女ね。 ウィッチ以外だと誰が居るかな…。 リューの所は既に話が付いているから除外。 マジカルレッドに気軽に声を掛けられる仲だったら、そもそもこんな風に悩んでいない。

 後は魔法少女絡みの依頼で関わった連中しか居ないしな…」


 千春はこれまでに関わってきた魔法少女の姿を次々に思い返すが、どの名前もピンとこない。

 例えばサイキック系魔法少女である間野は、恐らく未だに有情の件で千春を恨んでいるので協力する筈も無い。

 それならば一緒に事件を追ったマジゴロウなら、事情を話せば手伝ってくれる可能性は高い筈だ。

 しかし未だにマジマジのファミリアショーを再開せず、自粛している状況の彼女には声を掛けずらかった。

 荒っぽい実験になりそうなので、邦珂などの小学生魔法少女を巻き込むのも流石に気が引ける。


「お、誰からだ? …ああ、そういえばこの子が居たな」


 悩む千春を邪魔するように、携帯が振動して新しい着信が来たことを伝える。

 携帯を手に取って確認した千春は、チャットソフトに新しい書き込みをした送り主を知る。

 その瞬間に千春の悩みは途端に解消したようで、早速返信として実験について誘ってみた。


「うわっ、早っ!? こいつ、ちゃんと文面読んでいるのか…。 まあ、とりあえずお礼だな。

 助かるよ、佐奈っと…。 後は詳しい情報を…」


 彼女はとある縁から千春と連絡先を交換しており、定期的に趣味の雑談を交わす間柄となった魔法少女であった。

 かつて千春と共闘した魔法少女NASAこと佐奈に対して実験の話を持ちかけた所、即座に返事が返って来たのだ。

 予想以上に速い反応に若干引きながらも、千春は協力を了承してくれた魔法少女に礼を述べる。

 こうして魔法学部から依頼された、渡りのモルドン戦を想定した実験に参加するメンバーが勢揃いしたのだ。











 この場に集まったメンバーの中で、全員と顔見知りなのは千春だけだ。

 初対面である者通しが軽く自己紹介をした後で、千春たちは実験に参加するために魔法学部のある大学へと出発する。

 千春は天羽たちと合わせるために、バイクを手押ししながら一緒に歩いていた。

 少し大変であるが駅からは魔法学部がある大学は、徒歩5分程度の距離なのですぐに着くだろう。

 目的地までの道中に千春は雑談がてら、これから実験を参加することになっている大学の概要について語り始める。

 何時もならこの手の解説役は朱美の担当であるが、残念ながら今日の彼女は別件で欠席である。

 進級に関わる大事な用事のようで、泣く泣く今日の見学を諦めたそうだ。


「これは全部朱美の受け入れだが、俺たちが向かっている大学は数年前に出来たばかりの新興の大学らしい。 そして大学が目玉として設立したのが、今日の実験とやらを企画した魔法学部らしい。

 まあ、名前だけでインパクトがあるもんな…、魔法学部なんて…」

「その…、魔法学部では一体どんなことを学んでいるですか?」

「いやー、やっていることは魔法少女研究会の似たか寄ったからしいぞ…。 そんなに偏差値のいい大学でも無いらしいし、どうも中身は適当ぽくって…」


 どうやら朱美は趣味である魔法少女関連の情報収集の過程で、魔法学部についても抜かりなく調べていた。

 しかし魔法学部という名前の割には、大した成果を上げていないようで朱美はすぐに興味を失ったようだ。

 仮にも大学で学部の看板を背負っている所の研究内容が、とある大学の一サークルと大して変わらない時点でお察しだろう。

 この大学の魔法学部は中身の伴っていない、生徒と言うお客様を呼び寄せるための張りぼてだと判断したらしい。

 今の話は魔法学部について少し調べれば誰でも分かる話であり、正直言って世間での評判は余りよろしくは無かった。


「だから朱美の奴は、今日の話を聞いて驚いていたよ。 あそこがこんな大掛かりな実験をするとは、信じられないって…。

 自分の目で見たかったて、悔しがってなー」

「だ、大丈夫なんですか? 何か怪しくないですか…」

「大丈夫だよ、多分実験とやらはしっかりとした物になるさ。 マスクドナイトNIOHを巻き込んだ大掛かりな実験風景を公開することで、低迷した評判を吹き飛ばそうって魂胆なんだろう。

 流石に此処で下手な真似はしないって…」


 魔法学部側の状況を聞いた限りでは、今日の実験とやらは学術的な代物では無くただのショーなのだろう。

 マジマジでの躍進や例の動画の件もあって、マスクドナイトNIOHの知名度はそれなりの物である。

 恐らくマスクドナイトNIOHを巻き込むために、わざわざ渡りのモルドンという名前を出したのでは無いか。

 一応魔法少女の伝手くらいは有りそうなので、あちらが用意した魔法少女の模擬戦辺りになると千春は予想していた。


「責任重大だぞ、天羽。 俺たちの動画の出来によって、この大学の未来が…。 おい、天羽?」

「…えっ、何?」

「…お前、本当に大丈夫か?」


 千春は顔を後ろに向けて、自分たちから一歩遅れて来ている天羽へと話しかける。

 しかしそこで千春が見た物は、俯きながら自分たちの後を歩いている天羽の姿であった。

 天羽は撮影用のカメラを鞄に仕舞いこみ、この感じでは千春の話も聞いていなかったようだ。

 その光景は千春に取っては予想外の物であり、最初の感じた違和感も相まって天羽の状況が心配になってくる。


「何時もだったら、動画のネタ集めのためにその辺を手当たり次第に撮りながら来ているよな。 それなのに今日は…」

「き、気にし過ぎよ、お兄さん。 私は単にこんな何でもない道を撮影しても意味がないと思って…」


 これまで天羽と動画作りをやってきた千春には、今の天羽の言葉は言い訳にしか聞こえない。

 例えば今日のように何処の目的地へ向かう内容の場合、その道中の絵を入れてから目的地を出すのが鉄板の流れになる。

 編集によっては省略する場合も十分にあり得るが、とりあえず選択肢を増やすために撮影しておくべきだろう。

 明らかに天羽は動画撮影のことが頭から抜けており、それは千春の知る限りではとても異常な事態であった。


「私は大丈夫よ、大丈夫って言っているでしょう! もう放っておいてよ、お兄さん!!

 ほら、二人が待っているよ、行きましょう!!」

「えぇ…」


 千春の疑念から逃れるように、天羽は少し先に自分たちの様子を伺っている千穂と佐奈の元へと駆け寄ってしまう。

 本当であればもう少し問い質したい所であるが、先方との約束の時間も迫っている。

 此処で長話をしては遅れてしまうため、千春は仕方なく疑問に蓋をして大学への道のりを再開した。











 その大学の建物は数年前に建てられただけあって、真新しい雰囲気の場所であった。

 汚れが殆ど見られない歩道、綺麗に整えられた芝生、太陽に照らされてピカピカと光る学舎。

 休日のためか学内の人影は殆ど無く、千春たちは邪魔されることなく大学の中を見物できていた。


「へー、やっぱり新しいだけあって綺麗だな。 朱美の大学とは大違いだな…」

「お洒落な大学。 こういうの、憧れるなー」

「これが大学の中よ、リュー」

「ふーん、中々絵になりそうね…」


 千春の知る大学と言えば、この前に実際に訪問もした朱美の通う地元大学である。

 あそこはそれなりに歴史のある大学であり、雰囲気で言うならこの新興大学とは正反対であった。

 先ほどのやり取りもあってか天羽も撮影を始めており、動画編集の素材集めに勤しんでいる。

 そのまま千春たちは構内をゆっくりと進んでいき、やがて事前に聞いていた建物へと辿り着く。


「此処が魔法学部、か…」

「…ようこそ、魔法学部へ。 私が魔法学部教授の粕田(かすた)です。 どうぞ、よろしく」

「はい、こちらこそ…」


 魔法学部というプレートが据えられた建物の前で、中年の男性が千春たちを出迎えた。

 教授を名乗る男は高そうなスーツを見事に着こなしており、髪も綺麗に整えられている。

 見た目だけなら大学の先生と言うよりは、高給取りのビジネスマンと言う風体だった。

 魔法学部教授の粕田はにこやかに微笑みながら手を差し出し、千春と硬い握手を交わしていた。




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