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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第二部 VS魔法少女
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5-15.


 予想通り紗良の鏡が破壊された事により、呪いに掛かった人間たちは一斉に目を覚ましたようだ。

 帰りの道中にシロに乗って空の上から様子を伺うと、呪いによって道路に倒れていた人たちが起き上がっている姿が見えた。

 この様子ならば魔法少女研究会の浅田や邦珂も、無事に呪いから解放された事だろう。

 千春は後ろを振り向き、後部座席に乗せた荷物が落ちていないことを確認する。

 気絶した状態で道路に置いておくわけにも行かず、仕方なく紗良の体ををバイクで運んでいるのだ。


「今回の事件は被害者が多すぎるな…。 大丈夫かな、絶対叩かれるぞ、こいつ…」


 一クラスを丸々呪いに掛けた上で、今日の無差別テロならぬ無差別呪いによって多数の被害者が生まれた。

 数日の内に上げられるであろう例の動画で、恐らく紗良が真犯人であることは街中に知られてしまう。

 動画内ではプライバシー保護のため、基本的に千春の関係者以外は目線加工などが施されている。

 しかし幾ら顔や名前が分からなくても、この街の人間ならば犯人が彼女であると察する者が出る筈なのだ。

 ゲームマスターのご加護で紗良が罪に問われることは無いかもしれないが、彼女への誹謗中傷は避けられないだろう。


「まあ、自業自得か…。 お前が何もしなくても、こいつは罰を受けるよ。 今はこんな奴を気にしないで、早く邦珂の元へ帰るぞ」

「▽▽▽っ…」

「○○、○○っ!!」


 千春は普段シロを入れている鞄に放り込まれた、日常用の子犬姿になったスカイへ話しかける。

 暴れるスカイを大人しくさせるために、千春はマスクドナイトNIOHの力で物理的になだめる強攻策に出た。

 その結果、スカイは先日と同様に強制的にこの状態にさせられてしまい、今は鞄の中で身を潜めている。

 千春に躾けられて怒りが収まったのかスカイは何処か恥ずかしそうに、鞄の中から微かな鳴き声を漏らしている。

 そんなスカイの声が面白かったのか、バイクと一体化しているシロは楽し気に千春との空の散歩を楽しんでいた。











 朱美たちの所に戻った千春たちを出迎えたのは、悪夢から解き放たれた邦珂であった。

 無事に邦珂や浅田も呪いから解放されており、この街で起きた呪い騒ぎの事件は終焉を迎える。

 後は事件の後始末などもあるだろうが、そこまではマスクドナイトNIOHの仕事ではない。

 時間が遅かったので街で最後の一夜を過ごた千春は、その翌日に街を去ろうとしていた。


「あ、お兄さん!」

「▽▽▽っ!!」

「おう、見送りご苦労」

「邦珂ちゃん、来てくれたんだー」


 この日が丁度休日だったこともあり、駅には千春たちを見送るために邦珂が来ていた。

 千春以外は此処で電車に乗り、千春はその後で一人バイクに乗って地元まで帰る予定となっている。

 彼女の腕には子犬姿のスカイが抱かれており、邦珂と同じように千春たちに挨拶をしてくれた。

 念願であった美波の無実を晴らして、呪い騒ぎを解決できたことで気が抜けたのだろう。

 今の邦珂には昨日までにあった焦燥感は無く、年相応の笑顔だけが見えた。


「昨日も話したけど、多分マスクドナイトNIOHの新作でこの街の話が動画に上がる。 そうしたらお前のお姉ちゃんが無実だったことは、街のみんなに伝わる筈だ」

「もし駄目だったら、私がこの事件の記事を書いてあげるから安心よ。 私はこれでもジャーナリスト志望なの、だから…」

「はん、お前の記事なんて誰が見るんだよ…。 こいつの記事なんかに頼らなくても、その時には俺のNIOHチャンネルで真実をぶちまけてやるかよ」

「あれは香ちゃんのチャンネルでしょう? 最近はNIOHチャンネルの方も全く手伝って無いくせに、こんな時だけ都合のいいことを…」


 動画が投稿される前提で話をするのも変な感じであるが、恐らく今回もゲームマスター様がこの街の事件をまとめてくれるに違いない。

 それを見れば自然と自殺した美波が無実であり、真犯人の魔法少女が別に居るが知られる事だろう。

 万が一にもゲームマスターの気まぐれで動画投稿がお流れになっても、情報を拡散する手段は幾らでもあるのだ。

 ただしその代替手段を巡って千春と朱美がぶつかってしまい、小学生の前で子供染みた口喧嘩を繰り広げてしまう。






 暫くして邦珂や魔法少女研究会の視線に気付いた千春と朱美は、今更ながら自分たちの恥ずかしい状況を察したらしい。

 無言で視線を合わせた二人は何事も無かったかのよう、邦珂との別れのやり取りを再開しようとする。

 頬を紅潮させながらも何でもない振りをする千春たちに対して、心優しい邦珂たちはそれに触れることなく会話を行う。


「…お兄さん、あの紗良って人はどうなるのかな?」

「あんまり良い事にはならないだろう、呪いに掛けられた連中には恨まれるだろうし…。 あいつのクリスタルの一部は俺が回収しておいたから、もう紗良って子には呪いの力は無い。 無力ないじめられっ子の中学生に戻ったんだよ」

「あの人、また虐められるのかな…。 美波お姉ちゃんみたいに…」


 気絶した紗良は情報源だった中学生たちに渡りを付けて、彼女の自宅まで送り届けて貰った。

 一晩経ったのでもう起きているかもしれないが、例え目覚めても紗良にはもう魔法少女の力は残っていない。

 死んだ美波を騙って呪い騒ぎを引き起こした紗良は、邦珂に取っては許されないことをした悪い人である。

 しかし紗良が美波と同じように虐められていた事を知った邦珂は、彼女に対して複雑な心境を抱いていらしい。

 優しかった美波が死を選ぶほどの苦境に晒されそうになったならば、それを甘んじて受け入れろなどと言う酷い事は言えない。

 それが呪いと言うとんでもないやり方であった事は大問題だが、紗良が虐めに抗おうとした気持ちは何となく理解出来た。


「よし、決めた。 私、紗良って人をいじめっ子から守って見せる!!」

「えっ、守るって…。 あいつはお前の姉ちゃんの名前を騙った悪人で…」

「勿論私はあの人のことを許せないし、もしかしたら一生恨み続けるかもしれない。 でも…、美波お姉ちゃんなら彼女を見捨てない筈なんです。 あの優しいお姉ちゃんなら…」


 千春は今回の一件は事が事だっただけに、紗良へのヘイトが集中してしまうのではと懸念していた。

 しかし千春の悩みを読み取ったかのように、邦珂は紗良の面倒を見ると言ってきたのだ。

 優しかった美波であれば紗良を救った筈であり、自分も同じ事をすべきだと邦珂は語る。

 本当に美波がそこまでの聖人であったのかは、彼女との直接の面識がない千春にはもう判断が出来ない。

 少なくとも邦珂の思い出の中の美波がそう言うならば、千春からは何も言う事は無いだろう。


「そうか…。 まあ、魔法少女が付いていれば、あいつもそこまで酷い事はならないだろう。 ああ、分かっていると思うけど、もしあいつがまた変なことを考えたなら…」

「その時はスカイにお仕置きして貰うよ。 ねぇー、スカイ!!」

「▽▽▽っ!!」


 当然ながら紗良の待遇は囚人のそれであり、少しでも悪さをすればキツイお仕置きが課せられる。

 魔法少女であった紗良との戦績が二戦全敗だったスカイであれば、喜んで紗良にお仕置きをしてくれるだろう。

 邦珂の管理下に置かれたならば、紗良のことを表立って責める者は確実に減る筈である。

 確実に以前よりは息苦しい生活にはなるだろうが、その位は紗良が犯した罪に比べれば軽すぎる罰だ。


「あ、会長。 そろそろ電車が来るみたいですよ」

「八幡さん、そろそろ…」

「あら、もうそんな時間? 邦珂ちゃん、私はこれでお別れね。 面白い事件を取材させて貰ったから、携帯のことは特別に許してあげるわ」

「うぅ、ごめんなさい。 ほら、スカイも謝って」

「▽▽…」


 朱美は邦珂へ別れの言葉を告げて、魔法少女研究会の連中と共に改札を通って駅の中に入って行く。

 此処で朱美が言っている携帯とは勿論、昨夜に邦珂が勝手に拝借してスカイがかみ砕いてしまったそれの事である。

 本人は気にしていないと言ったが別れ際に話題を出した時点で、朱美が携帯の一件を酷く気にしているのは明らかだった。

 可哀そうなことに邦珂はスカイと共に本当に申し訳なさそうな表情で、朱美向かって頭を下げていた。


「まあ、気にするな…。 あれは事故だよ、事故」

「私のお小遣いじゃ弁償できないですよね…」

「いや、本当に気にしなくていいから…。 あれはあいつの冗談で…」


 朱美も小学生に弁償させるつもりは無く、最後のあれは単なる冗談のつもりで言った筈だ。

 しかし邦珂は予想以上に重く受け止めたようで、真面目に弁償を検討し始めてしまう。

 本当ならば千春もすぐにバイクで帰るつもりだったが、この様子だと本気で朱美の携帯代を小遣いで貯めようとするかもしれない。

 千春は邦珂の誤解を解くために、もう暫く街に居続ける羽目になった。



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