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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第一部 魔法少女専門動画サイト"マジマジ"
9/384

3-3.


 魔法少女とモルドンの関係は表裏一体、魔法少女が有るところにモルドン有り、モルドン有るところに魔法少女有りという所だろうか。

 世間の心のない人たちの中には、魔法少女はモルドンを呼び寄せる疫病神という声も上がる始末だ。

 しかし此処10年のモルドンの出現パターンを分析したところ、少なくとも魔法少女とモルドンの出現の順序は必ず後者が先であることが分かっている。

 平和な街にモルドンが突如現れて暴れるようになり、それに対抗するかのように街に住む少女たちの中に魔法少女の力を持つ者が目覚めるという具合だ。

 千春たちが住む街も3年ほど前からモルドンが出始めるようになり、それに対抗するかのように"ウィッチ"が姿を見せるようになっていた。


「"………"」

「"■■■■!!"」


 千春がまだ高校生だった頃、街にモルドンが現れるようになって周囲は大騒ぎになったものだ。

 モルドンが現れる夜間の外出が厳禁となり、街中でモルドンが暴れた破壊跡を見かける事もあった。

 窮屈な生活が何時まで続くのかと、当時の千春は非常に不満を感じながら部屋で八つ当たり気味にゲームをしていた覚えがある。

 そんな状況の中で現れたのが我が街の魔法少女ウィッチであり、彼女の活躍によって街の平和が取り戻されたのだ。


「"■■っ、■■■っ!?"」

「"…"」


 実はウィッチの活躍は、"マジマジ"で検索を掛ければ見つけることが出来る。

 それは視聴者数が四桁にも届かない埋もれた動画であり、理由は実際にそれを見ればすぐに納得できるだろう。

 フードで顔を隠した少女が言葉一つ漏らすことなく、まるで駆除でもするかのように杖から出した炎をモルドンに放射する。

 マジマジで人気の魔法少女の動画とは一線を画す、華やかさの欠片もない地味な戦闘風景だ。

 肝心の魔法少女が絵になれば少しは人気もでただろうが、残念ながらウィッチはとても一般受けしそうにない。

 その素顔をフードで覆い隠し、童話の魔女が着るような身体つきが見て取れないゆったりとした黒ローブ姿を纏っているのだ。

 残念ながらウィッチの見た目は魔法少女というよりは、黒子でも称した方が似合うほどの地味さなのである。

 加えて明らかに野次馬が撮影したと思われる動画の質は非常に悪く、彼女がマジマジの人気を得られる要素は全くなかった。


「…………」


 手振れが酷い動画の中で全身黒尽くめの黒子は、モルドンを丸焦げにして核であるクリスタルを破壊し終える。

 体崩れて消えているモルドンを一瞥した後、ウィッチはその衣装が似合う夜の街へと消えていくのだ。

 余りの反響のなさに懲りたのか、"マジマジ"に投稿されている彼女の動画はこれ一本だけである。

 顔も名前も知られていない謎のウィッチ、それが千春の街を守る魔法少女であった。











 朱美の取り出した写真は、千春が過去にマジマジで見た動画の記憶を思い起こさせた。

 しかし朱美の取り出したそれは、先の動画とは比べ物にならない程にはっきりとウィッチの姿を捉えている。

 一体何処でこんな物を入手したのかと、千春はマスコミ志望の女の謎の情報網に底知れぬ恐ろしさを覚えた。


「おい、こんなもんを何処で手に入れるんだよ…。

 へー、流石に顔は分からないけど、こんなにはっきり姿が取れているウィッチの写真は珍しいな…」

「本当です。 私も競合になるかもと思って前に調べてみたんですが、だいたい見切れている画像とかしか上がってなくて…」

「この子は見た目と同じく、頑なに自分の正体を明かさない古き良き魔法少女だからね。 あんたたちに自分から目立とうとする方が、魔法少女的には邪道なんじゃない?」


 全ての魔法少女たちが動画配信などの活動を行っている訳ではなく、中には己の正体を隠して活動している者も居る。

 このウィッチも魔法少女としてモルドンと戦いながらも、己の活躍を周知せず世間から隠れるようにしていた。

 これが全国規模だったらもう少し露出が増えるかもしれなが、所詮は一つの街単位という狭い地域で活躍するローカルヒーローのような存在だ。

 自分から世間に露出しようとしなければ、その報告例は魔法少女とモルドンの戦いを目撃した野次馬がSNSに上げるくらいである。

 それに注目する人物も同じ街の住人しかなく、ウィッチの正体や素顔を知る者は一握りしか居ないであろう。


「うーん、私もウィッチのことは気になってたんですよね。 けれども連絡する手段も無いし、お兄さんとも色々と話し合ってみたんですけど…」

「結局、あっちからの反応待ちでいいかなと結論になったんだよな…」

「そんな訳無いでしょう? あんたも魔法少女業界の話は耳にしているでしょう、縄張り関係の揉め事を起こすと後に引くわよー」


 "マジマジ"で活躍する魔法少女に取っては、モルドンの出現は絶好の撮影チャンスである。

 仮にそのチャンスを他の魔法少女に奪われたら目も当てられず、自然と彼女たちは自らの縄張りと言うものを強く意識するようになっていた。

 このエリアは自分の縄張りだから他の魔法少女は入ってくるな、そのような宣言をして他を排除している魔法少女はそれなりに居る。

 動画投稿などの活動をしていないウィッチならば、そこまで縄張りに拘ることは無いだろう。

 しかしだからと言ってウィッチが、これまで自分が守ってきた縄張りで我が物顔で動画撮影をする輩を黙って許すとは限らない。

 実際に千春たちもウィッチとの縄張り争いを危惧していたこともあり、朱美の脅しに戦々恐々とした反応を見せていた。


「その口ぶり…!? お前、もしかしてウィッチに何か伝手が…」

「そうなんですか、お姉さん!?」

「ふっふっふ、そこから先はまだ明かせないわ。 これから私と仲良くなっていけば、その内分かる筈よ」

「おい、真実を公開するのがジャーナリストとの仕事じゃ無いのか!?」

「真実は明かすわよ。 ただし、真実を明かすのに最適な時と場所を見計らってね…。

 あ、コーヒーもう一杯頂戴。 あんたのまずいコーヒーで我慢してやるから」


 そう言って朱美は勝ち誇ったようにコーヒーカップを差し出し、図々しくもお替りを強請ってくる。

 情報を掴む物は世界を征する、現代社会の縮図のように千春たちは朱美の要求を呑むしか選択肢が無かった。

 承諾の返事の代わりに、千春は大人しくコーヒーカップを受け取って二杯目のコーヒーを作りに行くのだった。







 朱美との協力関係を結んだ千春たちは、とりあえず彼女の保証から暫くウィッチのことは気にしなくていいとのお墨付きを得ていた。

 長年の付き合いから彼女がこのような場で嘘やハッタリを使う性格では無いことを理解しているので、とりあえず保障とやらを信じていいだろう。

 その後、今後の動画配信の計画について三人で話を始めた頃に、その連絡が朱美の携帯に届いたのだ。


「…あら、早速役に立てる情報が来たわよ。 出番よ、バカ春」

「ん、出番?」

「今夜、この街にモルドンが出るらしいわよ、マスクドナイト様の活躍のチャンス到来よ!!」

「なんだって!!」


 人類の敵であり魔法少女配信者の飯の種である異形、モルドンの出現予告を受けて千春たちは色めき立つ。

 神出鬼没なモルドンの出現をなぜ予想できるかは分からないが、朱美の様子から見てこれがただのハッタリという事は無いだろう。

 千春たちはすぐさま、朱美からの情報を元に対モルドンの計画を立て始めるのだった。











 幸運にも何時の間にか現れた店長の寺下が自家用車を出してくれたことで、喫茶店に居たメンバー全員で移動することが出来ていた。

 店の仕入れなどにも使っているワゴン車に、バイクがある千春以外の全員が乗り込んでた。

 車内に何処か楽しそうに車を走らせる寺下、助手席に乗ってモルドンの場所まで案内する朱美、そして後部座席には撮影用の携帯を準備する天羽の姿があった。

 ワゴンの背後にはバイクに乗っている千春が続き、朱美の先導へ一心不乱にモルドンの元へと向かう。


「…あれです、あそこにモルドンが居ます」

「ほう、中々の大物だな。 あれがモルドンか…」


 店から車を走らせて十分ほどで朱美に指示された場所へと辿り着き、彼らは夜の街を闊歩するモルドンの元へと辿り着く。

 そこは住宅街の一角であり、二車線の狭い道路をモルドンが堂々と闊歩していた。

 前回の虫を思わせる多脚のモルドンと違い、今回のモルドンは四つ足の獣を思わせる姿をしている。

 その細身のシルエットからネコ科の獣にも見えるが、ネコが額のクリスタルから光線を放つ筈もない。

 どうやら道中で光線を乱発していたようで、モルドンの背後には破壊された住宅の壁や塀などの残骸が転がっていた。

 もう周辺の人間は避難したのか人の姿は見えず、千春たちは気付かれないように少し離れた場所に車とバイクを止める。


「おしっ、それじゃあ一仕事してくるぞ」

「準備オッケーです! 変身シーンからお願いしますね、お兄さん!!」

「あんまり無様を晒すと、私の方でNGシーンがてら投稿するからね」

「見ているぞ、千春くん」


 撮影モードにした携帯を構えて準備万端の天羽、便乗して撮影する気らしい同じく携帯を構える朱美、何やら腕組みをしながら千春を見守る寺下。

 それらの三者に見守られながら、千春は左腕を腰に当ててながら人差し指と中指を立てた右腕を天にかざした。

 千春の構えに呼応するかように、彼の腰付近は光に包まれて次の瞬間には赤いクリスタルが嵌め込まれたベルトが装着されている。


「…変身っ!!」


 魔法少女の杖に見立てた右腕は、そのまま円を描きながら360度回転して元の場所に戻る。

 そして杖を振るう魔法少女のように、正面に向かって右腕を振り下ろしながらお決まりの台詞を叫ぶ。

 すると千春の体は光に包まれて、次の瞬間にそこには彼の妹がデザインした守護神の姿へとなっていた。

 マスクドナイトNIOH、千春の二度目の戦いが始まろうとしていた。



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