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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第二部 VS魔法少女
89/384

5-14.



 美波と言う都合のいい隠れ蓑の影に隠れて、虐めから逃れるためにクラスを丸ごと呪いに掛けたオカルト系魔法少女。

 正面から虐めに立ち向かう強さが無い彼女に取って、ここ数日はまさに地獄ような日々だったろう。

 これまで何人もの魔法少女を倒してきた男が、自身が真犯人である事件を追い始めた事を知る。

 罪が暴かれることに恐怖するあまり、呪いも無いのに毎夜悪夢を見る程に紗良は追い詰められていた。


「い、嫌よ、私はまた学校に行って…。 折角、あの連中が居なくなったのに…、どうして…」


 虐めのターゲットにされる程に気が弱い紗良は、呪い騒ぎを起こした直後には罪悪感に苛まれたことだろう。

 しかし時が経つにつれて、彼女の中から呪いを掛けた罪の意識が徐々に薄れていく。

 やがて自分を虐めた者たちが消えた後での、平穏な学校生活に戻れる未来に希望を持ち始めていた。

 そんな矢先に紗良の平穏をぶち壊す、マスクドナイトNIOHと言う異物が街に現れたのだ。


「こんなことならもう少し早く、罪を告白していれば…。 きっとみんなが私の事を知っている。 もう終わりよ、私は終わりなんだわ…」


 千春たちが始めた調査活動の話を耳にした紗良は、忘れようとしていた自らの罪と再び向き合わされていた。

 こんな後ろめたい秘密を抱えたまま生きるのは辛く、もう全てを明かした楽になるべきかと何度も繰り返し悩んでいた。

 しかし酷な話ではあるが自ら罪を告白出来る程の強さが紗良にあれば、そもそも彼女が標的にされることは無かったろう。

 秘密を抱えたまま生きる道しか選べない紗良は、いよいよ隠された罪を清算する瞬間を迎えることになる。


「▽▽▽▽っ!!」

「ああっ!?」


 奇妙な鳴き声と共に空から舞い降りてきたのは、先ほども出会ったあの巨大な犬型の使い魔だった。

 スカイは自身の生みの親である邦珂に呪いを掛けた、憎き紗良に対して急降下しながら襲い掛かる。

 空から迫るスカイに気付いた紗良は、悲鳴を漏らしながら咄嗟に自身が生み出した鏡を操作する。

 紗良の指示に従って頭上に浮かんでいた鏡が、彼女を守る様にスカイに立ちふさがった。











 時は少し遡り、スカイが千春たちと共に紗良を発見した場面へと戻る。

 童話路線ならばそれはパン屑辺りだろうが、残念なが今回はホラー路線なので千春が使った道標は呪いの被害者たちである。

 自分の近くに居る人間たちに呪いを掛けながら進んでいれば、自然と道の上で眠っている人々が続いていく。

 シロの力で空から地上を見下ろせる千春は、簡単に呪いに掛けられた人間たちを辿ることが出来た。

 そして鏡らしき物を浮かべながら走る少女の姿を見付けた千春は、相手に気付かれないように空で静止する。


「あれが紗良って子だな…、呪いの鏡を見せびらかしているのか? 一体どんな目的があって…」

「○○…」


 此処に辿り着くまでに何人も呪いの被害者を見かけた千春は、紗良が何をやらかしたのか非常に気になっていた。

 その答えは覗き込むだけで呪いが掛かる鏡を表に出して、無差別に呪いを掛けているらしい紗良の姿である。

 あの状態で街を歩いてれば被害者が続出するのは当然であり、ある意味で納得できる光景であった。

 しかし千春たちに脅迫をしてまで、自分の正体を隠そうしていた紗良がどうしてあんな馬鹿な真似を始めたのか。

 意外過ぎる紗良の動きに面を喰らった千春は、まずは様子を伺った方がいいかと思案する。


「▽▽▽▽っ、▽▽!!」

「おい、スカイ! 待て、まずは相手の出方を伺って…」


 慎重論に傾きかけた千春であるが、そんな消極策を許さない一体の使い魔が居た。

 邦珂の仇と言うべき紗良が目の前に居る状況で、怒りに燃えるスカイがじっとしている筈が無いのだ。

 スカイは千春の静止の声を無視して、地上の更に向かって一直線に向かって行った。






 策も無しに飛び出した形のスカイであるが、この使い魔も全くの考えなしに動いた訳では無い。

 邦珂を背に乗せた状態で行われた紗良との最初の交戦で、残念ながら邦珂は呪いに掛けられてしまった。

 先の戦いで邦珂は、今のスカイと同じく感情のままに紗良の元に突っ込んでいった。

 しかし紗良の元に辿り着く前に、邦珂とスカイは眼前に突如出現した呪いの鏡をまともに覗き込んでしまう。

 スカイは邦珂と共に鏡を覗き込んだのに、呪いに掛かったのは邦珂だけだったのだ。


「▽▽▽、▽▽▽!!」

「いや、来ないで。 来ないで!!」


 紗良を守る様にスカイに立ちふさがる例の鏡、その鏡面には当然ながら犬型使い魔の姿が映し出されている。

 鏡を覗き込むという条件を満たしているのに、前回と同じくスカイが呪いに掛かる兆候は無い。

 自身を脅かす虐めグループを排除するため、紗良が構築した呪いは人間を対象にした能力になる。

 対人専用の呪いが使い魔に効く筈も無く、スカイは全く呪いを気にする必要が無いのだ。

 実際に前回の戦いでもスカイが呪いに掛かった邦珂の安全を優先しなければ、紗良はあの時に既に倒されていた事だろう。

 スカイは此処には居ない邦珂に代わって、美波を騙る卑怯者を成敗しようとしていた。







 残念ながらこの時のスカイは先の邦珂と同じく、怒りで我を忘れていて視野が狭くなっていたのだろう。

 自身に効果の無い呪いの鏡などを頭から無視して、スカイは紗良へ直接襲い掛かろうとしていた。

 確かにあの鏡の呪いはスカイには効果が無い、しかしながら呪いが無くともそこには確かに鏡と言う物体が存在している。

 そして紗良にはこの呪いの鏡を遠隔で操作する力もあり、頼みの綱である呪いが効かないスカイを見て半狂乱になった彼女がどうするかは明白だった。


「いやぁぁぁぁっ!」

「…▽▽!!」


 意識外からの攻撃を受けたスカイは、呻き声を漏らしながら地面に叩き落されてしまう。

 スカイを叩いたそれは丸鏡を支えている、血の様に紅いクリスタルが埋め込まれた土台部分である。

 自分に迫ってくるスカイの姿に恐怖した紗良は、咄嗟に鏡を操作して鈍器のようにスカイを直接殴りつけたのだ。

 頭に血が上って鏡の動きが見えてなかったスカイは、あえなく鏡の土台部分によって打ちのめされてしまう。


「…やった、やったのね」

「…ああ、予想外だった。 念のため、動いておいて良かったよ」

「なっ…」


 スカイを倒して一安心する紗良であるが、当然ながらこれで終わりでは無かった。

 紗良がスカイに引き付けられている間に、空から迂回して彼女の背後に回っていた千春が気軽に声を掛けてくる。

 それに反応した紗良が驚愕の表情を浮かべながら振り返るが、その前に千春のヴァジュラが鏡を撃ち抜く方が早い。

 千春の正確な射撃はスカイの傍で浮かんでいた例の鏡、その土台部分のクリスタルに命中していた。

 次の瞬間に全身に強い衝撃を感じた紗良の意識は薄れていき、その場に立っていられなくなる。

 意識を失う前に紗良が見た最後の光景は、ヴァジュラを構えるマスクドナイトNIOHの姿であった。











 それを覗くだけで相手を眠らせて戦闘不能にする鏡は脅威ではあるが、種さえ分かれば容易に対処は出来る。

 完全に出たとこ勝負ではあるが、上手くスカイを囮に使って紗良に接近出来たのは幸運だった。

 ヴァジュラの射程範囲まで近づければ後は簡単であり、千春は見事に紗良の鏡の破壊に成功する。


「終わったな…、多分これで呪いに掛かった奴も目覚めるだろう。 一応、クリスタルの欠片も回収しておいて…」

「▽▽▽っ!!」

「○○っ、○○!!」

「…なんだ? おい、止めろ、スカイ!!」


 厄介な紗良の能力を封じるため、千春は道路に散らばるクリスタルの欠片を回収していた。

 しかし千春がノックアウトで気絶した紗良に背を向けて屈んでいたら、背後の方が騒がしいでは無いか。

 振り向いてみればそこには気絶した紗良へ飛び掛かろうとするスカイと、機械羽でそれを止めているシロの姿があった。

 どうやらスカイはノックアウトだけでは気が晴れないらしく、先ほどの一撃に対する恨みも込めて紗良へ襲い掛かろうとしている。

 流石にクリスタルを破壊されて無力化した紗良を放ってはおけず、千春はシロと共にスカイを止めに掛かった。


「落ち着け、スカイ。 マジで暴れるなよ、お座り、ハウス!!」

「○○、○○○っ!?」

「▽▽▽▽っ!!」


 千春は慌ててスカイに飛びつき、シロと協力して気絶している紗良を守ろうとする。

 流石に千春とシロのコンビが相手ではシロに分が悪いらしく、スカイの体は完全に抑えられてしまう。

 しかしそれでもスカイは紗良に対する手を緩めず、千春たちの拘束から逃れようと動き続けていた。

 怒りで我を忘れているらしいスカイには千春やシロの静止も聞かず、ただっ子のように暴れまわる。

 最終的に切れた千春がスカイを殴り飛ばすまで、この不毛な延長戦は続けられるのだった。



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