5-6.
虐めが原因で自殺したとなると、子供を亡くした両親が学校を訴えたりして大騒ぎになる事が多い。
しかし今回の一件では学校側が上手く自殺の件を隠蔽をしたようで、その事実を知るのは学校の人間でも極一部らしい。
密かに行われたと言う少女の葬式には、かつて過去に少女と交友があった友人が参列したそうだ。
その友人から何人かを経由して、女子学生たちの耳にこの話が届いたと言う。
本当は個人情報なのでまずいのだろうが、千春たちは中学生たちから死んだ少女の名前をフルネームを聞き出せた。
恐らくこの名前から彼女の生死を調べる事は可能だろうが、女子学生たちの様子を見れば嘘は無いことは察せられる。
「今日はありがとう、色々と参考になる話が聞けたよ」
「いよいよ、魔法少女の幽霊と決戦ですか! 幽霊と戦うなんて、マジで凄いですよ!!」
「今回の話が投稿されたら、絶対見ますから! あ、ていうか戦う時になったら、俺たちも呼んでくださいよ!!」
「いーねー、生観戦! うわっ、NIOHさんの戦闘シーンみたいな…」
「はははは…。 か、考えておくよ」
一通り話を聞けたので今日の集まりはお開きとなり、会計をしている浅田以外は全員店から出ていた。
千春は魔法少女との戦いを見たいと無茶な頼みごとをする願う男子学生たちに、苦笑いを浮かべながら礼を述べている。
少し離れた所では女同士で話が合うのか、魔法少女研究会の由香里が女子学生たちと話していた。
そうして千春たちが地元の中学生たちと別れようとした所で、その少女がいきなり現れたのだ。
「…はぁはぁ、居たぁぁ! お、お前がNIOHだな!!」
「ん…、子供? ははは、子供にも知られているのかよ」
「おお、流石は有名人ですね!!」
「あれ、この子は確か…」
何処からか走ってきたのか、若干息を荒げている少女は千春は指差しながら大声をあげる。
その見た目と背中のランドセルから小学生だと思われるが、こんな子供にまで存在を知られているとは本当に有名になった物だ。
千春は若干照れを感じている中、女子学生の一人がこの少女に見覚えでもあるのか何やら唸っていた。
「美波お姉ちゃんは悪くないんだ、お前は此処から出ていけぇぇ! やっちゃえ、"スカイ"!!」
「▽▽▽▽っ!!」
「はぁ、その名前は!? それにその犬っころはまさか…」
「…そうよ! 確かこの子は地元の魔法少女だわ、前にファミリアショーに出たことがある!!」
しかし少女の口から飛び出てきた名前と、それと共に背後から躍り出てきた存在が状況を一変させる。
その名前は中学生たちから聞いた死んだ少女の名前であり、体の中央部にクリスタルが光るそれは明らかに魔法少女の使い魔だったからだ。
この小学生くらい少女に見覚えがあった女子学生が、この子が地元で活動する魔法少女であると教えてくれた。
明らかにこちらへ敵意剥き出しの新たなる魔法少女を前にした千春は、近くに居た研究会のメンバーに荷物を預ける。
そして一歩前に出た千春は、自衛のために二本指を立てた何時もの構えを取っていた。
ファミレスの営業妨害でもしたいのか、店の入り口前にいきなり使い魔を引き連れて現れた謎の魔法少女。
一体どんな事情があるかは分からないが、使い魔を仕向けられた状況では自衛のために動くしかない。
腰に赤いクリスタルが埋め込まれたベルトを展開して、千春は魔法のステッキに見立てた右腕を一周させる。
そして魔法のステッキを振り下ろしながら、千春は己の体に宿す魔法少女の力を展開した。
「…変身っ!!」
「▽▽▽▽…」
「おお、マスクドナイトNIOHの変身シーンだ!!」
「かっけー!!」
「へー、あんな感じなんだな…」
千春の体は一瞬の内に光に包まれて、次の瞬間にそこには東洋風の赤い鎧を纏ったヒーローが登場した。
架空の特撮作品であるマスクドナイトに、仁王像の要素を合体させたマスクドナイトNIOH。
AHの型へと変身した千春は、こちらを威嚇するように唸り声を上げる使い魔と対峙する。
そして千春たちから少し離れた所では、まだ帰ってなかった中学生がすっかり観戦ムードになっていた。
「おい、一体どういうつもりだ。 俺には襲われる理由は…」
「五月蠅い! ここは私の街だ、お前なんか来なくてもいいんだよ!! やっちゃえ、スカイ!!」
「▽▽▽っ!?」
「縄張り争いか? 否、そんな感じでも無いな…。 くそっ、死んだ子の名前も出していたし、多分何か知っているよな…。
仕方ない、まずは話が出来る状態にしないとな!!」
完全に初対面の魔法少女に襲われた千春は、当然のように相手にその理由を問い質す。
しかし魔法少女はその質問に殆ど答えることなく、千春を街から追い出そうと使い魔を仕向けた。
その言動から魔法少女同士で偶にある縄張り争いの一種だとも考えたが、目の前の少女の様子を見るとそれも違う気がする。
相手が呪い騒ぎの犯人と目される少女の名前を出したこともあり、この魔法少女も例の事件について何か知っているかもしれない。
千春はこの魔法少女から色々と話を聞きだすために、まずは障害となっている使い魔を力尽くで無力化することに決めた。
「ええ、本当に此処で戦うの!? すごーい!!」
「やっちまえー、NIOHさん」
「会長! こっちです、早く!!」
「私はいいから撮影を始めたまえ! 貴重な資料を絶対に撮り逃がすな!!」
「…ていうか中学生共は邪魔だ! マジで危ないから、せめて研究会の連中の所まで下がってろ!!」
しかし闘志を燃やす千春に水を差すように、ギャラリーの呑気な感想が耳に入ってくる。
周りを見渡せば先ほどまで一緒だった中学生たちと、魔法少女研究会のメンバーがすっかり観戦モードになっているのだ。
流石に魔法少女に詳しい研究会の面々は自身の安全を確保するために、それなりに距離を開けて今回も持参したカメラで撮影を始めていた。
それに対して全く危険性を感じていない中学生たちは、千春たちから僅か数メートルと言う近距離で携帯を構えている始末だ。
こんな距離では普通に戦闘に巻き込まれそうなので、千春は中学生たちに安全な位置まで下がる様に叫んで注意した。
スカイと呼ばれていた使い魔はある一部分を除けば、以前に見たガロロとよく似た姿をしていた。
ファミリアショーでの露出もあって、ガロロは恐らくこの世界で一番有名な魔法少女の使い魔である。
スカイの背後に立つランドセルを背負った魔法少女は、先達であるガロロを参考に自身の使い魔を生み出しても不思議なことでは無い。
しかしスカイにはガロロには無い、千春としてはバイクと合体後のシロを思わせるような翼を持っていた。
当然ながらその翼が見かけ倒しの筈は無く、その名前の通りスカイは大空へと飛び上がる。
「▽▽▽…」
「はん、やっぱりそうくるか…」
互いに戦いやすい場所に移動するため、千春たちは自然に入り口付近から店に隣接する駐車場スペースへと移動していた。
空車が目立つ駐車場の空きスペースに立つ千春の頭上には、翼をはためかせながら上空へと上がったスカイが陣取っている。
スカイは獲物を伺う様に旋回した後で、勢いよく降下して千春の頭上から襲い掛かってきたのだ。
その様はまさに獲物を捕らえる鳥の様であり、その爪や牙を千春へと突き立てようと試みる。
千春はサイドステップでスカイの急襲を間一髪で回避して、地上に降りた瞬間を狙って拳を振るった。
「おらぁっ!!」
「▽▽…、▽▽!!」
「ちぃ、やっぱり飛ばれると少し面倒だな…。 シロに任せた方が楽だったかもな…」
自身に迫る千春の拳を前にしたスカイは、翼をはためかせて急上昇して、空中という安全地帯へと非難する。
マスクドナイトNIOHと使い魔のスカイとの初手は、互いに有効打なしで終わったようだ。
スカイの方はそれほど小回りが利かないらしく、空中からの急降下攻撃は速度はあるが直線的なので回避はそこまで難しくない。
しかし小回りが利かない代わりに馬力が強いのか、スカイは強烈な羽ばたきで瞬時に空へ飛び立って千春から逃げてしまう。
面倒な空を飛ぶ敵を前にした千春は、今更ながら自分の代わりにシロを出せば良かったと後悔していた。




